ニュータイプ2026年8月号(2026年7月10日発売)のBOOKページにて掲載した「大江戸フューチャーズ」著者:稲葉大樹インタビューを、WebNewtypeにて公開いたします。皆さまお楽しみください。
「コロナ禍で仕事がリモートになって、小説を読みはじめました。そのうちに自分でも書いてみたい、こんな物語が読みたい……と妄想が膨らみました」
執筆のキッカケを語るのは第67回メフィスト賞に輝き、デビューを果たした稲葉大樹。何と、それまで小説を書いたことはなかったと明かす。
「まず、参考にしようと思って直木賞や芥川賞の最近の受賞作を読みながら、傾向と対策を練って、自分が紡げる世界を探していきました」
最初は身近な題材で書いてみた。
「石田夏穂さんの『我が友、スミス』という筋トレの小説を読んで、これだ! と思ったんです。趣味で続けているブラジリアン柔術にサラリーマンがハマっていくお話を、すばる文学賞に応募しましたが一次選考でダメでした」
そこで添削サービスに依頼した。
「信用度が高いところに読んでもらったら、説明しすぎで物語の余白がないと指摘されてしまいました」
それもそのはず、本業は企業コンサルタント。ゆえに文章を簡潔にまとめ、説明するクセが出てしまったと反省。
「書きすぎると読者の楽しみを奪うと学習し、温めていた題材のなかから『黒田バズーカ』で遊ぼうと選びました。これは、'13年に日銀総裁に就任した黒田東彦氏の大規模金融緩和策の俗称で、その大胆な内容のインパクトは絶大すぎて、もしも、違う時代の話だったら……?と考えを巡らせました」
舞台は日本の江戸時代、登場するのは第8代将軍の徳川吉宗。松平健主演「暴れん坊将軍」で知られているが、史実では質素倹約を掲げた「享保の改革」で幕府の財政を立て直した存在。
「吉宗の偉業を自分の専門分野である、コンサルティング業務を通してひもとくことを考えつきました」
助けとなるのは〝今猿〟と書いてコンサル(!)なる伝説の忍者集団。彼らは独自の情報網と知恵を駆使して新たなモノの見方や考え方を次々と提案する。まず打ち出したのは固定費用の削減。つまり総勢1000人からなる大奥のリストラだった!?
「あえて現代語を混ぜてしまえ!と決めました。心がけたのはビジネス文書ではなく、でも端的にわかりやすく、時代的背景を織り込みつつ物語を楽しんでもらえることでした」
ヨシさんこと吉宗は今猿が操る「隠語」なる専門用語を素直に受け入れ、むしろどこかカッコいいとまで思ってしまう。町人に化けての見回りを「お忍びパトロール」と称し、ポテンシャル採用、ラストマンシップ、インセンティブにバリュー、果ては経済用語ですらないマイカー(愛馬)まで登場。やがてヨシさんは将軍としてのグランドデザインを描くまでに成長する。
「史実を基に参勤交代や年貢といった税の仕組み、米の流通を巡る商人との駆け引きを盛り込んだ経済小説でありつつも、そこで生きる人の迷いや決意も描きたくて、会社の利益に従う存在と己が信じる道へと飛び出す存在との対決も織り込みました」
こうして誕生したのは経済用語がちりばめられた痛快時代小説(?)。その名も「大江戸フューチャーズ(先物取引)」だった。
「メフィスト賞に応募したのはこの小説を受け入れてもらえると信じたからです。第64回受賞作でゴリラのローズが主人公の『ゴリラ裁判の日』を読んで衝撃を受け、〝おもしろければ何でもあり〟を掲げるならば評価してもらえるのではないか、と考えました」
その思いが届きみごと受賞。第2作「信長インペリオ」の書籍化を進行中。
「実は先に応募したのが、こちらなんです。残念ながら受賞とはなりませんでしたが、おもしろいと言っていただいて、新たに書いた努力が実りました。今、同じシリーズとして書き直しています。吉宗が苦労人のエリート上司なら、信長は地方の怖い剛腕な先輩といったところでしょうか(笑)。予備知識なしで、いろいろな方向から学べて愉快な小説です。読んでください!」
著者プロフィール
稲葉大樹●いなば・たいき/'77年生まれ、静岡県出身。早稲田大学大学院理工学研究科修了。現役コンサルタントにしてブラジリアン柔術の使い手(茶帯)。小説投稿4作目にして第67回メフィスト賞に輝き、受賞作「大江戸フューチャーズ」でデビュー。現在、第2作「信長インペリオ」が今冬発売予定。さらに3作目も構想中
【取材・文:おーちようこ】
「大江戸フューチャーズ」
著者:稲葉大樹
価格:税込1925円
判型:四六判
ページ数:256ページ
ISBN 9784065435076
講談社 https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000426592
質素倹約で知られる「享保の改革」はヒト・モノ・カネのプロフェッショナルの忍者集団「今猿」の助言によって行なわれていた!? 大奥のリストラをはじめとするコスト削減から新田開発、貨幣改鋳による税収アップ。これは倒産寸前の徳川幕府立て直しに奔走する、将軍・吉宗の奮闘記であり、新時代のお仕事時代小説。