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女子高生同士のピュアな恋と青春を描いた「あさがおと加瀬さん。」。1日3分間だけ時間を止められる少女と、その秘密を知る少女の物語「フラグタイム」。そして、だれかを想う日常の風景を描くオムニバスショートストーリー集「どうにかなる日々」。2018年~2020年にかけて劇場公開された3作品はどのようにして生まれたのか? 佐藤卓哉監督とポニーキャニオンの寺田悠輔プロデューサーにお話を聞きました。
――「あさがおと加瀬さん。」「フラグタイム」に続いて、佐藤監督と寺田さんのタッグで作品を制作されるのは「どうにかなる日々」で3作目となりました。見る側としては3部作としてとらえたくもなるのですが、監督ご自身にそのような意識はありましたか?
佐藤 実はこちらとしてはそういう意識で始めたものではなかったんです。というのも、「フラグタイム」と「どうにかなる日々」はほぼ同時進行に近い形で制作を進めていたので、メインスタッフが違うんですね。「あさがおと加瀬さん。」と「フラグタイム」に関してはメインスタッフも共通していて、そういう意味でのつながりみたいなものはあったけど、「どうにかなる日々」は別枠でした。ただ、テーマ的なものでいうと、何となく共通したものがあるように見られるだろうなというのは、それぞれの原作を読んだときに感じていました。
「あさがおと加瀬さん。」本予告
――「あさがおと加瀬さん。」と「フラグタイム」は女子高生同士の関係性が描かれ、「どうにかなる日々」では年齢も性別もバラバラな主人公たちが登場しますが、物語として一貫しているのは人と人との一対一の関係性や、そこで生じるさまざまな想いが丁寧に描かれていることですよね。
佐藤 それはこの3本に限らず、自分の好きな題材で。強いていえば、寺田さんといっしょにやったこの3本は、たまたま題材からして、はっきりそういうものであったと。あまりアニメ的な外連味のあるものではないかもしれないですね。
――アニメ的な派手さがないという部分では、この3作品を見た印象を言葉で伝えようとする際に、私などはすぐに「実写的」という表現を使いがちなのですが……。
佐藤 もともと寺田さんと「あさがおと加瀬さん。」の件で話を始めたころから、お互いに実写が好きだというのはすぐにわかったことでもありました。でも、だからといって「実写的な映像をつくりたい」という直接的な話でもなく、「映画っぽいものがいいよね」ということを話していました。たとえキャラクターがシンプルなアニメーションであっても、カット割りや間の使い方、音の使い方など、そういうもので僕らは「映画っぽいな」と感じると思うんですよ。だから決してアンチアニメではないんです。特に「あさがおと加瀬さん。」は、3Dなどを使わずに手描きのアニメーションで描けるものは描こう、というはっきりとアニメの魅力を出したいというコンセプトがありました。だけど、見終わったときには「ああ、映画を見たなあ」という気持ちになってほしいなと。そういう意味でいうと、〝映画〟をつくりたかったんです。それが3本に共通する、ひとつの目標だったのかもしれません。
寺田 たしかにこの3作品については、実写っぽいなという感覚が僕自身にもあるのですが、「アニメか実写か」というよりは、どちらかというと佐藤さんが今お話していたような「映画っぽいかどうか」という表現のほうがピンとくるのかなと思います。めざしていた「映画的なもの」という枠の中に、アニメ映画だけじゃなくて実写映画的な見せ方も入っているという感じでしょうか。
佐藤 そうそう、寺田さんってよく「映画っぽいですね」と言うんですよ。だいたい褒められるときは「映画っぽいですね」か「エモいですね」の2つ(笑)。その「映画っぽい」というのはキャラのデザインや絵柄というよりも、たとえば音響の現場で音楽をスパっと外したり、効果音をなくしたりすると、ちょっと不思議な感触になるじゃないですか。そういうときに「いいっすね」と言ってくれるんですよ。
寺田 そういうのって、TVだとなかなかできないじゃないですか。
佐藤 昔から僕はTVでそういうことをやりがちで「勇気ありますね」とよく言われるんですけど(笑)、今回はいっしょに「いいですね」と言ってくれる人がいたので、のびのびできました。
「フラグタイム」本予告
――映画的なつくりをめざすという点で、実際に映像になる前の脚本の段階から気をつけられたことはありましたか?
佐藤 まずは60分という決められた枠の中でどうやって流れをつくって、いいものを見終わったと思ってもらうかというところですかね。普段のアニメーションづくりとは違うアプローチになるのでそこは考えました。
――60分という時間はTVアニメ1本分とも、長編の劇場アニメとも違いますが、逆にそれがこの3作品ではうまくハマっていたような気がします。もちろん30分では物足りないですし、90分~120分くらいが長すぎるということでもないのですが、60分でエンディングまでたどり着くことで、ちょうどいい余韻が味わえるというか……。
佐藤 実際に見てくれた人の意見を見たり聞いたりしているなかでも、結果的にはうまくハマっていたのかなと感じることがありましたけれど、ただ、やっぱり短いですよね(笑)。エンドロールを外すと実質50分ちょっとですから。「70分~80分あれば……」と思ったこともありましたが、今回は「60分以内に抑える」という条件が最初にあったんですよ。
寺田 「フラグタイム」は60分ちょうどです。ほか2作品はちょっと余裕があるんですけど。
佐藤 60分枠をどう使うかというのも、最初は探りながらだったんですよ。「あさがおと加瀬さん。」は3本で分けられるような構成にするという目的があって、逆に「フラグタイム」は60分ひとまとまりで一気にやろうと。「どうにかなる日々」はオムニバスですし、60分をどう使うかという意識もそれぞれ始めから違ったんですよね。同じ60分でも時間の使い方は全然違う。それはこちらとしてもやっていて驚きでしたし、発見でしたし、おもしろいなと思った部分でした。
「どうにかなる日々」本予告
――メインスタッフはどのようにして決められていきましたか?
佐藤 最初に「あさがおと加瀬さん。」をやるにあたって、アニメーターの坂井(久太)さんが入ってくれるかどうかというのが、この作品の決めどころでもありました。坂井さんからはふたつ返事でやるとご連絡をいただいて、まずはそこがスタートですね。その後にスタジオや他メインスタッフが決まっていきました。「フラグタイム」のときは「どうやったら『あさがおと加瀬さん。』でいっしょにやったメインスタッフたちともう1回組めるのか?」という考え方をしていきました。そのなかでも「あさがおと加瀬さん。」で作画監督のひとりとしてかかわってくれた須藤(智子)さんの仕事ぶりが印象的だったというのがあって。彼女はすごい努力家ですし、「この作品だったらぴったりかも」と思って「フラグタイム」のキャラクターデザインを打診しました。メインのキャラクターデザインを担当するのは初めてだったらしいんですけど、引き受けてもらえてよかったです。
寺田 須藤さんのキャラクターデザインは最初のラフの時点からすごく素敵でしたよね。
――そこから最初にお話があったように、「フラグタイム」とほぼ同時進行だった「どうにかなる日々」で、メインスタッフも大きく変わるわけですね。
佐藤 タイミング的に同じメインスタッフに頼むわけにはいかなかったので、だったら制作のライデンフィルム京都スタジオ主体で決めてもらったほうがいいだろうと思いました。結果的にそれがうまくハマったのでよかったです。
寺田 京都スタジオメインの作品としては「どうにかなる日々」が初だったそうです。
佐藤 僕からしたら京都は物理的に遠いですし、いつも様子を見に行くなんてことはできないのですが、京都の方たちはスタジオの中でしっかり自己管理をしてくださるので、日々状況が変わっても臨機応変に対応できるし、皆さんには本当に救われました。本来あるべきアニメの制作現場はこういうものなんだなと、勉強になりました。「もう間に合わない!」とか、そういう雰囲気になることもなく無事に完成できたのは、彼らの仕事の仕方や取り組み方、姿勢があってこそだと思うので、もう1回いっしょにできたらいいなと思っています。
【取材・文:仲上佳克】