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〝佐藤友哉〟を知るにはうってつけの、凄惨な青春譚――「放課後にはうってつけの殺人」佐藤友哉インタビュー

ニュータイプ2026年2月号(2025年1月10日発売)のBOOKページにて掲載した「放課後にはうってつけの殺人」著者・佐藤友哉インタビューを、WebNewtypeにて公開いたします。皆さまお楽しみください。


「放課後にはうってつけの殺人」カバー


「地元を舞台に選んだこともあり、気づいたらおなじみの(?)たくさん人が死んでしまう物語になっていました」
 けれど、これまで佐藤友哉自身がつづってきた発露とは異なると明かす。
「僕は、'01年『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』でメフィスト賞を受賞しデビューしました。それら初期作品はバブルの恩恵も何もないまま、ただ衰退していくだけの地方都市に生まれ育った僕が、ひと言、何か言ってやらないと気が済まない、という怒りのままぶちまけた心情でした」
 しかし、今回は令和がたたえる空気を意識したという。
「ゼロ年代の中学生時代はかなりトゲトゲしていたと思うんですが、令和の中学生はもっと平坦、あるいは空っぽというか、たとえばAIみたいな無機質さがあるんじゃないかと感じていました」
 語るとおり主人公は中学生。舞台は昭和が終わろうとしていた'88年の北海道千歳市。クリスマスイブの夜、13歳の浅葉悟はある理由から父の部屋へ忍び込み、血のついたコートを見つけて思わず持ち出してしまう。
「悟は代わり映えのしない地方都市の、ごく普通の家庭に生まれ暮らしています。日常に不満もなく悩みもなく、鬱屈もない。特別に何か変えたいこともなく、考えることもしない。だからこそ目の前にあることを見落としつづけて、あらゆる選択を間違えてしまう」
 描かれるのは、とてつもないスピードで崩れていく平穏。TVでは最近起きた女児殺害事件のニュースが流れ、父と同じ白いワゴンの目撃情報を報じ、防犯の注意と称し警察が訪れる。事件との関連におびえた悟は、愚かにも深夜にひとりで家を抜け出しコートを燃やしてしまう。その現場を目撃していたのはクラスメイトの見船美和。かくして少年と少女は、ある約束をかわすことに──ひとつの行動が連鎖して、悟ばかりか読む者をも振り回す。
「ウェブ連載をまとめましたが、連載当時は三人称視点でした。でも書籍化に向けて、あえて悟視点の一人称に変えました。さらに当時は、あまり構成を考えずに次回に向けて盛り上がりをつくったために、ものすごく長くなっていたので、余計だと思うものをとことん削っていきました」
 文体も意識して変えた。
「いっしょにバンド活動をしている滝本竜彦さんと『令和にふさわしい文体があるのではないか』という話をしていて。その後、滝本さんが実際に文体を変えて作品を発表していることに納得し、僕も書いてみようと決めました」
 テンポや読みやすさも心がけた。
「視点の変更も文章を『~であった』を『~だった』に変えただけでなく、ライブ感を重視してブラッシュアップしました。展開は同じですが、ある意味、これは新作です!」
 ただ、そこには不安もあった。
「もしかしたら大吟醸酒をめざすあまりに米を磨きすぎてつるつるになってしまったんじゃないかな、とか考えてしまって。でも、幸せなことに帯の推薦文を、乙一さんに書いていただけたんですが、そこに『目隠しをされて夜のドライブに連れ出されたような緊張感と暴力』とあって。伝わってる! 言語化されてる!とかみ締めました」
 結末にもこだわった。
「書き切って満足する小説もありますが、これってこの5秒後、どうなるの? という小説もあります。今回は、書くのはやぼだと思ったので、終わりは読む人に託しました」
 とはいえ、最初から結末を考えていたわけではないとも。
「書いているうちに方向が見えてくるんですが、連載を始めるまでにタイトルが決められなくて。最初の原稿を読んだ担当編集さんが思いも寄らないタイトルを付けてくれたので、内容が少しだけそれに引っ張られたかもしれません。でも、書籍化にあたりまるっと変えちゃったんですけどね(笑)」
 最後にひと言、いただいた。
「今やどこかに隠されてしまった、'80年、'90年代のグロさやよどみも織り込みました。これは決してセルフパロディではなく。けれど実に〝佐藤友哉〟らしい、新本格とイヤミステイストを織り込んだ、オープンエンド小説です。J・D・サリンジャーにあやかったタイトルも含め、これまでの読者だけでなく、新たな読者の方々に向けての自己紹介のような一冊です」

著者プロフィール

佐藤友哉●さとう・ゆうや/小説家。'80年北海道生まれ。'01年「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」でメフィスト賞を受賞しデビュー。'07年「1000の小説とバックベアード」で三島由紀夫賞、'24年「デンデラ」で伊日財団主催「日伊ことばの架け橋賞」に輝く。本格ミステリから純文学と幅広く執筆。作家有志とバンド、同人誌活動も

【取材・文:おーちようこ】

■「放課後にはうってつけの殺人」
著者:佐藤友哉
定価: 税込2200円
発売中 判型:四六判 ページ数:272
ISBN:9784041165515
集英社 https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-8342-5411-2

父は女児殺害事件の犯人なのか──? 証拠となるかもしれない血のついたコートをクリスマスイブの夜に燃やした少年は、その現場を目撃した少女と犯人捜しを始めることに。昭和の終わりと平成から始まる、令和に贈る、孤独な2人の残酷な物語。

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