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原体験から成長へ――。「イースⅩ - NORDICS -」発売記念! 近藤季洋(日本ファルコム)×奈須きのこ(TYPE-MOON)スペシャル対談

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前作から4年ぶりに発売されるアクションRPG「イースⅩ - NORDICS -(以下、イースⅩ)」。その発売に合わせて、日本ファルコム株式会社の代表取締役社長の近藤季洋さんと「イース」シリーズの大ファンの奈須きのこさん(TYPE-MOON)の対談を実施。35年以上にわたる「イース」シリーズへの思いを語り合ってくれました。長く愛されるシリーズに懸ける思いとは?

――「イース」シリーズは35年以上にわたる人気ゲームシリーズです。お2人の「イース」シリーズとの原体験はいつごろになるのでしょうか。
奈須 やっぱり「イース Ancient Ys Vanished Omen(イースシリーズ第1弾、以下、イースⅠ)」の登場は衝撃的でしたね。そのころは中学生だったんですが、X1というパソコン(PC)を武内(崇/TYPE‐MOONのイラストレーター)がもっていて。そこで「イース」の存在を知ったんです。そのころのPCゲームは難しいものばかりだったんですよね。「イース」も戦闘は難しいけれど、それ以外は優しく、美しいイメージがありました。そして、最大の衝撃だったのが「イースⅡ Ancient Ys Vanished The Final Chapter(以下、イースⅡ)」のオープニングです。当時、あのオープニングにあこがれなかったオタクはいなかったと思います。自分はパソコンをもっていなかったので、毎日学校帰りに近くの家電量販店に行って、デモ画面をずっと見ていました(笑)。その時点で日本ファルコムさんはあこがれのメーカーになっていました。イースだけでなく、「太陽の神殿」など、新作を出すたびにユーザーの期待を上回ったものを出されていた。そのころ僕はファミリーコンピュータしかもっていなかったので、ファミコン向けに「イース」が移植されたときに、ようやく自分の手でプレイすることができた。とはいえ、ファミコン版はPC版からどうしてもスケールダウンしているので悔しい思いもしました。それでもおもしろかったんですけど。


「イースⅡ Ancient Ys Vanished The Final Chapter」メインビジュアル
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近藤 僕は奈須さんと年齢が近いこともあって、「イース」シリーズとの出会いのシチュエーションがよく似ていますね。僕のクラスにもひとりだけPCゲームを遊んでいる友達がいて。彼が「イース」とよく言っていました。それで「イース」シリーズを知りました。最初にプレイしたのは友達の持っていた「WANDERERS FROM Ys(イースⅢ)」でしたね。なんて音楽がきれいなゲームだろうと思ったんです。その友達が「将来はこのゲームメーカーに勤めたいんだ」と言っていて。そこからファルコムに興味をもちました。その後、僕はファルコムが出していた「英雄伝説」というRPGが好きになって。学生のころに大学でホームページをつくるという課題があったんですね。まだインターネットがメジャーじゃなかったころでしたが、それで「英雄伝説」のファンサイトをつくったら、大学のトップページよりもアクセス数が多かった(笑)。「コンプティーク」さんが僕のページを紹介してくださったこともありました。

――「コンプティーク」が!
近藤 そういう活動をしているなかで、ファルコムとの縁ができまして。開発中のゲームをテストプレイさせていただいたり、スタッフの方とご飯を食べさせていただいたりしたんです。そのときのメンバーに新海誠さんがいらっしゃったりしたんですけど(笑)。そうして、ファルコムに入社できたんです。それが信じられないことでしたし、僕はいまだにファルコムファンなんですよ。自分が今「社長」と呼ばれることもまだ慣れていない(笑)。
奈須 ははは(笑)。


「WANDERERS FROM Ys」より
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――そこまでお2人を魅了する「イース」シリーズのおもしろさとはどんなところにあるのでしょうか。
奈須 プレイ感覚やグラフィック、他の追随を許さないBGM、とたくさんありますが、自分的にはアドルや登場人物たちの感情を「感じる」ところでしょうか。「イース」は主人公を動かすこと、主人公の冒険そのものを自分の体験にできて、その結果として状況や人物関係が進行していく。そういう、アドルは自分ではないけれど、間違いなく自分の分身だ、と思わせてくれるゲームの醍醐味がつまっている。
近藤 そうですね。僕もひとつは、アドルが基本的にしゃべらないキャラクターだということがあると思うんです。たとえば「軌跡」シリーズでは、主人公が自分で自分の心情を説明するし、自分の主張をするんですけど、「イース」シリーズでは選択肢をユーザーが選ぶことで、より一人称の物語になりえているのかなと。もちろんシリーズを重ねていくなかで、社内から「そろそろアドルがしゃべってもいいんじゃないか」という意見が出ることもあるんです。でも、おそらくアドルがしゃべった瞬間につまらないゲームになるんじゃないかと思うところもあるんですよ(笑)。
奈須 確かにそうですよね。しゃべるとアドルの独特なキャラクター性がなくなるような気がします。シリーズものの都合ではありますが、アドルは新たな冒険をするたびに、レベル1に戻っているんですけど、それが何ていうか「まあアドルなら仕方ない」と思わせるものがあるんですよ。アイツ、いつも「新鮮な冒険」に拘る困った性癖なので。だから毎回、自分をいちから鍛え直すし、ヒロインと世界を救っても最後は別れて次の冒険へ旅立ってしまう。普通は獲得した地位とか富に執着するでしょ? でもしないんですよ、あの「プレイヤーの分身」は。それがとてももどかしいし、とても眩しい。まさに「翼を持った少年」なんです。なので、自分からせりふをしゃべるようになると、その独特さが消えてしまう気がします。
近藤 ははは(笑)。「イースⅧ-Lacrimosa of DANA-(以下、イースⅧ)」のときに、ユーザーの方から「アドルを結婚させてほしい」といった内容のお手紙をいただいたこともありました。
奈須 そう思っている人はいるでしょう自分もⅧあたりで「もう自分の幸せに固執していいんやで……」と思いました。
近藤 今まで実感がなかったんですけど、やっぱり、ヒロインとくっついてほしいという考え方もあるんだなと(笑)。

――35年以上にわたって受け継がれてきた主人公アドルの描き方、アドルの魅力が本作の特徴のひとつになっているんですね。
近藤 35年以上続いているRPGのタイトルで、ひとりの主人公を貫いている作品はあまりないと思うんです。
奈須 そうですね。

――おそらく任天堂さんの「ゼルダの伝説」のリンクくらいですよね。
近藤 そうかもしれませんね。「イース」は独特なタイトルだと思っています。


「イースⅧ-Lacrimosa of DANA-」メインビジュアル
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――お2人はゲーム開発に打ち込まれて、近藤さんは「イース」シリーズ、奈須さんは「Fate」シリーズを長く手がけられています。長くシリーズを続ける秘訣はどんなところにあるのでしょう?
近藤 今も初期の「イース」をプレイしたことが原体験として残っているし、いまだに「イース」が僕のゲーム開発のお手本になっているんです。緻密なシナリオ、説明しすぎないせりふ、ユーザーに感じ取ってもらう演出であるとか。そのうえで新しいことをやるというのが今の自分にとっていちばん楽しいことだと思っています。
奈須 そうですね。自分が知らない、新しいものが出てくると最初は受け入れられなかったり、危機感を覚えてしまったりする。そういうときに、新しいものをちゃんと受け入れて、そこにある文化を味わって、楽しんで、自分なりに取り入れていく。それができないとゲームづくりに疲れてしまう。ずっと現場でゲームをつくっていたいのだったら、新しいことは常に取り入れていかないといけないと思います。

――日本ファルコムさんもTYPE-MOONさんもゲームブランドとしては長い歴史をおもちです。どちらの開発現場も最初は少人数から始まったとうかがっていますが、現在はスタッフの規模はどれくらいなのでしょうか。
近藤 現在の社員規模は70人くらいです。今がいちばん人数のいる時期で、ちょっと前まで、「英雄伝説 零の軌跡」(2010年)あたりは32人くらいで、「イースⅧ」もそのくらいの人数でやっていました。当時のファルコムではゲーム内の開発だけでなく、ゲーム内のムービーや音楽、パッケージのデザインのDTP、デバッグもすべて、社内のスタッフでつくっていました。今はアウトソーシングできる部分は外部のスタッフにもお願いしています。
奈須 30人台であの「イースⅧ」を……。TYPE-MOONは今も昔も小規模なんですが、今は「Fate/Grand Order(以下、FGO)」はラセングルさんの「FGO」チームといっしょにやっているので、だいぶ規模が大きくなります。ラセングルさんの「FGO」チームを入れると、今のファルコムさんと同じくらいの規模かもしれません。
近藤 人数が少ないといいところと悪いところがありますよね。やっぱり、一貫性のあるものをつくるという意味では少人数のほうがやりやすい。物語とシステムの連携のようなことは、小規模の体制だからこそできるなと思います。少人数でつくっていたころは打ち合わせも必要なかった(笑)。
奈須 ははは(笑)。
近藤 人数が増えてくると、打ち合わせが必要になってくる。
奈須 それはわかります。少人数でゲームをつくっていると、スタッフ同士がツーカーというか、お互いに何をしたいかわかる。
近藤 そうそう。アイコンタクトみたいに「自分がこれをやるから、君はあれをやる」という感じで作業を進められるんです。
奈須 人数が増えると、新入社員をどう構えばいいのかわからなくて。
近藤 最近の子はあまり構うといけないんじゃないかと思って、いろいろ気を使ってしまいますよね(笑)。


「イースⅧ-Lacrimosa of DANA-」オープニングムービーより
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「イースⅧ-Lacrimosa of DANA-」より
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――若手が多い、新しいチームでのものづくりにはどんなおもしろさがありますか?
近藤 あんまり苦労していなくて、若手のスタッフにも「好きにやっていいよ」と言ってるんです。もちろん設定が間違っていたら言いますが、基本的には若手のアイデアをなるべくゲームに反映できるようにしているつもりです。たとえば「イースX」でもスケートボードで移動するという要素はチームのメンバーから出てきたアイデアですし、ボス戦で大技が出るときにカメラを切り替えた演出になるのも若手のスタッフの提案がもとになっています。作品のフレームは僕が決めているところもあるんですが、その中身はみんなでつくるという体制をとっています。「軌跡」シリーズはしっかりと管理されてつくっている作品なのですが、「イース」シリーズは若手がチャレンジする作品になっているという感じなんです。
奈須 「イース」シリーズはある意味で実験場なわけですね。
近藤 そうなんですよね。「イース」シリーズはトラディショナルなタイトルではあるんですけど、社内でも新しいことをやろうとしている場になっているんです。「イースⅧ」まではシステムまで自分でやってみようと思っていたんですけど、「イースIX -MONSTRUM NOX-(以下、イースⅨ)」で行き詰まりまして。どうしても「イースⅧ」の焼き直しになりそうだったんです。そこで振り幅を大きく取りまして、自分では出てこないアイデアをスタッフからどんどんくみ取って、「イース」シリーズを変えていこうと。「イース」は人を育てるタイトルになればいいなと思っています。僕自身が「イースI」「イースII」の原体験があって、自分なりに「イース」シリーズを継承してゲーム制作の力をつけていったところがあるので、次は「イース」シリーズで成長する機会を若手に与えることができればいいかなと考えています。


「イースⅩ - NORDICS -」より「マナライド」
スケートボードのような形をした《グリンブルボード》に乗れば水上や空中の移動が可能に
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奈須 「これまでの『イース』のアクションを踏まえながらも、重厚なアクションをやってみたい」とおっしゃっていたので、どんなものになるのか不安もあったんです。でも今日少しだけ「イースⅩ」をプレイさせていただいて、そんなことは杞憂だった。今回のアクションには「2人がチェーンでつながれて、2人ひと組でアクションをする」というルールがあるけど、快適な「イース」らしいアクションを実現していて、従来と新要素がちゃんとマッチしている。発売がめちゃくちゃ楽しみになっています。
近藤 昔の「イース」シリーズはトライ&エラーで少しずつ進むという感じがあったと思いますが、今の「イース」はこれまでより親切になっています。ただ今回の「イースⅩ」はちょっとだけ歯ごたえのあるところも残していて(笑)、たとえば一周プレイした後でもコンビアクションを追求できるところがあるんです。いろいろなコンビアクションができるようにかなりのバリエーションが用意されていますし、キャラクターの成長システムも変えています。「イースⅨ」までは戦闘を重ねて一定の経験値を集めることでキャラクターのレベルを上げてパワーアップをする形式でしたが、今回はポイントをさまざまな要素に割り振ることでキャラクターをカスタマイズできるようにしました。ぜひ、そのあたりもじっくりと楽しんでほしいですね。
奈須 僕は「Ys SEVEN」あたりから、毎年必ず「イース」シリーズをプレイするという、「イースⅧ」は3回くらいクリアし直してます……。「イースX」発売記念として、今年の夏は「イースⅨ」でもう一度、最推しの『人形』に会いに行きます。
近藤 ありがとうございます。「イースX」が多くのファンの方々に、どういうふうに受け入れられるか楽しみです。


「イースⅩ - NORDICS -」より「レリーズ・ライン」
特殊な成長ツリーでマナの力を解放していくことで、キャラクターの戦闘能力を強化していく
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※お2人のインタビューの別バージョンをニュータイプ10月号(発売中)にて掲載しております。ぜひ、そちらもお手に取ってお楽しみください。
また奈須さんの先行プレイレポートはこちら​から!

【取材・文:志田英邦】
【提供:日本ファルコム】

■「イースX -NORDICS-」
プラットフォーム:Nintendo Switch™、PlayStation®5、PlayStation®4
発売日:9月28日(木)予定
ジャンル:アクションRPG
プレイ人数:1人
CERO:C
パッケージ限定版:1万2100円(税込)
パッケージ通常版:8580円(税込)
ダウンロード通常版:8250円(税込)

リンク:「イースX -NORDICS-」公式サイト

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