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夢のロボットアニメ対談! 「メガトン級ムサシ」日野晃博総監督×「サクガン」和田純一監督

「メガトン級ムサシ」日野晃博総監督と「サクガン」和田純一監督
「メガトン級ムサシ」日野晃博総監督と「サクガン」和田純一監督

ロボットアニメ大豊作となった2021年秋アニメ。その中でも武骨でパワフルなロボットの活躍で、存在感を放つのが「メガトン級ムサシ」と「サクガン」の2作品だ。今回、「ムサシ」の総監督、シリーズ構成、脚本を手がける日野晃博さんと、「サクガン」の監督である和田純一さんによる、夢のロボットアニメ対談が実現! 両作品の魅力や成り立ち、ロボットアニメへのこだわりについて語っていただいた。

――お2人が手がけている作品を、それぞれご覧になった印象をお聞かせください。

日野 まずロボットアニメ対談のお相手が「サクガン」の和田監督とお聞きして、最初は驚いたんです。というのも「サクガン」はロボットものというより、もっと広い意味でのSF作品という印象でしたから。たとえるなら「コブラ」や「スター・ウォーズ」を見る感覚に近かった。「サクガン」は作品を構成する要素のひとつにロボットがあって、非常に緻密なSF的な世界観がつくられている。もうジェラシーを感じるほどでしたね(笑)。
和田 それは私も同じです(笑)。「ムサシ」は、ストレートにロボットものの熱さを描き切っているじゃないですか? 同時期のロボットアニメ、と言われていましたが、「サクガン」はその方向性には行っていないんですよ。自分の中にも「勇者」シリーズのような、王道ロボットアニメをつくりたいという気持ちがありますし、業界にもそんな熱い気持ちをもっているスタッフは多数います。ただ、ビジネス的になかなか実現するのは難しい。その環境のなかで、子どものころに描いた夢のような作品を、きっちりと形として送り出している。それは率直に「うらやましい」と感じるほどでした。

――ロボットアニメをつくる際に、お2人が意識していることはどんなことでしょうか?

日野 毎回、作品をつくるときにコンセプトは変わりますが、「ムサシ」に関してはロボットのヒロイズムを前面に押し出しています。「サクガン」とは真逆なんですけど、ロボットがすごい必殺技で敵を粉砕して爆発をバックにエンディング……みたいアニメって最近ないじゃないですか? 昔ながらのロボットアニメを、「現代の技術で精いっぱいつくってみたらどうなるか?」というのがコンセプトでしたね。ですからロボットたちもキャラクターのひとりであり、ヒーローとしてしっかり描くということを意識しています。ムサシに目があるのも、キャラクターとして際立たせるためですね。
和田 そもそも私は短編以外でロボットアニメを監督するのは初めてなので、「サクガン」は毎回手探りの状態ではありました。おそらくロボットで戦争もの、というアニメであれば、きっと自分よりも得意な監督さんがたくさんいらっしゃると思うんです。じゃあ自分に何ができるのかと言えば、キャラクターなんです。キャラクターをねちっこく掘り下げていく段階で、ロボットという存在を際立たせることができればいいと考えていました。ロボットが勝つというよりは、「サクガン」でいえばガガンバーとメメンプーの2人がビッグトニーに乗り込んで、「よし行くぞ!」と一丸となって頑張る姿にフォーカスを当てたい。逆に勝利や敗北という結果に関しては、そこまで重視しなくてもいいかなと思っています。それはロボットアニメということに限らず、自分がアニメ全般をつくるときに意識しているスタンスと言えるかもしれません。

――ロボットアニメにおいて、主人公メカは特別な存在だと思いますが、どんなアイデンティティが必要だと考えていますか?

日野 あまり考えたことはありませんが、白いことじゃないですか? 
和田 (笑)。うちは白くないなぁ。

アニメ「メガトン級ムサシ」より
アニメ「メガトン級ムサシ」より(C)LEVEL-5/ムサシプロジェクト

日野 ムサシも白くありませんが、まずは白を検討しますね(笑)。まぁ色のことはさておき、求められているのはイケメン感、ヒーローらしさではないでしょうか。人間だったら主人公はかっこいい存在であってほしいように、主人公としてのロボットも、かっこよくなければならない。それはデザインということだけではなく、ヒーローとしての存在感があるという点です。ムサシもビッグトニーもスタイリッシュというよりは武骨なメカですが、作品を見ていただければ「間違いなくヒーローだ」と納得してもらえると思うんです。主人公のメカに求められるものは作品ごとに違うとは思いつつ、共通するのは「ヒーローとしての姿をそこに見つけられるか」ということだと思いますね。
和田 個人的に思うのは、主人公機は特別なバックボーンをもっているということです。父親が生み出した存在、人類最後の砦など、ほかの機体とは明らかに違うバックボーンがひとつ入っているということが、主人公機らしさなのではないかと思います。結局、そのバックボーンが物語の本筋を動かすきっかけになりますからね。

――お2人がもっとも影響を受けたロボットアニメはどんな作品でしょうか?

和田 「新世紀エヴァンゲリオン」ですね。これはもう中学生時分に見て「こじらせてしまった」に尽きます(笑)。当時の「エヴァ」スタッフのインタビューや記事を見て、アニメ業界に憧れ、アニメづくりを職業としました。他に強烈に影響を受けた作品を挙げるとすれば、「銀河漂流バイファム」「機動戦士Zガンダム」「機動戦士Vガンダム」ですね。
日野 僕は和田さんよりちょっと古い世代なので、まず「マジンガーZ」と「超電磁ロボ コン・バトラーV」がバイブルとして存在しています。それ以降は「機動戦士ガンダム」をはじめとする富野由悠季監督作品ですね。特に「戦闘メカ ザブングル」の主人公メカの交代は、発明だと思います。それまでのヒーロー的なザブングルから、いきなり重機的なウォーカーギャリアに変わってしまうわけですからね。それも「ウォーカーギャリアのほうがこの世界に合う」と思わせてしまうところがすごい。
和田 一年間同じロボットが一般的だった時代に、ガラリと変えてしまうわけですからね。主人公メカ交代はその後、フォーマット化しましたけど、個人的には交代する前の機体のほうが好きなことが多いです。ガンダムMk-IIやエルガイムもそうです。特にガンダムMk-IIは最初にプラモデルを買ってもらったロボットということもあって、今でも一番好きなロボットですね。
日野 ビッグトニーはまさにウォーカーギャリア系じゃないですか? コミカルなアクション……たとえばドタバタ走るシーンすらも物語に合っていますし、人が使うことでかっこよくなるという点も、本当に似ていると思いますね。
和田 たしかにビッグトニーは道具という点を意識しましたから、共通性はあるかもしれませんね。

アニメ「サクガン」より
アニメ「サクガン」より(C)「サクガン」製作委員会/SAKUGAN Project

――手がけている作品のこだわっているポイントをお聞かせください。

日野 「ムサシ」は徹底的にロボットのかっこよさ、気持ちよさを描くことですね。例えば「ムサシ」では毎回、必ず新兵器か新必殺技を使います。一話たりとも使い回しの武器や技で終わる回はありません。
また、ロボットと同様に、キャラクターたちのかっこよさを群像劇としてしっかり描く、ということも重視しました。僕自身、過去に様々な作品を手がけてきましたが、特にオリジナル作品の場合、ストーリーの制作を進めていくにつれて、キャラクターの細かいセリフの癖や個性が生まれていくものなんです。シナリオをさかのぼって魅力を加筆したい、と思うこともたくさんあるのですが、ほかのライターさんにお任せしているとなかなか簡単にはいきません。そこで「ムサシ」では、最初から最後まで、すべて自分が脚本を担当しています。キャラクターのおもしろさが浮かび上がってきたら、納得できるまで遡って魅力を加えていく。大変ではありますが、それが一番自分のこだわりが反映できるつくり方でした。
和田 私はちょっとテクニカルなところになりますが、今回こだわったのは閉鎖された世界の暗さです。空がない世界なので、「暗い場所は黒を黒としてきっちり描く」という点は意識しました。ただ常に暗いシーンばかりでは、逆に「暗さ」を演出的に強調できなくなってしまいます。そこでふだんはキャラクターにスポットライトを当てるようにコントラストを強調して、いざ暗いシーンではすべてを暗くして「閉鎖空間である」ということを強調しました。
もうひとつは「目を見て話す」という点です。自分がコンテを描くと、基本的にシャイなコンテになるんですよ。大体キャラクターが視線を外したり、何を見ているかわからない状態で話したりするようなコンテが基本でした。それは「人間ってそんなもん」という考えが根底にあってのことですが、今回はガガンバーとメメンプーが親子でケンカをして、わだかまりを解いて、いっしょに戦う、という作品なので、視線はしっかりと合わせる。逆に目が合っていないときは、「何かあったのかな?」という含みはもたせていますので、その点も注目していただきたいですね。

――今後、手がけて見たいロボットアニメの方向性は?

和田 常日頃プロデューサーに跳ね除けられ続けていますが、ロボットに乗らないキャラクターが主人公のロボットアニメをつくりたいですね。例えばロボット整備士や、戦闘チームのマネージャーを主人公にして、ロボットアニメをつくってみたいです。これは先ほど申し上げた自分の嗜好や得意と思っている方向性に合致しますね。
日野 小さいロボットから大きいロボットまで、今でも十分にやりたいことをやってきましたが、今までつくったことのないジャンルでいえば人間サイズで感情をもったロボットでしょうか? うーん、でもやっぱり幼少期の体験って大きいんですよ。結局、僕は巨大ロボットが好きなので、「ムサシ」のあとも、また巨大ロボットものをやるかもしれません(笑)。

【取材・文:河合宏之】

■TVアニメ「メガトン級ムサシ」
放送:TOKYO MX…毎週金曜22:00~
   BSフジ…毎週金曜24:30~
配信:YouTube「LEVEL5ch」「バンダイ公式チャンネル BANDAI OFFICIAL」にて無期限配信中

スタッフ:原作…レベルファイブ/総監督・企画・原案・シリーズ構成・脚本…日野晃博/監督…髙橋滋春/キャラクターデザイン原案…長野拓造/アートコンセプト…栗秋寿彦/キャラクターデザイン…池田裕治/音楽…西郷憲一郎、砂川翔也/音響監督…田中亮/アニメーション制作…オー・エル・エム

キャスト:一大寺大和…増田俊樹/浅海輝…斉藤壮馬/土方龍吾…武内駿輔/アーシェム・ライア/神崎明日菜…黒沢ともよ/雨宮零士…内山昂輝/霧島ジュン…諸星すみれ/早乙女萌々香…潘めぐみ/金田一巧…梶裕貴/芥川康太…村瀬歩/西野清夏…竹達彩奈/南沙也加…伊瀬茉莉也/天堂初音…伊沢磨紀/北根陽葵…花守ゆみり/星野あおい…悠木碧/伊伏銀太…山路和弘/マーガレット・ブレクネン…井上麻里奈/クロウゼード・ライア…沢城みゆき/サーザント・エボル…小西克幸/デミル・ガウラ…チョー 他

■TVアニメ「サクガン」
放送:TOKYO MX…毎週木曜23:30~
   MBS…毎週土曜27:08~
   BS 11…毎週木曜23:30~
   AT-X…毎週木曜23:30~
配信:dアニメストア、バンダイチャンネル、Huluにて毎週木曜23:30~先行配信中。その他の配信サイトでも順次配信中

スタッフ:監督・シリーズ構成…和田純一/シナリオ…永井真吾、望月真里子、根元歳三/キャラクター原案…岩原裕二/アニメーションキャラクターデザイン…望月俊平/コンセプトデザイン…幸田和磨/カイジュウコンセプトデザイン…河森正治(Vector Vision)/カイジュウ・メカニックデザイン…大河広行/メカニックデザイン…ブリュネ・スタニスラス (Studio No Border)プロップデザイン…石本剛啓、森岡賢一/文芸設定…河合宏之/美術設定…坂本竜(ビック・スタジオ)/美術監督…大西穣(ビック・スタジオ)/色彩設計…長谷川美穂(緋和)/撮影監督…志村豪(T2studio)/助監督…三塩天平/編集…松本秀治/3DCGディレクター…後藤浩幸/2Dワークス…中村倫子/音響監督…木村絵理子/音楽…加藤達也/ラジオ原稿指導…諏訪勝/音響制作…東北新社/音楽制作…ランティス/アニメーション制作…サテライト/原案…戌井猫太郎『削岩ラビリンスマーカー』 (エブリスタ)/原作…コロニー大会議/製作…「サクガン」製作委員会

キャスト:メメンプー…天希かのん/ガガンバー…東地宏樹/ザクレットゥ…花澤香菜/ユーリ…豊永利行/メローロ…細谷佳正/DJ K…神谷浩史/ムゥロ…和多田美咲/ボス…小山剛志/リンダ…津田美波/ルーファス…緑川光 他

リンク:TVアニメ「メガトン級ムサシ」公式サイト
    「メガトン級ムサシ」公式Twitter・@musashi_project
    「サクガン」TVアニメ公式サイト
    「サクガン」TVアニメ公式Twitter・@ANIMA_info
    超弩級シリーズ メガトン級ムサシ(2021年11月30日まで予約受付中)
    ROBOT魂<SIDE MB> ビッグトニー(2021年11月23日発売)

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