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現在、好評放送中のTVアニメ「盾の勇者の成り上がり」。その放送を記念して、スタッフ&キャストによるリレー連載をお届けします。
第14回は、3度目の登場となる田村淳一郎プロデューサーにお話をうかがいました。後編では、ラフタリアとフィーロの成長と第21話の弾劾栽培について振り返っていただきました。
――2クール目はラフタリアとフィーロにも大きな試練がありました。ラフタリアの過去とリファナの死は、ただただ悲しかったです。
田村 ラフタリアがつらい現実を受け止め、尚文やかつての幼馴染に背中を押されて過去を乗り越える、というテーマがこのエピソードにはありました。リファナの亡骸など見せ方が難しいところもありましたが、亜人が迫害され、ひどい状況に置かれていることは絶対に描かないといけないことだったので、監督とも相談してしっかり描くようにしていただきました。
――イドルを前にしたラフタリアが剣を収める場面は、原作小説とは少し違う展開ですよね。
田村 そうですね。原作を少しアレンジさせていただいて、ラフタリアが剣を収める展開になりました。原作のラフタリアのように、迷わずイドルを殺しにかかったほうがスカッとしたかもしれないですが、TVシリーズで描いてきたラフタリアと尚文の関係性を考えると、その行動は取らないだろうと思ったんです。
もちろん、ラフタリアは抑えきれないほどの憎悪を抱えていますし、もし尚文が止めなければ斬り殺していたかもしれません。ですが、ラフタリアも精神的に成長してきているので、安易な復讐を肯定しないと解釈しました。
――憎悪を抱えてきた尚文が制止するところにも成長を感じました。
田村 尚文もこの旅を経て精神的に成長していますから、ラフタリアが怒りにまかせてイドルを殺したら絶対に後悔するとわかっていたんです。そう考えると、尚文はまだ20歳ですが、成長して本当に“聖人”に近い状態になっているのかもしれないですね。
――そして、フィーロもフィトリアとの戦いを経て大きく成長しました。このエピソードでこだわったことを教えてください。
田村 フィーロはそもそも鳥なのでどこか動物的でお気楽なところがあり、バトルでも変に焦ったりすることがなく、これまであまり内面的な部分がクローズアップされてきませんでした。あっても、「ご主人様が好き」というくらい。そのフィーロがフィトリアと出会うことで、「自分はこのままではいけない」と初めて認識するのがこのエピソードのポイントです。
ただ、重たい話にしたくはなく、なるべくわかりやすい話にしたいと考えていました。あまり難しい話にしてもフィーロ自身が理解できないですからね。それで、演出的にも少年漫画のようなストレートな内容にしていただきました。
――まさに「試練」という言葉がぴったりの話数でした。
田村 師匠に勝つまで戦う、拳で語り合って最後にわかり合う……そんなところが少年漫画的ですよね。フィトリアはタイラントドラゴンレックスを一蹴するくらい強いので、本来は絶対に勝てるはずがないんです。それでも大切な人を守りたいという気持ちに突き動かされて、一矢報いることができた。真っ直ぐなフィーロらしさがよく出た、気持ちいいエピソードです。
――そして、先日放送されたばかりの第21話では、オルトクレイとマインの弾劾裁判がありました。マイン役のブリドカット セーラ 恵美さんのお芝居がすさまじかったです。
田村 きっと溜飲が下がった方も多いと思います(笑)。ブリドカットさんには素敵なお芝居をしていただきました。マインの嘘が暴かれ、尚文の冤罪が晴れていくというシリアスかつ重要なシーンなのですが、現場ではブリドカットさんが“リアクション芸”を披露するような感じだったので、見ていて面白かったですね。ドラマとしても、いろんな叫びのバリエーションをいただいて膨らみが出ました。
――尚文が死刑を求めた原作小説と違い、女王が死刑宣告をし、尚文が死刑を止めるという展開でした。この展開になった理由というのは?
田村 イドルを前にしたときのラフタリアもそうですが、「旅を続け成長してきた尚文がその行動を取るのか?」というのが一番の理由ですね。今までの行動を考えると、感情的に死刑を求めたりはしないだろうという意見がシナリオ会議で出たんです。それで、自分の死を覚悟したミレリアが死刑を宣告し、尚文が止めるという展開になりました。
アネコユサギ先生はアニメ版で描かれる尚文を大切にしてくださっていて、このシナリオも快諾してくれました。原作者として勇気のいる判断だったと思いますが、我々のクリエイティブを尊重してくださったのが本当にありがたかったですね。
――確かに最初の数話ぐらいの尚文だったら死刑を求めたかもしれませんが、ラフタリアを止めた尚文ですからね。
田村 そうですね。ラフタリアの件もありましたし、「憎いから殺す」でいいのかという葛藤が思った以上にあったのだと思います。前話で呪いの力を使って、改めて自分の心の弱さに触れたわけですから。憎しみに流されると大変なことになるというのは、尚文が一番わかっているんです。
それに、尚文は四聖勇者の中でもとりわけ勇者としての自覚が強いんです。子どもを見捨てて逃げる勇者なんて聞いたことないという台詞が象徴的ですが、どこかに勇者らしくあろうとしているところがあります。その葛藤と自覚が死刑を止めたのではないかなと。本来であれば、そこまで勇者としての責任感を持つ必要はないのですが、それが尚文の人のよさなのだと思います。
――その後、尚文が国民や騎士団から送り出されました。まさに大団円といった締めくくりでしたが、物語はまだ続くんですよね?
田村 ええ、完膚なきまでのフィナーレ感を出しましたが(笑)、もちろん最終回ではありません。ただ、ここで一度区切ろうという話は監督たちとも話していて、実はシリーズ構成を考えるときにこのエピソードが最終話になる案もあったんです。ですが、このまま終わってしまうと、波やグラスといった様々な謎が放置されたままになってしまうので、物語がもう少し続くことになりました。
――この先はどのような展開が待っているのでしょうか?
田村 これまではメルロマルクという限定的な場所で戦ってきましたが、この先はさらに世界が広がっていき、グラスも再登場します。「グラスとは何者なのか?」にも触れられると思いますので、楽しみにしていただきたいです。
――2クール目のOPには見慣れないキャラクターもいましたが……。
田村 そうですね、あのキャラクターは何者なのかというところも含めて、今後の展開に期待していただきたいですね。世界が広がり、キャラクターもさらに増えて、物語がますますドラマチックになっていきます。
――尚文、ラフタリア、フィーロの関係はいかがでしょうか?
田村 ラフタリアもフィーロも成長して、2クール目はより家族感、仲間感が強まりました。この絆が簡単に崩れることはないですし、三人はこれからも楽しい旅を続けていくでしょうね。もちろん、超えなければならない壁がこの先も出てきますので、バトル面でも新たな連携を見せてくれると思います。
――和解したかに見える三勇者と尚文の関係性も気になるところです。
田村 三勇者に関しては……第22話の放送をお待ちくださいという感じでしょうか。悪い奴ではないとわかりましたが、本当の意味で四人が結束するにはもうちょっと時間がかかるかもしれないですね。尚文のパーティにしても、何度も死線を越えたことで絆が生まれたわけですから。一度、一緒に戦ったくらいでは、まだまだかなと。
ただ、ともに戦ったことで尚文が三人に対して気づくことがあり、それが関係性の発展に繋がっていきます。三勇者は今後も物語に関わってきますし、尚文とのやりとりもたくさんあるので、勇者の同士の会話に注目してみてください。
【取材・文:岩倉大輔】