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「エヴァ」だからやれることを――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」東宝・東映・カラー、配給鼎談

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開初日の模様
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開初日の模様

現在公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。今回は劇場で「エヴァ」が上映されるまでに奮闘した東宝・臼井央さん、東映・紀伊宗之さん、そしてカラーの緒方智幸さんにお話をうかがいました。

――NT本誌では東宝、東映、カラーの三社共同配給の経緯を伺いました。こちらでは東映や東宝としてではなく、紀伊さんと臼井さんの「エヴァンゲリオン」への思いをお聞かせください。

紀伊 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の前、初めて庵野さんにあったときに、僕から「『エヴァ』に対する思い」をお話したことを、いまだに鮮明に覚えているんです。「エヴァ」は映像史における、アニメーションのポジションを変えたタイトルだと思う。たとえば、「都会的である」ということ。それまではアニメーションと都会的ということばってちょっと距離があった。「エヴァ」がその距離感を変えたんだと思います。そういう話を庵野さんにしたんです。庵野さんは人見知りする方だから、愛想もなかったけれど……そのあとに「:Q」に関わることができて幸せでしたよ。僕はいま映画をつくるプロデューサーの役職になってしまいましたけど、庵野さんに宣伝をやってほしいと頼まれたら宣伝をやります。もちろん宣伝は、会社的にも業務外なんですよ。でも、当時の社長の岡田裕介(2020年11月に逝去)に「『エヴァ』の宣伝をやりますね」と言ったら、「おう、やれやれ!」と背中を押されました。そんなんでええんか……とむしろ、僕が戸惑うくらいだったんです。でも、そういう環境で「エヴァ」に関わることができて、本当に楽しかった。「エヴァ」だからできることっていっぱいあって。その「エヴァ」だからやれることを実現してやろうと。そればかりずっと考えてきました。「:Q」のときは新宿バルト9のビル壁面にEVA-EXTRA08を上映したし(2012年7月1日EVA-EXTRA 08上映イベント)、0706作戦(2019年7月6日の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の AVANT 1(冒頭10分40秒00コマ)の上映イベント)をしましたし……。カラーの人たちに「今度はこんなことをやったらどうですか?」と話すのは楽しかったですし、喜びでしたね。ただもちろん、おもしろいことを言わなきゃいけないプレッシャーもありましたけどね(笑)。

臼井 僕がちゃんと庵野さんとお会いしたのは「シン・ゴジラ」がまだ形になる前の脚本の打ち合わせだったんです。映画調整部の部員として参席していたんですが、僕はゴジラのことにあまり精通していなくて。「ゴジラ」ファンじゃない人の視点が必要なのかなと思っていたんです。ところがその後、打ち合わせから外されまして(笑)、やっぱり愛情が薄いことがいけなかったのかなと、反省をしていたんです。もう庵野さんとごいっしょすることはできないのかなと思っていたところに、「シン・」でご一緒できるという話になって。その話はとても嬉しかったです。最初の打ち合わせは東映さんの会議室だったんですが、紀伊さんを筆頭にみなさんがなかなか実現しにくいことを次々とおっしゃるんですよね。ああ、これに対応することが「エヴァ」なのかと。強烈なパンチを受けながら、僕も成長させていただきました。

紀伊 「エヴァ」はそういう場だと思うんです。「エヴァ」と同じ勢いで、ほかのタイトルの打ち合わせに出席して、いろいろな提案すると、すぐに「無理です」と返される。これがむっちゃ腹が立つんです。

緒方「無理って言うな!」と(笑)。

――伊吹マヤ(笑)。

紀伊 本当にそのとおりですよ(笑)。

臼井 ヴンダーの乗組員だけでなく、僕、営業の井上(拓・東宝株式会社)が成長できたと思います。「エヴァ」は鍛錬の場でしたね。

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開初日の模様
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開初日の模様


――「シン・」の最後には「終劇」の文字が出ます。この文字をご覧になって、どんなお気持ちになりましたか

臼井 僕は「エヴァ」のコアファンではないと思うんですが、作品に対してシンパシーをすごく感じていたんです。今回は仕事として関わってはいましたが、ああ、最後か、と。大団円だなと思いました。もちろん、本当に終わりだろうかという気持ちも頭の片隅にはありましたけど、何かが胸に刺さるような想いがあって。仕事ではあまり最近味わったことのないような「終わった感じ」を感じました。自分は今回つくり手側でもなく新参者で、参加したときは「プロジェクトの一員になれるだろうか」という不安な気持ちがあったんです。でも、「終劇」の文字を観たときに、ゾワっとした感覚があって。このときに自分は、この作品のプロジェクトの一員になれたのかもしれないなと思えました。僕は映画を企画・制作することもあるのですが、つくった作品でないのに、こんな気持ちになれるとは思ってもいなかったです。とても珍しい体験だったと思います。

紀伊 僕は「終劇」の二文字を観たときに、もうめちゃめちゃ泣けて。外に出たら、カラーの人が泣いてるから、また泣けて。喪失感がすごくありました。初めて会ってから10年以上付き合ってきた彼女が突然死んでしまったみたいな気持ちですね。3年間、毎週、ときには週2回ずっと打ち合わせをしましたからね。打ち合わせのときに、緒方さんたちが「絵コンテ見ます? シナリオ見ます?」と言ってくれたけど「見ない! 見ても見なくても、たぶん僕らの仕事は変わらない。初号で見ます」と言っていたんです。

臼井 僕も絵コンテ、シナリオは見ていなかったです。一度紀伊さんに聞いたことがあるんですよ。「これ、僕らが内容を分かるのはいつぐらいなんでしょうね」って。そうしたら紀伊さんが「初号試写!」と。

一同 笑。

臼井 それで、僕もわかりました! と。

紀伊 宣伝は、作品の中身にあわせた宣伝をするものだけど、「エヴァ」ってそういうものじゃないよねってことなんですよ。「エヴァ」は固有のタイトルではなくて、もう一般名詞だから。作品の中から発信するのではなく、「エヴァ」を楽しみにしている人たちの気持ちを考えることが、今回の宣伝だったんです。だから、いつもと逆ですよね。同時に宣伝の本質ってそういうものなのかなと感じたりもする。そういう気持ちがあったから、初号試写を観たときは感慨深かったですね。

――今回、三社共同配給が実現しました。今後、こういったことはまた考えられるでしょうか?

緒方 そうですよ、ぜひまたやってください。

紀伊 また、やりましょう。

臼井 そうですね。そのときはぜひカラーさんの作品で。

――この三社の関係がこれからも新しい作品を生んでくれることを期待しています。今日はありがとうございました。

(プロフィール)
●うすい・ひさし/東宝株式会社映像本部映画企画部長。3月まで映画調整部長として配給作品のラインナップ編成業務に携わる。「エヴァンゲリオン」シリーズにかかわるのは今回が初めてとなる

●きい・むねゆき/東映株式会社企画調整部映画興行部次長。ティ・ジョイ出向時、新宿バルト9で「:Q」の宣伝にかかわる。「:Q」発表時の新宿マルイ アネックス壁面映像上映は記憶に残る宣伝である

●おがた・ともゆき/株式会社カラー取締役副社長。「シン・」ではエグゼクティブプロデューサーでクレジットされている。カラー10周年記念アニメ「おおきなカブ」では「農作業計画を立てる人間を探していると聞きまして」と登場

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
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リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co

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