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万城目学&野島一人「メタルギア」対談[その5]

■■対談中にゲーム本編および、小説版のネタバレが入ります■■

野島:一般社会から見たら、ビッグボスたちは犯罪集団で、それでもマザーベースのメンバーはみんなスネークのようになりたいと思ってる。プレイヤーの視点からだと、それが正しいことのように、ヒロイックな行動に見えてしまう。

万城目:ヒューイだけが唯一の外側の視点なんです。でもゲームをやっている時は、その比較的まともな視点の持ち主をマザーベース全員で排除しちゃうんですよ。ヒューイが船で流されていく時も「きみたちは、ただの悪者なんだよ! きみたちはどうかしてる!」って、正論を言うでしょう。そうなんだけど、ムカつく(笑)。

だから、もしかしたらヒューイ以外の外部の視点から見たマザーベースの立場、という描写なり説明なりがあれば、もっとダイアモンド・ドッグズという存在がわかりやすかったかもしれないですね。ビッグボスたちがやっていることは、世界の大半からは悪としか認識されないことは、現実に今、世界で起きていることを、僕たちが実際にどう捉えているかにスライドさせて考えればわかるんですけど、それを納得するにはある程度、世界情勢についての知識や理解がないとわかりにくいかもしれないですね。そういう視点から見れば、ビッグボスが「悪に堕ちて」いることはあからさまですよね。マザーベースは核兵器ももっているし、ボスを含めた二、三人の極めて個性的で偏った思想の人間が集団の意志決定をしているし、危険極まりない集団ですよ。アメリカを筆頭に西側諸国から見たダイアモンド・ドッグズはこんなにも国際秩序を乱す悪の集団、愚連隊として報道されているとか、そういう描写があれば明解になったかもしれないですね。ビッグボスたちは自分たちの信念で活動しているけど、外部の報道では常にならず者扱いされているとか。もちろん、ビッグボスやミラーたちは、そう認識されているとわかった上で、より自分たちの存在感を増やす方向に進んでいくわけです。どんどん世界の悪者になっていく。

野島:ああ、そうですね。そういう視点があると、よりわかりやすかったかもしれません。小説版で強調したかったのは、「誰もがビッグボスになりたがっている、そしてそれは可能なんだ」ということでした。「MGS2」の小説で雷電や語り部の少年がスネークという英雄に感染したように、今回のマザーベースのメンバーは英雄に感染する。それはゲームのプレイヤーも同じはずなんです。プレイヤーはビッグボスになれる。そしてビッグボスたちの行為が犯罪であり悪であれば、それが感染して悪に堕ちる。ビッグボス=ユーザーが悪に堕ちていくお話が、「V」なんじゃないかと。

小説版の二章で、ダイアモンド・ドッグズの兵士が「第三の子供」の秘密を記したマイクロフィルムを回収に行くんですが、これはゲームではスネークのミッションなんです。この改変で「誰もがビッグボスになれる」ということを示したかったんです。

万城目:なるほど。それはわかるんですけど、やっぱりね、ゲームだと見た目がビッグボスでしょ。プレイヤーとしては遠慮しちゃうんですよ。「いやいや、僕そんなに強くないですから。ビッグボスなんておこがましい」って(笑)。見た目が雷電みたいに別のキャラだったり、もっとヘタレだったらまだいいんですよ。そしたら僕らと一緒だから。

野島:ああ、そうですね(笑)、それはすごくよくわかる。僕のビッグボスも相当なヘタレですからね(笑)。

万城目:だから徐々に思うようになるんでしょうね。自分がビッグボスと名乗るに足ると思えるようになるには時間がかかる。【対談その6に続く】

■万城目学(まきめまなぶ)
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した「鴨川ホルモー」でデビュー。「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」「偉大なる、しゅららぼん」など、多くの作品が映像化されている。最近作に「とっぴんぱらりの風太郎」「悟浄出立
」。文芸カドカワで「バベル九朔」連載中。
また、「メタルギア」シリーズの大ファンでもあり、小島監督とも交流がある。
「MGS V」についてのインタビューはwebサイト「シネマトゥデイ」の以下のページにも。http://www.cinematoday.jp/page/A0004677

■野島一人(のじまひとり)
蛇年。小島監督ではない。「メタルギアソリッド」のノベライズを手がける。
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