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■■対談中にゲーム本編および、小説版のネタバレが入ります■■
野島:万城目さんが最初にプレイしたのは「メタルギアソリッド2 サブスタンス」だったそうですが、その時の印象ってどうでしたか? 「MGS2」が発売されたのが2001年で、その時は賛否が激しく分かれました。ソリッド・スネークでプレイしたかったのに雷電じゃないか!という文句がけっこう激しかった。今ではシリーズ中、屈指の傑作だという評価を得て今すが、当時は毀誉褒貶の嵐だった。これって、今の「MGSV」をめぐる状況にとても似てると思うんです。
万城目:僕は、主人公がスネークじゃない、ってことはまったく気になりませんでした。ものすごく楽しんでプレイしてたら、あっという間に最後までクリアしてて。で、仕掛けに気づくんです。「あ、こういうことだったのか」っていう驚きがありましたね。
野島:そうか、万城目さんはスネークでプレイしてない状態で「MGS2」から入ったから、スネークじゃないという違和感はそもそもなかったんですね。
万城目:そうそう。雷電、全然悪くない。このお兄ちゃんカッコいいって思ってました。でも徐々に、ゲーム中で起きていることが本当のことなのかあやふやになってきて、最後には混沌としてきて恐くなるんですね。自分が操作しているのが誰なのかわからなくなる不安がありました。大佐とかがおかしくなるでしょ、「川口能勢口、絹延橋――」とか駅の名前(注:兵庫県にある能勢線の駅名)を言いだしたり……あれがほんと恐かったですね。何やってるかわからなくなるし(笑)。
野島:「MGS2」はもともとつくる予定がなかったそうですね。以前、監督から聞いた話ですが、「MGS」が予想以上にヒットしたので、続編をつくることになったと。スネークはすでにアウターヘブン、ザンジバーランド、シャドー・モセスといくつものミッションを遂行した伝説の傭兵なわけです。いっぽうで「MGS2」はこれまで「MGS」で遊んだことのない人にも楽しんでもらいたい。その時に、はじめてプレイする人に、いきなり伝説の傭兵になってもらうのは難しい。初心者がスネークでプレイして、それが弱かったら伝説の傭兵じゃなくなるし、それ以前にスネークの伝説や来歴を初心者にも伝えなければならない。それをストレスなく解決するためには、雷電というキャラクターをプレイヤーキャラクターにするのがいいだろうと。その雷電をサポートする立場として、スネークは別個のキャラとして登場させる。スネークは客観的な存在になるから、伝説の傭兵という彼の物語はゆらがないわけです。これって、「MGS」がただのゲームじゃなくて、「物語のあるゲーム」ならではの仕掛けだと思うんです。プレイヤーが雷電とともに伝説の傭兵に近づいていく。この構図って、「MGSV」にとても似ていると思います。
万城目:ああ、そうかもしれないですね。僕は今、「MGSV」はサイドオプスまで全部クリアした状態なんですが、メインミッションを終えた時に「小島さんはなぜこうしたのか」を考えたんですね。で、「裏切らなければいけない」と小島さんは思ったに違いない、と。たとえば、みんなはこういう物語を求めているとして、創り手としてはいかにそれを裏切るか、ということが肝だったに違いない。裏切ると言っても、それは、ユーザーを突き放すとかそういう意味じゃなく、みんなが望むのと違う所からいかに創るか、物語を語るかということを考えたんだろうと思うんです。
小説家なら読者を、ゲーム作家ならプレイヤーを裏切らなければいけないんです。みんなが求めている物語じゃないかもしれないけど、みんなが予想できる物語だったら、小島さんは「MGSV」を何年もかけて創らなかったと思うんですよ。裏切らなければならない、そのために誰も思いつかないところから切りこむ、というところに小島さんの創るというモチベーションが生まれるわけで、そうじゃなかったら「MGSV」は生まれなかったということを強く思いましたね。
野島:万城目さんはまったくまっさらな状態で、なんの情報も入れずに最後までプレイしたんですよね。ラストの真相にたどりついた時、どういう気持ちになりましたか?
万城目:プレイ中に、なんとなく影武者ぽいなと気になりながらも、「これどういう話になるんだろう」と思ってました。でもそれがまさか自分だ、プレーヤー自身だとは思わなかったです。真相がわかって感じたのは、ずっと隣にいた自分の妻が突然知らない人になっていた、みたいなちょっとホラーな気分でした。一緒に暮らしていた家族が実は知らない他人だった、みたいな感じです。こういうゲーム体験は、まったくしたことがなかったです。
野島:僕はノベライズの作業の時に、シナリオを読ませてもらっていたんですが、あの真相を知って、これは「MGS2」以上に誰も創ったことのないゲームだ、って興奮したんです。「MGS2」もゲームでしかできない大発明だったわけですが、今回はそれを超えていると。「MGS2」は雷電というキャラを通じてユーザーがスネークに限りなく近づくという仕掛けだったわけですが、今回のはユーザーがスネークそのものになる、伝説を聞く側ではなく創る側に踏みこませる仕掛けです。「MGS2」を経験したユーザーは、あれと同じことをやってももう驚かない。その予想を越え、裏切るようなとんでもない仕掛けだと思ったんです。
万城目:そうです。小島さんが新作を創るモチベーションは、そこにこそある。それはみんなわかっているはずなんです。【対談その3に続く】