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TVアニメ「彼方のアストラ」を盛り上げるためのキャスト&スタッフによるリレー連載。第8回のゲストは、撮影監督の酒井淳子さんが登場。映画のようなスケール感を出す処理や、表情の線を活かすキャラクターの線処理など徹底的に作り込まれた撮影技術の秘密とは!?
――撮影監督という立場から原作コミックをご覧になって、どんな印象をお持ちになりましたか?
酒井 とてもやりがいを感じる作品だと感じました。様々なタイプの異なる惑星を巡るため、惑星ごとに違うテイストの処理が必要で難しそうだなと思いましたが、SFものはずっとやってみたいと思っていたジャンルだったので、絶対にやり切ってみようと思いました。
――光と影の演出や全体の撮影処理を考える上で、どのようなテーマ、方向性にしたいと考えられましたか?
酒井 惑星ごとに独特の生態系があるので、空気感をガラッと変えたいと思いました。具体的には惑星ごとにフィルターを調整しています。温度や湿度が違ったりするのを表現できたらと考えて処理作りに臨みました。特に宇宙のシーンは、真空であることを表現したかったので、あえて他シーンよりくっきり見えるように調整しようと最初の段階から考えていました。
――安藤(正臣)監督とはどのようなお打ち合わせをされたのでしょうか?
酒井 監督との初めての打ち合わせで、映画のようなスケール感を出したいとお願いされました。画面の上下についているシネマスコープの黒帯がそれを担っています。カットによって黒帯の有無があるのですが、違うレンズで撮影していることを表現しています。
また、原作が漫画であるという味を持たせるために、漫画のペン先で描いたような強弱のある線処理をキャラクターに入れるかどうかも話し合いました。色々なパターンのテスト処理を経て、今の形に落ち着いた形です。
――同様に、キャラクターデザインの黒澤桂子さんや美術監督の甲斐政俊さん、撮影監督の酒井淳子さんとはどのようなやりとりをされましたでしょうか?
酒井 キャラクターデザインの黒澤さんには、キャラクターへの線処理の見え方について確認していただきました。どうしても線に処理を入れると、元の線を変えてしまうことになるので、キャラクターの目元や口元など、アニメーターの方が頑張って考えて描いた表情の線を殺さないよう調整しています。色彩設計の多田(早希)さんには、話が新しい惑星に移る度に撮影処理を確認していただいてます。撮影のフィルターでがつっと色味が変わっているシーンもあるので、そういうシーンを確認していただく際は大丈夫かドキドキしますね。
――本作は宇宙空間、宇宙船、各惑星とさまざまなシーンがあります。シーンごとに撮影処理をする上で大変だったことや楽しかったことなどを教えていただけますでしょうか。
酒井 1話の宇宙のシーンは、光の陰影をあえて強くしたりするなど、星空とキャラクターしかいないつまらない絵にならないように気をつけました。宇宙船は内部の艦橋シーンが実は一番大変ですね。宇宙船を操作するコンソール画面にモニター画面を貼り込むのですが、20種類以上あるので、正しいものが表示できているか不安になります(笑)。惑星の処理で大変だったのはシャムーアです。胞子がずっと降り続いているのですが、うるさくし過ぎないよう色味とサイズにこだわりました。最初のヴィラヴァースは処理的にとても面白かったです。美術とセルが共にほぼ緑色で構成されていたので、その中での夕方の日差しはどのような光具合なのか、どうしたら普通とは違う綺麗な夕日に見えるか、そういう部分で頭を悩ませつつも作り上げていくのが楽しかったですね。
――撮影処理に関して、酒井さんのほうからご提案されたことなどはありますか?
酒井 4話のユンファが歌うシーンの処理です。原作を読んだときからイメージが沸いていて、壮大なオーケストラのような宇宙を背景にドレスがキラキラと光りながらなびくのを表現したいと思っていました。打ち合わせの段階でも色々提案させてもらって、各セクションの方に素材を準備していただきました。みなさんのおかげで、自分が作りたいと考えていたものにかなり近しい処理がつくれてよかったです。とくにOPのユンファがお気に入りです。
――「本作ならではの撮影処理」はございますか?
酒井 やはり謎の球体の処理ですね。謎の球体自体はCGなのですが、それ以外のセルにかかる処理は全て撮影で作業しています。この作品に携わると決まったときに、最初に頭を悩ませた処理でもあります。一緒にがんばってくれている撮影スタッフと意見を出し合い、今の処理を作りあげたので、是非注目してもらいたいですね。あとはクラストスーツのヘルメットの処理でしょうか。いかに撮影処理のみで原作にあるヘルメットの着脱処理をそのまま映像に起こせるか考えるのが楽しかったです。
――「彼方のアストラ」に参加されたことで新たに得られたものはありましたか?
酒井 プログラミングなど実務的な会得もあるのですが、実写的な知見の広がりが一番でしょうか。打ち合わせで監督が実写の作品を参考によく出されるのですが、それをいかに作品のテイストに馴染ませて取り込むか考えるのが毎回楽しいです。
――撮影監督としての視点で、今後の見どころについて教えてください。
酒井 新キャラクターも出てきて、物語が新たな方向へ動き出しますね。今後の撮影処理を話すとどうしてもネタバレになってしまいますので多くは語れませんが、実はあの処理に意味があったんだ…と最終話まで見て気づいてもらえると嬉しいです。
【取材・文:岩倉大輔】