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■■対談中にゲーム本編および、小説版のネタバレが入ります■■
野島:スカルフェイスがわりとあっさりと死にますよね。これまでのシリーズならスカルフェイスとのボス戦があったはずなんだけど、今回はそれがサヘラントロプス戦になっている。僕もシナリオを読んだ時に、あれ?って思ったんです。ここが一章のクライマックスなのに、って。ノベライズをやる時に監督に、「これは敵を倒したあとに、仲間を失っていく話なんだ」と言われたんです。敵を倒すというゲーム的な高揚感よりも、その後に仲間を失う喪失感を書いてほしい、と。スカルフェイスが死んでも報復心が残っていて、それが味方を失わせていく。それでレナードという小説だけのオリジナルキャラをつくりました。仲間、といってもさすがにオセロットやミラーは殺せないので、固有の名前をもったキャラを出そう、と。
万城目:プレイしてる最中から悲劇の予感は濃厚に匂うじゃないですか。でも、その悲劇を受け止めて消化するにも、やっぱり時間がかかるんでしょうね。
野島:クワイエットを失う直前のシーンがあるじゃないですか。ボロボロになったスネークと気を失ったクワイエットが岩陰に隠れていて、それをソ連兵が捜しにくる。で、兵士がクワイエットを咬もうとする毒蛇の頭を撃ち抜いて去っていくシーンです。あれを見せてもらって、ものすごく感動したんです。あの兵は、スネークたちに気づいていたはずなのに、見なかったことにして去っていく。
万城目:ああ、そう思いました? 実際そういう意図なんですか?
野島:あとで監督に聞いたら、どうとでもとれるような演出にしてある、と。でも僕は、あのソ連兵は確信犯でスネークたちを逃がしたんだ、と理解したんです。名もないキャラクターのいちソ連兵が、最大の敵、復讐の対象をわざと見逃す。彼は彼で、報復の連鎖を止めようとした。こういうシーンに作品の本質的なメッセージがあるなんて、たまらん!と感動したんです。
万城目:深いなあ……。
野島:そしてそのあとのクワイエットの決断ですよ。もうこのあたりのエピソードは思い返すたびに泣きますよ(笑)。
万城目:だからクワイエットは帰ってこれないんですよね。頭ではわかるんですけどね、でも帰ってきてほしいなあ(笑)。
野島:「V」ってこれまでのシリーズに比べて、カットシーンやキャラのセリフ、ストーリー展開についても、いろいろな解釈の余地があると思うんですね。いっぽうで「MGS」や「MGS2」では、テーマをキャラクターのセリフで説明させている。それはハードのスペックの制約が大きかったせいで、それこそ行間を読ませるような演出が難しかったからじゃないか。「MGS2」であれば最後にスネークが雷電にセリフでテーマを説明してくれる。僕らはそれを文字どおりに受け止めればよかった。でも、「V」ではゲーム的な自由度が上がったのと同時に、物語の解釈の余地も広がったんじゃないかと思うんです。
もちろん、今回、サーガを完結させるために、オセロットをはじめとするシリーズを通じて登場するキャラの設定には改変があったりしますが。
万城目:小説家の目から見れば、28年前に生まれた物語を、今になって完璧な整合性をもってひとつのストーリーにするというのは、無理がある。そんなことできる人間はいない、できるほうが不自然ですよ。物語は機械がつくるんじゃない。つじつまがあわないとろがあるのは当然ですよ。あってもそれはヒューマン・エラーなんだから。それも含めて自然な一人の人間が創った作品なんだから、愛そうよ、と思いました。
28年間、一つの作品に対し、高いモチベーションを保ち続けるというのは、同じ経験をした人が世界にほとんどいないくらい、難しいこと、孤独なことだと思うんです。今回の「V」が出たということが、何よりの成功、ミッションコンプリートだと思います。
野島:「V」というゲームを最後までやって、もう一度最初からたどり直すと、ラストに至るまでの展開に物語や設定の嘘はひとつも入っていない。けれど、解釈の幅はものすごく広い。それが「ユーザーにゲームを返す」ということなんじゃないか、と思います。これまでビッグボスやスネークが、モニターのこちら側にいるプレイヤーに語ったメッセージを、こんどはひとりひとりが創る。僕たちがビッグボスになることが、サーガを完成させる。これが「メタルギア」の最終的な攻略なんじゃないでしょうか。