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プロ志望の学生が集結! 神戸電子専門学校「岸誠二×上江洲誠 アニメ業界スクランブルトーク!!」レポート

さる6月25日に神戸電子専門学校にて、アニメーション監督の岸誠二さん、脚本家の上江洲誠さんによる特別セミナー「アニメ業界スクランブルトーク!!」が開催されました。毎年恒例でしたがコロナ禍により昨年と一昨年は自粛となり、3年ぶりの開催となりました。このセミナーはアニメ業界を志望する人たちに向けたイベントで、今回は学生の皆さんからの質問にお2人がリアルな回答をしました。

上江洲 3年ぶりの開催となります。今回は何を披露しようかと悩んだのですが、こう決めました。プロ志望の皆さんにできるだけリップサービスや綺麗事を言わず、現場のリアルをお伝えすることをテーマとします。多少辛辣なことも言うかもしれません。皆さんからいただいた質問をスライドにまとめてきましたので、答えていきましょう。

プロ志望の学生が集結! 神戸電子専門学校「岸誠二×上江洲誠 アニメ業界スクランブルトーク!!」レポート
プロ志望の学生が集結! 神戸電子専門学校「岸誠二×上江洲誠 アニメ業界スクランブルトーク!!」レポート

――アニメーターで食べていけるまで、どのくらいかかりますか?
岸 (新人動画マンのころ)歩合給だったが自分は始めから食べていけた。仕送りもなかったので、生きてゆくために意地でも数をこなした。質より量で、やっていく内に上手くなる。始めから上手いわけがない。

――アニメーターになった頃、大変だった事は何ですか?
岸 そんなに大変だった覚えはない。でも動画マン2年目で動画管理担当として中国の会社に派遣されたころは大変だった。

――アニメーターに必要なスキルは何ですか?
岸 いろいろあるけど、まずはデッサン力。画力(えぢから)。その(作画の)線は何を表現するのか理解できていて、その表現は成立しているか。例えば描く線が鉄板なのか別の物かで質感は変わる。それが表現。

――今後のデジタル化に際し、どんな勉強がいりますか?
岸 今どんどんデジタルに切り替わっている最中なので、これからプロになる皆さんはとりあえずデジタルデバイスに慣れておくほうがいい。
上江洲 パソコンは絶対に使えないといけない。これは避けられない。
岸 何でもそうだけど、苦手な人は得意な人に聞けばいい。不得意な人って自分ひとりで何とかしようとしてどんどん沼にハマっていく。

学生の質問に熱っぽく答える岸誠二さん
学生の質問に熱っぽく答える岸誠二さん

――原作ものアニメを作るにあたり、大切にしている事は何ですか?
岸 (オリジナルと違い)どこまで行っても原作があって、我々はお借りしている立場であるという事。
上江洲 例えば『暗殺教室』の場合、極力原作通りに作ったわけですが。
岸 まず原作をできる限り映像化する。そして我々の力でいかに引き上げるか。動く、音が付く等、アニメにする事での良さをフルに活かせるかが勝負。
上江洲 『蒼き鋼のアルペジオ』の場合、原作と話が違ったわけですが。
岸 これはアニメ化しましょうとなった時に原作の分量が足りなかった。原作のまま作れなかったので、原作の持つ根っこを崩さないまま、いかに膨らませるかを考えた。
上江洲 原作の一番良い所は何かをディスカッションして、アニメ版としては戦艦のカッコよさと女の子の可愛さを膨らませる方向性にしました。
上江洲 『ケンガンアシュラ』の場合、ストーリーは原作と同じですが、画面に映るものが違います。闘技者以外にあまりフォーカスしないようにしているんです。原作から引き算をする作り方です。
岸 3Dアニメなので、まず3Dのリソースを考えた。原作は登場キャラが膨大なので、原作をそのまま再現すると破綻する。だから原作の本筋以外のエピソードを割愛させてもらった。
上江洲 このように、つまりはタイトルごとにやり方がまったく違うんですが、共通して言えることは使えるリソースは先に決まっているということです。監督は割り振りを決めないといけない。
岸 原作があるから何も考えなくていいってわけじゃなくて、その原作で何をするつもりなのかを明確に持っておかないといけない。

――ギャグシーンを描く上で考えている事は何ですか?
岸 考えるというより、まずセンスが必要。その人の資質。(自分達は)関西人なのでお笑いで育った事も影響してる。(センスとは)まず間合い。喋る時の間、尺のスピードやテンポの使い方、キャラの動きとか、いろいろ。ギャグは絵であれ文字であれ、人に伝える瞬間がすごい難しい。
上江洲 まったく伝わらない事もある。ギャグアニメが一番難しい。ギャグが好きで作りたいと思ってないなら、手を出さないほうがいい。感動やバトルのほうが簡単。感動はある程度テクニックで作れる。お笑いだけは教科書にできない。

――その感動を作れるテクニックとは、どのようなものですか?
上江洲 つらい事、悲しい事をたくさん知ってください。現実では救われなかった事をフィクションでは救う事ができます。されにもっと上手くなって自分が心から信じられる物語を書けるようになれば、その先の段階に行ける。
岸 結局、共感性ですよね。どんな素性の人がどんな事をしたらどんな感情が沸くのか、周りにある(ドキュメンタリーやニュース等の)事例を見てみる。
上江洲 それは感受性の訓練なんですよ。事例を見て、ああこの人はこんな気持ちなんだ、という事を文章化して説明できるようになること。感動の技術を磨くには他人に感情移入できる自分になってください。何とも思わないんだったら向いてないのでまた違う考え方が要る。
岸 それを見てどうするかと言うと、構成をバラバラに分解してみる。するとなんでそれが悲しいのかが見えてくる。
上江洲 数学的に分解できたら、もっと酷い展開と、逆に助けてハッピーエンドにする展開とが、方程式的に見えてくる。

――脚本業にはどんな能力が必要ですか?
上江洲 僕の場合ですが、MC能力です。監督やメーカーやいろんなスタッフとたくさん会議や相談をしないといけないので、打ち合わせのためのお喋りする力が必要。
岸 監督も同じような所がある。全てのセクションと話すので。
上江洲 もちろん(喋りが)苦手な人もいる。僕は各スタッフのなるべく多くのオーダーを聞き出してそれに応えたいタイプのライターなので、そのための会議能力が要る。おすすめの訓練は好きなラジオを聴き込むことです、お喋りが上手になる。

――脚本業は何の勉強をした方ほうがいいですか?
上江洲 一生勉強です。常に知識量を問われ続けるから。僕は学校の勉強できなかったのでデビューしてからが大変だった。作品ごとに歴史とか戦争とか宇宙とか、必死に勉強した。勉強できる人はそれだけで有利です。何の勉強をすればいいか分からない人は、とにかく知識を詰め込んでください。また、そういう事を調べるのが面白いなと思える自分でいてください。それが面倒だという人はそもそも向いてません。
岸 作品が始まったら、監督でもアニメーターでも資料山積みにして取り組む。例えば爆発ひとつとっても、どんな火薬でどんな色でどんな爆発の仕方なのか分からないと描けない。

――声優さんを選ぶ基準は何ですか?
岸 芝居。ようは演技力。何を表現するのか分かっているか、そしてそれを表現できるスキルがあるか。アニメーターの画力と同じ。
上江洲 この質問は前もって人気声優たちに聞いてきました。名前は明かせませんが(笑)。彼、彼女らが言うには、他の声質と被らないことだそうです。確かに自分たちも選ぶ際に、声質が似ないようにしています。

――映像作品以外で触れておくといいコンテンツはありますか?
岸 何でもいいからやっておけばいい。自分の趣味は武器になるから。
上江洲 僕らはめっちゃゲームに詳しくて、おかげで依頼してもらえた仕事が多々ある。
岸 同世代よりむちゃくちゃゲームしてた。
上江洲 僕からはひとつはっきりとした答えがあって、それは舞台演劇。熱量のある芝居から得るものがある。演者のために頑張って書かないといけないという意識が芽生える。結果上手くなる。舞台に詳しい人って少ないので、知ればひとつ有利になると思ってほしい。

――どうしたら監督になれますか?
岸 手を挙げ続ける事、俺にやらせろと言い続ける事。
上江洲 岸さんは監督ですって名乗ってその日から監督になった人。誰かに言われてなったわけじゃない。
岸 そう。だから(駆け出しの頃は)自分で営業かけて仕事を取ってきた。
上江洲 アピールしていれば、ある日メーカーさんとかが思い出してあの人にやらせてみるか、となったりもする。
岸 なりたいなら今この瞬間からなればいい。目指してるなら当然勉強してるだろうし、普段から意識してるだろうし。できるかどうかはやってみなけりゃ分からない。どんな経験積んでもダメな人はダメだし。
上江洲 経験積むよりとっとと実作業って事ですね。今から学校で仲間募って作る事もできるし。
岸 監督やりたいって人は、世の中にある作品より面白いものを作る自信があるはずだから、それを体現しましょう。

また、質問にはありませんでしたが、休みについて語りました。

上江洲誠さんの語るアドバイスに学生の皆さんも興味津々
上江洲誠さんの語るアドバイスに学生の皆さんも興味津々

上江洲 昔みたいな根性論はダメで、土日は休みましょうと言いたいですが……。
岸 でもぶっちゃけ(会社の)若い子には、今が無理しどころだよと言ってる。今無理しとかないと、年取ってからは無理だからねと。若い頃でないと吸収できない。
上江洲 集中力、体力が衰える。
岸 結局この業界は実力社会だから、一線に行きたいなら今よ。今が努力のしどころ。

他にもさまざまな質問がされました。最後にお2人は「プロになって一緒に仕事しましょう! 待ってます!」と締めて、講義は終わりました。
終了後も学生の皆さんがお2人を囲み、クロッキーを見せて指導を受けたり、個別の質問をしたりと、熱心さの伝わる濃密なセミナーでした。

【取材・文:山田花名】

リンク:神戸電子専門学校
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