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少年探偵・御手洗潔、中学時代の事件簿がここにーー。「水上都市の冒険」著者・島田荘司インタビュー

ニュータイプ2026年10月号(2026年9月10日発売)のBOOKページにて掲載した「水上都市の冒険」著者:島田荘司インタビューを、WebNewtypeにて公開いたします。皆さまお楽しみください。


「水上都市の冒険」書影

「水上都市の冒険」書影


「御手洗少年の物語は以前から書きたくて、ひそかに準備を進めていました。舞台となる横浜は本牧に書庫を兼ねた仕事場を用意して取材を始めました」
 とつとつとことばを紡ぐのは島田荘司。'80年、第26回江戸川乱歩賞への初応募作が最終候補となり、話題を呼んだ「占星術殺人事件」('81年刊)で鮮烈デビュー。謎に挑むのは名探偵・御手洗潔。その少年時代の事件簿をまとめた、ファン待望の一冊がこのほど登場! 込められた思いを聞いた。
「私は広島県福山市生まれで、幼いころは祖父母と暮らしていました。その当時、父は横浜港の税関勤務だったので、会いにいくたびにいっしょに出かけた思い出深い街なんです」
 ゆえに御手洗は助手の石岡と横浜は馬車道に事務所を構えていたことも。天賦の才は幼稚園時代から発揮され、地元の事件に挑む「Pの密室」を発表したのは'99年のこと。
「かなり間が空きましたが、ずっと少年時代の構想はありました」
 その最新作「水上都市の冒険」は昭和30年代、東京オリンピック前の混沌とした街での探偵譚。中学生の御手洗少年が、同級生で「Pの密室」にも登場する鈴木えり子とダルマ船で暮らす江口くんと謎に挑む。捜査のために放課後に自転車で移動する姿は、まるで少年探偵団のようでほほ笑ましい。
「ダルマ船というのは貿易船が港に着くと陸まで荷物を運ぶ船のことです。そこで暮らす人々は水上生活者と呼ばれ、迫害されていた過去もあります。その後、船がカフェに改装されてアーティストたちの交流の場となったこともあり、今の横浜はきれいでおしゃれな街ですが、当時は闇市もあり煩雑としていて、とても危うい場所でした。でも、私はあの時代の混沌をとても愛しているんです。だからこそ史実を織り込み、物語という形で残したいという想いもあります」
 収録されたのは、御手洗少年と江口くんが出会うキッカケとなった「汐汲坂の殺人」。シャーロック・ホームズ作品のような暗号を人知れず探す「踊る人形」。放火事件と少年と少女を巡る「火事マニア」。聖夜の夜の小さな奇跡を描いた「マジシャン御手洗くん」。そして、ある遺体と練り歯磨きの関係を解く「歯磨きチューブの謎」の5編。いずれも、その天才的な洞察力と推理から事件の真相にたどり着く。同時に、子供という立場ゆえの歯がゆさを抱き、悲劇が起こる社会のゆがみや人の心の機微までを御手洗少年は見抜いてしまうーーそのまなざしの、何と優しいことか。
「おそらく今の日本では、探偵・御手洗潔のように子供の感性のまま大人になることは難しいんです。地位や権威にとらわれて生きていくために、心の余白みたいなものを切り捨てていってしまうから。けれど、私はその手放したものこそがいとおしい。それらを大切にしてきたからこそ、今も御手洗潔を書くことができるんです」
 自身の内に揺らがない軸がある。
「ずっと大人のルールに興味がなくて。愚直にやりたいことを続けてきました」
 そのために不遇の時代もあったとか。
「社会派ミステリが主流となり、殺人事件を扱うのは警察だけ、と言われて、『御手洗シリーズ』を書くことが許されないときがあったんです」
 しかし、それならば、と奮起。かくして誕生したのが警視庁三係の刑事「吉敷竹史シリーズ」だった。
「ありがたいことに何度かドラマ化もされましたが、やはり幻想的で奇想天外な謎と理論が躍る探偵小説が書きたかったんです」
 本書執筆をキッカケに新たな出会いが生まれたと、笑顔を見せる。
「不思議なもので、書くことでいろいろな縁に恵まれるんです。もしかしたら愉快なことが始まるかもしれません」
 もちろん未来のお話も。
「まだまだアイデアはあるので、御手洗少年は活躍することでしょう」

著者プロフィール

島田荘司●しまだ・そうじ/’48年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。’81年「占星術殺人事件」で衝撃のデビュー。以後「斜め屋敷の犯罪」「異邦の騎士」と50作以上を誇る、探偵・御手洗潔シリーズを執筆。ミステリ評論をはじめ「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」「京都短編ミステリー新人賞」の審査員を務めるなど新人発掘にも尽力している。

【取材・文:おーちようこ】

「水上都市の冒険」
島田荘司
税込:1980円
判型:四六変判
ページ数:320ページ
ISBN:9784065444610
講談社:https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000429538

両親と遠く離れ、水路の街・横浜に暮らす少年・御手洗潔が挑む、5つの謎の物語。「Pの密室」収録「鈴蘭事件」ではわずか5歳、表題作「Pの密室」では8歳にして不可解な事件の謎を解いた名探偵、待望の中学生編、ここに誕生。犬のココアを連れ、同級生たちと事件を追いかける。

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