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「ざんねん」だけど一生懸命に生きるいきものたち――「映画ざんねんないきもの事典」監督座談会

知られざる意外な一面である「ざんねん」なポイントを通して、いきものたちを親しみやすく紹介する児童書「ざんねんないきもの事典」。それを原作に、いきものたちが一生懸命に生きる姿の物語として展開する「映画ざんねんないきもの事典」が公開中です。
本作は、コアラのリロイが自分だけの〝ホームツリー〟を探す「リロイのホームツリー」(監督=イワタナオミ)、アデリーペンギンたちが道に迷ったコウテイペンギンのママとともに帰路を探す「ペンたび」(監督=ウチヤマユウジ)、自分を最強だと思い込むニホンノウサギのウサオが心配性の母親に嫌気がさして家出をする「はちあわせの森」(監督=由水桂)のオムニバス。公開を記念して、各作品の監督に、制作に携わった経緯や、作品に込めた思いを聞きました。

「映画ざんねんないきもの事典」監督座談会
「映画ざんねんないきもの事典」監督座談会(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN


――本作に参加することになった経緯を教えてください。
ウチヤマ もともとTVアニメシリーズ「ざんねんないきもの事典」に参加していて、2年ほど前に映画の打診をいただきました。とてもうれしかったのですが、すごく緊張もしましたね。これまで携わった作品はほとんどが短編だったので、長編をつくる場合のリズムや場のもたせ方を忘れていたので。だから、過去の作品や、自分の好きな映画を見ながら勉強しなおしました。
イワタ (アニメーション制作の)ファンワークスさんとは、「おばけずかん」の仕事をしていたのですが、制作終了のタイミングでオファーをいただきました。原作は知っていて、どうやって映画化するのか不思議に思っていたのですが、〝ざんねん〟なポイントを入れれば、キャラクターも自由につくっていいと言っていただいて。それならばぜひと、お引き受けさせていただきました。
由水 僕も、ファンワークスさんには「映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」などの作品でお世話になっていて、そのお付き合いのなかでオファーをいただいた感じですね。原作の存在は知っていましたが、読んでみて「これを映画にするのか」と不思議な感じがしました。

――ペンギンを主人公にした「ペンたび」は、どのようなところから発想が生まれたのでしょうか。
ウチヤマ ファンタジー寄りにしたいなと思っていましたが、取材した専門家の話などをヒントに、「コウテイペンギンのママが迷子になる」という物語にたどり着きました。もともとペンギンをめちゃくちゃ好きで、また、嫌い人ってほぼいないペンギンが主人公なら、話しがすべっても大丈夫かなと思ったのも理由です(笑)。

「ペンたび」より
「ペンたび」より(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN

――「リロイのホームツリー」は、いかがでしょうか。
イワタ 大きなコンセプトとしては「逃げてもいいんだ、生き残ることがかっこいいんだ!」ということ。そんなコンセプトを脚本の加藤陽一さんにお伝えして、物語をお任せしました。加藤さんは王道なストーリーが好きということで、リロイたちの冒険物語をストレートに描く作品に仕上がっています。

「リロイのホームツリー」より
「リロイのホームツリー」より(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN

――コアラを主人公に選んだ理由は何でしょうか。
イワタ まずは姿がかわいいところですね。また、ふだんは木に掴まって寝ていますが、それは毒性のあるユーカリを食べて、解毒をするため。歩いて冒険をすることは非常に危険なので、それだけで物語になるだろうと考えたんです。制作上で印象的だったのは、リロイが背負う赤いリュックです。コアラがリュックを背負っていいのか、についてはリアリティという点で賛否両論あったのですが、どうにか実現しました。ところが、「ペンたび」ではペンギンがスマホを持っていて、驚きました。
ウチヤマ 「ペンたび」の場合、異論はまったくありませんでしたね(笑)。
イワタ 完全にファンタジーに振り切ってしまえば問題ないと後から聞きました(笑)。

――「はちあわせの森」についてはいかがでしょうか。
由水 脚本の細川徹さんからたくさんのアイデアをいただいて、コメディータッチのドタバタ劇が完成しました。そのなかで、キャラクター同士の関係性や成長を感じられる展開になっていると思います。物語の主人公である二ホンノウサギは、ネコやイヌほどではありませんが、親しみをもてる存在です。そんなところから感情移入できるかなと思いました。

「はちあわせの森」より
「はちあわせの森」より(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN

――作品に込めた思いを教えてください。
ウチヤマ 最初にテーマは決めずに、ペンギンのトークのおもしろさを楽しんでもらえるように脚本を書いていました。最終的に、コウテイペンギンは、父親が卵を2カ月温め、母親が餌を求めて海へと出かけるんです。そんな子育ての大変さみたいなものが伝わるといいなと思っています。
イワタ  先ほどもあげた「生き延びる」ということがテーマですね。コアラがユーカリを食べるのは、生存競争に負け木の上に逃げたからで、コアラの〝ざんねん〟なところなのですが、それも正しい生き方だと思うんです。そんな姿を子供たちに共感してほしいなと思っています。
由水 「はちあわせ」のタイトルのとおり、出会いと別れですね。見てくれる子供たちも進級や進学で、いろいろな別れと出会いがあると思います。動物たちも森の中で、いい出会い、怖い出会いをするので、そんな姿に何かを感じてもらえたらいいなと思います。一方、別れの象徴としては、巣立ちを描いています。主人公のウサオは家出をすることで巣立ちをするのですが、いかに自分の力でいきていくのか、親はどう見守るのか。親子で考えてほしいテーマでもあります。

――制作のなかで印象的だったエピソードを教えてください。
ウチヤマ 普段は作画から声の収録までひとりで行なっていて、今回の映画でも脚本や声の収録をひとりで担当していたので、隠居したおじいちゃんみたいな気持ちになりました。週に一度程度のファンワークスさんとの打ち合せが数少ない人と話せる機会で、まるでデイサービースの気分(笑)。そんな制作スタイルなので、思いついたアイデアがおもしろいかどうか、自分ではわからなくなってしまいがちです。その都度チェックしてもらいながら制作を進めました。
イワタ 僕はひとりでは作品を作れないので、ファンワークスさんをはじめ、スタッフの方には迷惑をかけてばかり。作品に要素を詰め込んでしまって、削っていくのが大変だったり、色が決まらなくて、最後まで修正作業をしたりと、たくさんの協力をいただきました。
由水 安曇野のロケハンが印象に残っています。僕は東京で生まれ育ち、里山に縁がなかったので、ロケハンではいろいろな気づきがありましたね。例えば、山ぎわは日が早く落ちることや、そのときに夕陽がどのように景色を照らすのか。案内してくださるガイドの方も、いきものや自然に対する愛情が深くたくさんお話を聞かせて下さいました。そうやって得た内容を画面にいかせればと思いました。

――鑑賞を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
ウチヤマ オムニバスなので、「ざんねんないきもの」を軸に1回で3作品を楽しめます。だから、親も子供も飽きずに、それぞれが興味を持てるポイントがあるはず。まさに「夏休み映画」にふさわしい映画なので、ぜひ劇場でご鑑賞ください。
イワタ 本編はもちろんなのですが、由水さんが作ったナビゲーションパートも楽しいので、ぜひご覧ください。
由水 ナビゲーションパートは、ムロツヨシさんと伊藤沙莉さんに声をあてていただいて、アドリブ感がいっぱいです。その後続く3編は、たくさんのいきものが登場して、映画館にいながら動物園の気分を味わえます。「はちあわせの森」では、舞台が日本ですので、身近にいる里山でこんないきものたちががんばって暮らしているんだなと感じてもらえるとうれしいです。

「映画ざんねんないきもの事典」は絶賛公開中!
「映画ざんねんないきもの事典」は絶賛公開中!(C)2022「映画ざんねんないきもの事典」製作委員会 (C)TAKAHASHI SHOTEN

【取材・文/星政明】

■映画ざんねんないきもの事典
公開中
【リロイのホームツリー】
スタッフ:原作監修…今泉忠明/監督…イワタナオミ/脚本…加藤陽一
キャスト:リロイ…花江夏樹/ディプロ…玄田哲章/ジェイソン…榎木淳弥/クーカ…松岡禎丞/ワンダ…小松未可子/リロイのママ…日髙のり子/ラテ…椿鬼奴/パス…斎藤司(トレンディエンジェル)/プラ…昴生(ミキ)
【ペンたび】
スタッフ:原作監修…今泉忠明/監督・脚本・すべての声…ウチヤマユウジ
【はちあわせの森】
スタッフ:原作監修…今泉忠明/監督…由水桂/脚本…細川徹
キャスト:ウサオ…内田真礼/ウサギ崎先輩…下野紘/月子…沢城みゆき/ウサオのかあちゃん…釘宮理恵/月子のお母さん…佐藤利奈/ナレーション…玄田哲章

リンク:「映画ざんねんないきもの事典」公式サイト
    公式Twitter・@zannen_movie
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