ニュータイプ2026年6月号(2026年5月10日発売)のBOOKページにて掲載した「法月綸太郎の不覚」著者:法月綸太郎インタビューを、WebNewtypeにて公開いたします。皆さまお楽しみください。
「還暦を迎えましたが、20代の新人だった当時、自分と同じ名の探偵を登場させたからには最後まで書きつづけなければいかんだろう、という覚悟は今もあります」
柔らかな笑顔で、そう語る。初登場は'89年のデビュー2作目「雪密室」(講談社ノベルス)。敬愛するエラリー・クイーンの探偵譚にならい推理作家の息子・法月綸太郎と警視の父・貞雄が事件に挑む、シリーズ最新短編集をこのほど上梓した。届けられたのは、ネタ探しから事故物件を選んだライターが先の住人と同じ無惨な姿で発見される「心理的瑕疵あり」、ある依頼人の疑惑に迫る「被疑者死亡により」、幽霊の目撃証言による「次はあんたの番だよ」、兄弟の確執を巡る「平行線は交わらない」の4編。
「前の3編は『読者への挑戦』といった小説誌の企画で書いて、最後に中編を書き下ろして編みました。不思議なもので前の短編でやり残したと感じたことを織り込んでいったら、最終的にはまるで木霊みたいに響きあうかのような構成になりました。時間がかかってしまいましたが、じっくり書かせていただけた賜物です」
驚くべきは、すべて異なる状況で起こった事件ありながら、いずれも同じ題材でつづられていることだ。
「あとがきにも書きましたが、我ながら思考の幅が狭いな……と思いつつ、試行錯誤の果てにこうなってしまいました。タイトルの『不覚』はその最中に突然、浮かびました。毎回、事件の方向性と捜査に関わる法月綸太郎に似合う単語を付けていますが、今回は、綸太郎自身が事態をかき回していることが多いので、決して万能ではなくスキがある、ということをうまく表せたな、と思っています」
その根底にあるのはデビュー当時から変わらぬ「探偵」への問いかけ。
「探偵の存在によって知られたくない事実を暴いてしまう、あるいは悪意の証明はできても罰することができない。そういったことに困惑して執筆が止まった時期もありました。事件にかかわる人々の心情を切り捨てて、ただ解決だけを追いかけることが苦手だったんです。ただ、僕も年を重ねることで、そういったことを飲み込んでなお人は生きていくのだと思えたんです」
だからこそ事件を解決するだけでなく、秘めた思いや見えない絆も描かれる。一方、変化を受け入れることもある。それは時代背景について。
「実在しそうな殺人事件を題材に選んでいくと、ともすれば警察小説になりがちですが、僕は、あえてアマチュア探偵が活躍することにこだわりたい。なので、父である法月警視からの相談も、情報漏洩にならないように配慮するとか、スマートフォンを持たせるべきか、といったことは常に意識しています」
確かに本作ではSNSやYouTuberといった「今」が散りばめられている。しかし、綸太郎が「令和の時代に古風な名探偵しぐさ」と自嘲しながらも真摯に謎と向き合う姿は、著者が書きつづける姿ともどこか重なる。
「だからこそ、前作の『法月綸太郎の消息』最後に収録した『カーテンコール』は、まだまだ続く、という意図を込めてタイトルを付けました」
ゆえに根強いファンも多い。図書館シリーズの短編「リターン・ザ・ギフト」(講談社文庫『名探偵傑作短編集 法月綸太郎編』所収)が、1話完結の本格ミステリー〈ミステリーシネマ〉の1作、Huluオリジナル「リターン・ザ・ギフト」として独占配信中。
「思いもよらなかったので、とてもうれしいことでした。綸太郎が、司書の沢田穂波と本にまつわる推理を繰り広げますが、映像化にあたりこだわっていただいたのは図書館における司書のポリシーを明確に描くことでした」
穂波は捜査のためと理解しつつも、容疑者の貸し出し履歴の提供を断る。
「実際にプライバシー保護のため、捜査令状がないと明かすことはできません。そういった現実への気配りを大切にしたくて。僕が書いている小説はフィクションですが、探偵にはできるだけリアリティを持たせたいんです」
その眼差しがあるからこそ、綸太郎はこれからも活躍するだろう。
「7年かかりましたが、新たな事件を届けることができました。装丁、装画、挿絵も小説の内容に寄り添っていただいた一冊です。前作に引き続き、楽しんでいただけたら幸いです」
著者プロフィール
法月綸太郎●のりづき・りんたろう/'64年島根県松江市生まれ。小説家。京都大学法学部卒業。京大推理小説研究会に所属し、'88年「密閉教室」でデビュー。'89年、著者と同姓同名の探偵が活躍する「雪密室」を発表。'02年「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞短編部門受賞、'05年「生首に聞いてみろ」で第5回本格ミステリ大賞小説部門を受賞。ミステリ評論家としても活躍し、‘25年「死体置場で待ち合わせ」(新保博久と共著)で第25回本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞。
【取材・文:おーちようこ】
■「法月綸太郎の不覚」
著者:法月綸太郎
定価:税込2090円
発売中
判型:四六判
ページ数:256ページ
ISBN:9784065406694
講談社 https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000417893
'89年「雪密室」の初登場から、名前を冠した'92年「法月輪太郎の冒険」(いずれも講談社刊)をはじめ、'26年の現在まで続く著者と同姓同名の探偵譚最新短編集登場。「あとがき」の全作品へのコメントも必読。短編のドラマ(出演は矢本悠馬、田辺誠一ほか)もHuluで配信中。