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現在、好評放送中のTVアニメ「盾の勇者の成り上がり」。その放送を記念して、スタッフ&キャストによるリレー連載をお届けします。
今回は、監督の阿保孝雄さん、シリーズ構成の小柳啓伍さん対談の後編をお届けします。後尚文とラフタリアの関係性や第3話で描かれた「波」戦の演出についてうかがいました。
――後編では主に尚文とラフタリアについてうかがえればと思います。まず、尚文を描く上で、どのようなことを大切にされているのでしょうか?
阿保 彼の魅力をひと言でいえば、「優しさを捨てきれない」に尽きます。世界に抗おうとする身ですが、身近な理解者に対しては優しさが垣間見えてしまう。そんな主人公像を強調していきたいと考えました。それが時にカッコよく見え、時にかわいらしく見えたらいいなというのが、演出する上で大切にしていることですね。
小柳 ただ、尚文は優しくしようとして優しくしているわけではないんです。戦わせるために必要だからメシを食べさせるし、髪も切ってあげる。ラフタリアからすれば、「奴隷にここまで優しくするご主人様っているの!?」という驚きがありますが、尚文からすればあくまでも戦うための道具でしかない、戦わないのであれば自分のもとに置いておかない。そこはブレませんね。
阿保 そうですね。厳格であろうとするけれど、どこか優しさが漏れ出てしまう。それが尚文なんです。
――第3話まで拝見して、尚文がすごく大人びているなと感じました。あれほどの仕打ちを受けながらも、ウジウジしませんし、イキがった態度も少ないですよね。
小柳 これは最初の段階で決めていましたよね。ウジウジさせない、変にひねくれた態度を取らせないって。
阿保 そうですね。
小柳 外道だのクズだの言われますが、その状況を粛々と受け入れて、まったく堪えた素振りを見せない。「知るか、俺は勝手にやるんだ!」と、自分の目的のために突き進んでいく。ブレずに突き進んでいったほうが、視聴者の皆さんも「お、いいぞ、やれやれ!」と感情移入しやすいと思ったんです。他人への態度についても、尚文はあくまでも本心をストレートに伝えるだけであって、決して嫌味ったらしいわけではない、と。いい意味でも悪い意味でも裏表がない性格であることは強調したいと考えていました。
阿保 まさに小柳さんのおっしゃった尚文が自分にとっても理想だったので、本当にうまくまとめていただけたなと。各話のライターさんとも調整してくださって。
小柳 原作では裏切りに遭ってからもちょくちょく大学生っぽさが顔を出すんですよ。それもあって、最初は各話脚本を担当してくださった江嵜(大兄)さんや田沢(大典)さんが描く尚文も年齢感が若めだったりしたんですが、アニメでは覚悟が決まってからはなるべく大学生っぽさを出さないという方針にしたので、そこは理由を説明して修正していただきました。
――裏切られてからは、尚文が漂わせる雰囲気もグッと大人っぽくなりますよね。
阿保 そうですね。もともと、キャラクターデザインを原作より多少大人びた雰囲気にしていることもありますが、画面全体の色味を尚文が置かれた状況で変えるようにしているのが大きいのかなと思います。たとえば、第1話の冒頭はカラッとした色調ですが、尚文の冷淡さやダークさが出てくる場面では全体の色調がグッと冷たいものになるんです。彼の持つ冷淡さ、ダークさが、言葉使い以外からも出るように工夫しています。
小柳 ラフタリアたちと出会って、今後少しずつ尚文の心が晴れていきますけど、それに合わせた変化もあるんですか?
阿保 はい、1話1話見ていくとあまりその辺の違いは感じられないかもしれませんが、トータルとしてそういうバランスで色味を調整しています。美術さんにも、色指定さんにもかなりご迷惑をお掛けしているのですが、これはぜひ挑戦してみたかったことでした。
小柳 きっと一気見すればアハ体験があるんでしょうね(笑)。
――そして、尚文の剣となったラフタリアですが、とにかく仕草がかわいいですね。
小柳 耳としっぽは絶対に有効活用すべきだと考えているので、耳がぴょこぴょこしたり、しっぽがふりふりしたりするという仕草は、脚本のト書き段階ですべて入れています(笑)。
――そうだったんですね!
小柳 ラフタリアはレベルに合わせて外見が変わっていくんですが、外見が17、18歳に見えても心はまだ7、8歳なんです。耳やしっぽを有効活用したいというのは、いつもは尚文の奥さんぶっているけれど、内面としてはまだまだ子どもなんだよというのを、なるべく耳やしっぽで表現したかったという理由もあります。
阿保 あとビジュアルとして、内面は幼いけれど、年齢に限らず女性が持っている母性的な部分を出せればいいなと考えていました。年齢は尚文のほうが上で、彼がラフタリアを育てているようにも見えるのですが、実際はラフタリアがいることで尚文は自分を保っていられる部分もあるわけです。ラフタリアはそんな自分を受け入れてくれる、認めてくれる存在としての象徴でもあるんです。
――第2話のラストは二人の距離感がグッと縮まり、大きな希望を感じさせる展開となりました。
小柳 脚本としては、最後に「ご主人様」から「ナオフミ様」に呼び方が変わるところが、見せどころでしたね。それもあって、ラフタリアが尚文の名前を聞くタイミングを原作と少し変えてあるんです。
阿保 尚文の持つ冷酷さは前半で見せつつ、後半では彼の内面にあるものがラフタリアに伝わり、そして動き出したラフタリアの心を「ナオフミ様」という言葉で表現する。その流れは意識するようにしました。
――第3話では、尚文とラフタリアが「波」に挑みました。作画的な見どころもたっぷりでしたね。
小柳 脚本の字面を読むとカッコいいんですが、「これを画にするのは大変だろうな、本当に映像化するのかな」と思っていたら、本当に映像化されて驚きました。
阿保 僕がイメージしていたものを、イメージを超える形で脚本化していただいて、すごくありがたかったです。第3話は決定稿になるまでだいぶ時間がかかってしまったのですが、その甲斐があったなと改めて思います。
――「波」戦の演出で意識したことは、どのようなことですか?
阿保 第3話でやりたかったことの一つが、尚文とラフタリアのコンビネーション感です。第2話で二人が積み重ねたものが第3話で形になる……そんなアクションシーンにしたくて、演出の森賢さんに「尚文が盾で守ったかと思ったら、ラフタリアが出てきて斬りかかり、さらに尚文が画面に入って敵の攻撃を受ける。それをアクションのBGMに合わせて、舞踏のような感じで表現したい」と、ちょっと無茶ぶりをしたんです(笑)。そしたら、ワンカットで二人が入れ替わり立ち替わり守っては斬りかかるというシーンを15秒から20秒ぐらいの長さでつくってくださって。素晴らしい映像になりました。
小柳 第3話は騎士団の中にも尚文に感化され始める人たちが出てくるのもいいですよね。尚文が成り上がっていくきっかけとなるようなエピソードだなと思いました。あとは、ラフタリアの狂犬ぶりですね。尚文に指一本でも触れたらただじゃおかないという意志が目の色にも表れていて、すごくいいなと思いました。
――尚文とラフタリアの関係性で今後、こんなところに注目してほしいというところを教えてください。
小柳 尚文が貶められる状況というのは今後も続いていきますが、尚文はすべて突っぱねていきますし、ラフタリアはそんな尚文をしっかり支えていくので、安心してご覧いただきたいです。
阿保 ビジュアル的なところでいえば、第3話から第4話でラフタリアが微妙に成長します。原作だと「波」の時点で17、18歳ぐらいの見た目に成長していますが、2クールあるということでもう少しなだらかな成長、変化を描いてみたいと思ったんです。きっと第4話の印象も違って見えるんじゃないかなと思います。
小柳 あとは、今後登場するフィーロですよね。ひと言で言いますと、天使です!
一同 (笑)。
阿保 純粋さと自由の象徴としてのフィーロに期待していただきたいです。
【取材・文:岩倉大輔】