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「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」大沼心監督インタビュー(前編) 閉塞的な状況の世界で、人々は何をなすのか

地球を覆う感染症の恐怖。ランドルフ症候群――発症者は昏睡しつづけ、やがて衰弱してやがて死に至ります。現在、治療方法がいっさい存在しない恐怖の病の原因は、南極に出現した巨大地下世界「アサイラム」にあると考えられていた。そこに広がるのは人間に襲いかかる異形の生物群の姿と、未知の資源。その資源を求める組織「アンタークティカ・フロント」ヴェーラ隊に配属された時雨・ダニエル・魁は、仲間たちとともに過酷な任務に挑戦する……。ゲーム、コミック、アニメにまたがるメディアミックスプロジェクト「Deep Insanity(ディープインサニティ)」。現在放送中のそのTVアニメ版「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」の監督を務める大沼心へのインタビューを、前後編でお届けします。

――「Deep Insanity」プロジェクトには、どのタイミングで参加されたのでしょう?
大沼 プロジェクトとしては、ゲーム版(「ディープインサニティ アサイラム」)とコミック版(「ディープインサニティ ニルヴァーナ」)が先行して動いていて、そこにこのアニメ版も加わったという形なのですが、アニメプロジェクトのスタートは、新型コロナウイルスの感染が拡大する前だったんです。当時からリアリティのある世界観だと思っていましたが、くしくもタイムリーになってしまいました。作中の時系列は、アニメがコミックとゲームの間に位置します。原案サイドに世界観や設定を確認し、意見をいただきながら、アニメを制作していきました。

――原案の段階で、キャラクターや世界設定はかなりつくり込まれていたのでしょうか?
大沼 そうですね。ソーシャルゲームをはじめ、これまでもゲーム原作のアニメをいくつか手がけてきましが、ここまで設定がつくり込んであるケースは珍しいです。ひとつの例としては、作品内の登場する服のブランドのロゴまでつくられていました。もちろん、キャラクターにしても、バックボーンも含めて、綿密な設定がありました。そのなかで、アニメとしては、誰を取り上げて、そのドラマをどう描くのかという考え方をベースに、原案サイドと密に連携をとりながら制作を進めました。

――そんな世界をアニメとして落とし込むなかで、どのようなことを意識しましたか?
大沼 僕もゲームが好きなのでよくわかるのですが、ゲームは体験型で、プレーヤーは主人公を通じてゲームの世界にダイブします。いわば、主人公は自分の分身ですね。一方、アニメの場合、視聴者は主人公に感情移入するにせよ、あくまで別人物です。だから、ゲームの主人公を、アニメでも主人公にするのは難しいので、主人公を別に立てました。同時に、時間軸もずらしたわけです。アニメでは独自の「ザ・ロストチャイルド」という物語を描いていますが、ゲームやコミックと世界観を統一にしているので、キャラクターやストーリーがどんなパスを出し合っているのか分析してみるのも楽しみのひとつですね。

――アニメは、壮大な「Deep Insanity」の世界の一側面なわけですね。
大沼 アニメは、作中で時を経てゲームの世界へと続きます。だから、アニメではランドルフ症候群やアサイラムの問題を完全に解決することはできないわけですね。そのため、アニメではアサイラムの謎には迫っていきますが、何よりランドルフ症候群が蔓延した世界で生きるキャラクターと、その群像劇を描くことに力点を置いてます。時雨をはじめとしたヴェーラ隊のメンバーがどういう思いで生きて、何をなすのか……そのドラマにフォーカスを当てているんです。

――序盤では時雨と副隊長のレスリーの活躍が目立ちます。
大沼 時雨とレスリーに関しては、アニメサイドで主導してつくり上げたキャラクターです。原案サイドとコンセンサスはとっていますが、実際の制作は自由に作業させていただいています。だからこそ、シリーズ構成・脚本の下山健人さんとは、半年以上近くかけてああでもないこうでもないと話し合ったことを覚えています。

――どんなことを話し合ったのでしょうか?
大沼 オリジナルのストーリーですので、まず作中で何をするのかからのスタートでした。テーマのひとつとして描きたいと考えていたものが「生き様」です。別の言い方をすれば、人間ドラマです。人は閉塞的な状況のなかで何をなせるのか、なすためにはどうすればいいのか。それを中心にして物語を構築していきました。

――なるほど。
大沼 それを描くために、時雨とはどんな性格のキャラクターであるか、どんなシチュエーションでどんな行動をとるのか、下山さんと禅問答のように話し合いを重ねました。見切り発車することも不可能ではないのですが、その部分の共有認識ができていないと空中分解してしまう恐れがあったからです。また、時雨やレスリー以外のヴェーラ隊のメンバーは、ゲームでも登場します。既存の設定を踏み外さないように意識しながら、明らかにできるギリギリまで人物像に描いています。

――第2話での餅木スミレのしゃべり方の変化が、その一例でしょうか?
大沼 スミレはもともとの口調はゲームで決まっていましたが、それが素なんです。その前のいわば猫を被った状態のスミレを描くことで、ゲームでも登場する彼女の魅力をより引き出せたのではないかと思います。

【取材・文:星政明】

■TVアニメ「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」
放送:TOKYO MX 毎週火曜深夜24:30~
   MBS 毎週火曜26:30~
   BS11 毎週火曜25:00~
   テレビ愛知 毎週金曜26:05~
   AT-X 毎週水曜21:30~
   ※リピート放送:毎週金曜9:30~、毎週火曜15:30~
配信:ABEMA  毎週火曜24:30~
   ※地上波同時・単独最速配信/その他のサイトも順次配信予定

スタッフ:世界観原案…深見真、海法紀光、塩野干支郎次/監督…大沼心/シリーズ構成・脚本…下山健人/キャラクターデザイン…山吉一幸/色彩設計…水本志保/美術監督…新城湧基/3D監督…北村浩久/撮影監督…山本聖(チップチューン)/編集…木村勝宏/音楽…未来古代楽団/音響監督…郷文裕貴/オープニングテーマ…鈴木このみ「命の灯火」/エンディングテーマ…伊東歌詞太郎「真珠色の革命」/音響制作…ビットグルーヴプロモーション/アニメーション制作…SILVER LINK./制作協力…KADOKAWA/原作・製作…SQUARE ENIX
キャスト:時雨・ダニエル・魁…下野紘/ヴェーラ・ルスタモワ…小清水亜美/レスリー・ブラン…鳥海浩輔/ローレンス・ラリー・ジャクソン…広瀬裕也/小鳩玲香…野口瑠璃子/餅木スミレ…本渡楓/エルシー…田中貴子

■ゲーム「ディープインサニティ アサイラム」
好評配信中

対応プラットフォーム:iOS / Android / PC(Steam)
ジャンル:RPG
プレイ料金:基本プレイ無料(アイテム課金型)

■マンガ「ディープインサニティ ニルヴァーナ」
月刊「ビッグガンガン」(毎月25日発売)にて好評連載中

コミックス1~2巻:絶賛発売中/コミックス第3巻:11月25日発売予定

リンク:TVアニメ「ディープインサニティ ザ・ロストチャイルド」公式サイト
    ゲーム「ディープインサニティ アサイラム」公式サイト
    マンガ「ディープインサニティ ニルヴァーナ」公式サイト
    「Deep Insanity」プロジェクト公式Twitter・@deepinsanity_pj

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