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FF14アニメCM「CHOOSE YOUR LIFE」監督:櫻木優平×SIX奥山雄太 対談「FFシリーズファン以外へのアプローチ方法とは……」

7月に発売した「ファイナルファンタジーXIV」(以下、FF14)の拡張パッケージ「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」。そのTVCM「CHOOSE YOUR LIFE」はFF14の魅力を多彩なアニメーションで表現し、大きな話題を呼んだ。監督は『あした世界が終わるとしても』や『INGRESS THE ANIMATION』などを手掛けた櫻木優平さんと『劇場版 若おかみは小学生!』の高坂希太郎さん。そしてCMの企画設計はSIXの本山敬一さんと奥山雄太さんが担当した。どのようにしてこのCMをつくり上げたのか。アニメのプロフェッショナルと広告のプロフェッショナル、櫻木さんと奥山さんの対談が実現した。

ーーまずは企画の発端を教えてください。

奥山 SIXは、これまでFF14のコミュニケーションに、CMを中心に長く携わらせていただいています。今回「漆黒のヴィランズ」という新しい拡張パッケージのローンチCMのお話をいただき、まずは、SIXチームとスクウェア・エニックスさんとでコミュニケーションの骨子とCM企画を固めていきました。

 現在に続くゲームの形ができあがった「新生」から数えても、FF14のサービスは6年目です。FFシリーズのファンであれば、一度はこの作品を検討したはず。プレイ済みで離脱してしまった人や、検討済みでプレイしないと判断した人の心を、CM30秒という短い映像でもう一度動かすのは難しいと考え、今回のCMでは、FFシリーズファン以外の、今まで興味を持たなかった新規層にアプローチする方法を考えました。

 FF14の魅力のひとつは、超膨大なコンテンツを一人一人が好きなように楽しみ、仲間と生活することができること。そこで、「あなたらしい主人公になろう」というメッセージを軸に、多様性あふれる遊びが集まる世界を描き、言わば無限に広がるテーマパークに飛びこむような高揚感をつくるCMにしようと考えました。

櫻木 そうした流れがあって、クラフターのプロデューサーの石井朋彦から僕に声がかかり、SIXさんを紹介されて、「一緒に何かできないか」という話になったんです。CMのターゲットやコンセプトは出来上がっていたので、それをベースに、クラフタースタジオでどういうアプローチができるのかを考えて、いろいろとご提案させていただきました。

ーーちなみにお互いのことは以前からご存知で?

奥山 クラフタースタジオはもちろん、ご本人の噂も聞いてはいました。CGを使った変わったアニメのつくり方をしている、すごい人だよ、と。

櫻木 僕も奥山さんの作品はいろいろと見ていたので、どういった作風なのかはお会いする前からわかっていました。

奥山 会うのはこの仕事が初めてでしたね。初対面の印象は、全然悪い意味ではなく「不思議な人だな」と(笑)。

櫻木 (笑)。

ーー具体的なCMの中身はどうつくり上げたのでしょうか?

奥山 櫻木さんたちに声をかけた段階では、まだ演出の選択肢が残っていました。アニメだけでつくるのか、CGや実写も絡めたものにするのか。そこから話し合いを重ねるなかで、アニメのタッチをシーンごとに変えることでFF14の多様性を表現できるのではないか、という演出アイデアが生まれました。

櫻木 そして多様性を表現する上では、手描きのアニメがいちばんいいのでは?という話になりました。CGでアプローチするより、作画の方が、アニメのタッチの個性や差が出しやすい。

奥山 櫻木さんが「最近アニメCM多いですよね」と言ってて。でも、全編アニメで作画タッチが変わっていくアイデアは、少なくともCMでは見たことないし、新しいものができそうでよいなと。

ーー絵コンテ・演出は『劇場版 若おかみは小学生!』の高坂希太郎監督です。お仕事をご一緒されていかがでしたか?

櫻木 今回、制作手法を作画にすると決めた時点で、作画のエキスパートの方に入っていただきたかったんです。そこで石井プロデューサーに紹介してもらいました。

アニメ業界の大先輩とご一緒できるということで、監督という立場ではありますが、自分としてはいろいろ学ばせていただこうと考えていました。どういった考え方で、どのような演出をされるのか。見ていて印象に残ったのは、ドラマを意識した演出をされていたところですね。キャラクターとキャラクターが触れ合うカットが多いのですが、そこに高坂さんはエモーショナルな要素を感じるのだそうです。それを聞いてから高坂さんの作品を見ると、たしかにそうなっている。勉強になりました。

奥山 アニメをつくったことがない僕が、巨匠である高坂さんのアニメに意見していいのだろうかと悩みましたが、でも高坂さんはこちらを素人扱いすることもなく、フラットに議論してくれて。とてもありがたかったですし、勉強させていただきました。

ーー櫻木さんとSIXさんはどのような形で連携していったのでしょうか?

櫻木 クラフタースタジオはCM案件の多いスタジオではあるんですけど、僕はこれまであまりCM案件に関わった経験がなく、今回のように奥山さんのようなクリエイティブディレクターと組んで仕事をするのは初めてだったので、考え方が違い、いい意味での驚きがありました。

奥山 僕らは広告を本業にしているスタッフやチームと仕事をすることが多いので、座組もチャレンジングでした。考え方も作り方も全然違うので、お互い不満があったところもたくさんあっただろうなと(笑)

櫻木 いえいえ、こちらとしてはかなり気をつかっていただいているなと思いながら作業をしていました。違いに驚いたのは、発想もですが、30秒間の映像に詰め込む情報量の考え方や、考える上でのシビアさが全然違うな、と。

奥山 今回アニメCMをつくるということで、意識的にTVアニメを見てて発見があったのは、20分強のなかで情報量の密度やアニメの動かしの量に、かなりメリハリがあるなと。時間や予算の制約もあるのだと思いますから、抜くところはすごく抜きながら、見飽きないように設計されている。一方、CMは30秒で、ボーッとTVを見ている人の興味をつかむことが必要で、すべてのカットやフレームがキラーカットになってなきゃいけない。そのあたりの情報量や密度の考え方の違いは、作っていくなかでお互いに気づいていった感じでしたね。

ーー制作中にご苦労されたところは?

櫻木 シーンごとにキャラクターデザインが違うというのは、結構大変でした。ベースとなるキャラクター原案はひとつで、それを元に、シーンごとに別の方にアニメーション用のキャラクターデザインをお願いして、その方に作画監督もお願いする。映像の長さは短いですが、関わるスタッフの数は多くて、素材のやりとりをするスタッフは本当に大変そうでしたね。

ーーCM3本を合わせても1分半くらいの長さですが、キャラ数が多いですね。

櫻木 全体で13パターンの方向性がまずあり、多様性を出すために、メインキャラ以外にもこの世界のキャラクターをいっぱいだした方がいいかなと思った結果、かなり膨大な……。

奥山 モブも含めると、相当ですよね。

櫻木 単純に出てくるキャラクターの数だけだと86体だったかと。ただ今回は、ゲームが原作で、ゲーム内のアイテムで何を装備しているのかを決めれば、各キャラクターデザインの間で設定を共通させられたので、その点は助かりました。

ーーCM、広告としてのディレクションでこだわられたところはどうでしょう?

奥山 ここまでの話のように、FF14の多様性を表現するタッチ変化のエンターテインメントを詰めていくことにとにかく重点を置きました。もうひとつキーワードとしてあったのは「熱量」ですかね。オンラインゲームというデジタルなつながりの世界ですが、そこにはきちんと人間がいて、仲間とともに熱くて楽しい時間を過ごしている。そんな熱量や高揚感を、作画アニメの筆力と音楽が生みだすグルーヴで感じてもらうことを大切にしました。

ーーこのCMも踏まえた今後の展望は?

奥山 アニメが大好きなので、これからもアニメを使った広告にはチャレンジしたいなと思います。ここ数年でアニメCMはかなり増えていますが、長い歴史のなかで培われたアニメ表現の広大さを考えれば、「とりあえずアニメCMにしてみました」以上の、広告とアニメを組み合わせた新しいアイデアや表現にはまだまだ可能性があるのではないかと、今回やって思いました。……でも、櫻木監督は今回大変だったから、もう僕とやるのはイヤですか?(笑)

櫻木 そんなことはまったくないですよ!(笑)ただ、次は3DCGで関わらせていただけたらうれしいな、とは思います。作画への挑戦は楽しかったですが、やはり自分の得意なものでもやってみたいです。

【取材・文:前田久】

■ファイナルファンタジーXIV
対応機種:PS4、Windows、Mac
ジャンル: MMORPG(オンラインゲーム)

リンク:ファイナルファンタジーXIV アニメCM「CHOOSE YOUR LIFE」特設サイト
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