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日本を揺さぶる!?「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」公開記念、飯塚貴士×伊藤智彦対談【前編】

先月より公開が始まり、現代日本に切り込む映像表現を追求するスタイルが話題を呼ぶ、齊藤工総監督の映画「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」。オムニバス形式でつづられる本編の中で、人形アニメーションがあるのはご存知だろうか? 人形アニメ「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス ・コップ・カルヴィン」でコンプライアンスを問うた、監督の飯塚貴士さんと、4月から「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」が放送される監督の伊藤智彦さんが初対談! 〝コンプライアンス〟に切り込んだ!

――まず、「なぜこの2人が対談を?」というところからお話しいただきたいのですが。

宣伝会社 ……た、たぶん、すごく話が合うんじゃないかと思いまして。

伊藤 適当(笑)!!

飯塚 (笑)。

伊藤 いきなりコンプライアンスに抵触しそうじゃないですか(笑)。フォローをすると、「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」(以下、「COMPLY+-ANCE」)を拝見しまして。で、この作品はオムニバス形式なわけですけど、その中の一本、飯塚監督の撮られた人形アニメの「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス ・コップ・カルヴィン」が、今やっている新作「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」と似ていると思ったんですね。どちらも、破天荒な刑事が主人公で。そんな感想を伝えたら、「COMPLY+-ANCE」の宣伝担当さんから、「会ってみませんか?」とご連絡をいただいたというわけです。

――なるほど。お話が来たとき、飯塚監督は伊藤監督にはどんなご印象をお持ちでした?

飯塚 「僕だけがいない街」などの監督作はもちろん、それ以前、いちスタッフとして関わっておられた作品も拝見していたんです。だから、お会いできるのはうれしかったですね。

伊藤 同じ「アニメーション業界」の人とはいえ、なかなか接点はないですもんね。

飯塚 そうですね。基本的にひとりで籠もって作っていますし、今、監督はそうおっしゃってくださいましたけど、大きくジャンルで分けると、僕が仕事をしているのは「アニメーション業界」ではないと思うんです。

伊藤 どちらかというと実写畑の方々との接点が多い?

飯塚 そうです。だからアニメに関しては、本当にただのいちファンです(笑)。

――では改めて、伊藤監督に飯塚監督の「C.C.C.C」のご感想をうかがいたいです。

伊藤 刑事である主人公が、地上波では「(ピー)」の音で伏せるような言葉をどんどん言ったり、犯人を殺しまくったりする。その「無邪気な暴力性」みたいなものがおもしろかったです。俺が不勉強なだけかもしれませんが、人形を扱ったアニメでそういうことをやっている人は少なそうですよね。「チーム☆アメリカ/ワールドポリス」くらいしか思いつかない。だから作品の内容もですが、どういう人が作っているのかも気になって、今回の対談のお話を請けたんです。

――たしかに気になるところです。

飯塚 僕は‘85年生まれなんですが、体が弱くて、学校も休みがちで、何かあるたびに「男の子なんだから、もっとこうしなさい」みたいなことをよく言われてきたんです。強くならなきゃいけないのに、強くなれない……そんな思いがあった。そんなとき、学校を休んだ日に「午後のロードショー」(以下、「午後ロー」)を見ると、バイオレンスな映画がたくさん流れているわけですよ。

伊藤 「コマンドー」とか?

飯塚 まさにそうです。そうした作品を見て、「これが僕が目指さなきゃいけない強さなのかな」なんて、憧れを持って育ったんです(笑)。で、いろいろあって映像を作ろうと志したとき、自分が肉体の強さを得られなかった代わりに、作品で強さを獲得しよう……みたいな形で、気持ちが爆発してしまったんですね。しかしその一方で、内向的な子どもだったので、シルバニアファミリーやリカちゃん人形が欲しかったんです。

伊藤 おお。

飯塚 そういう気持ちを抑えつつも、どこか混ぜ合わせながらバイオレンスな作品をこの10年ぐらい作っていました。でもそうしているうちに、世の中の価値観がだんだん変わってきた。これまで「男らしさ」だと言われてきたことが、本当に「男らしさ」なのか。男の在り方はそれだけとは限らない……みたいな話になってきたじゃないですか。そこで、僕が「こうしなければならない」と囚われていた強迫観念は何だったのだろうか? と疑問が湧いてきて……。

伊藤 アメリカ的マッチョイズムへの疑いが出てきた?

飯塚 そうです。本当は少女趣味があったのに、それを捨ててマッチョイズムに傾倒しようと自分をチューニングしてきたことが、今更ながらに否定されたことにショックを受けたんです。だったら最初から、好きなことをやってきたらよかったのか?と。その困惑をそのままぶつけてみたのが、今回の「C.C.C.C」です。

伊藤 俺がやっているような仕事だと、そういう疑問を感じても、作品の隅に入れておくのが関の山なんです。そもそもオリジナル作品を発表できる機会が少ないのもありますが、全編に渡って自分の悩みを描く勇気はない。飯塚さんはその点で、勇気があるなと思います。

飯塚 でもそれも、齊藤工さんが今回総監督として、「タガを外して、フルスロットルで思うことをやってくれ」とオーダーを出してくださったからですね。普段は自主制作にしろ、いただいてやるお仕事にしろ、もっと抑えてしまいますから。監督のおっしゃるように、「無邪気」にやれたのは、いい経験でした。

伊藤 しかし「タガを外してください」といわれても、やはり上限は必要ですよね。そこはどうされました?

飯塚 今回に関しては「僕の中にある倫理観の上限」という感じですかね。血が苦手なので、ナイフで刺しても内臓は出さないとか。おままごと精神とマッチョイズムの……。

伊藤 境界線は作っている。

飯塚 そんな気がします。

伊藤 俺は結構、内臓や血が出ても映像を楽しめる派なんです。現物は気持ち悪いんでしょうけど、画面越しなら大丈夫。そういう、画面越しなら許されるものがあると思うんですけど、地上波はどんどん厳しくなってきている。そういうものをちゃんと見ておかないと、漂白されたような感覚の人間が生まれ続けるだけだと思うんですけどね。

飯塚 知った上でやらないのと、最初から知らないのは、また何かが違う気がしますよね。

伊藤 「午後ロー」的なものの大切さ、とでもいいましょうか(笑)。このあいだ、ふと思い立って「西部警察」のオープニングを見返したんですけど、昔はやっぱりすごいな、ここまで暴力的なものが許されていたのかと思ったんです。……いや、あれは当時も許されてなかったのかもしれませんが(笑)。ともあれ、その許されなさが、そのまま世間の生きにくさとリンクしているようにも感じられてしまった。たまに息抜き的に、暴力的なことをやる場が必要なんじゃないかなという気もするんですけどね。

飯塚 すごいジレンマがあります。無軌道に爆発させることは、爽快感が大きい。でも一方で、それを見て傷つく人がいる。どれくらいでバランスをとったらいいのか。監督がおっしゃるように、どこかでガス抜きをしたほうがいいのか。それとも何か別のことでカタルシスを得る方法を探していくべきなのか。僕は狭間にいる世代として、悩んでいるところではあるんですよね。伊藤監督は、もし「フルスロットルでやってほしい」と言われたら、どういう作品をつくられます?

伊藤 実はよく言われはするんです。でも商業作品、特に劇場アニメとなると、どれだけ安く見ても制作費は3億円ぐらいかかる。となると、俺はいくら稼がなければいけないかを逆算してしまうんです。初期衝動的な何か、リビドー的な何かで、作品を作れない。自分としては、そこがジレンマですね。

飯塚 お仕事である以上、ちゃんと回収しなければならないですしね。

伊藤 ただ、一応俺はそれなりに、そういうことを考えるのを楽しめる派なんです。商業性を考えつつ、「今回の企画では、自分としてはこの目標を達成すればいいや」と考える。庵野秀明さんの言葉を使えば、「どこまでパンツを脱ぐか?」を考える。いちおう、これまでの作品でも、脱げるところまで脱いでいるつもりなんです。でも、それをまわりからはどう思われているかは、自分ではわからないですね。

【文・構成/前田久】

「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」
役者としての活動と平行して、「齊藤工」名義で映画監督としても活動している斎藤工が、企画・原案・撮影・脚本・監督・声の出演・総監督を務めたオムニバス映画作品。モキュメンタリー、人形アニメ、音楽などのさまざまな表現を通じて、「日本における表現の限界」に挑戦している。現在、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開中
リンク:「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」公式サイト
    公式Twitter・@ComplyanceTokyo

「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」
筒井康隆作・伝説のミリオンセラー小説『富豪刑事」(新潮文庫刊)が、監督・伊藤智彦×シリーズ構成、脚本・岸本卓の「僕だけがいない街」コンビにより、現代を舞台にして大胆に生まれ変わる!
4月よりフジテレビ〝ノイタミナ〟 ほか各局にて放送

リンク:「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」公式サイト
    公式Twitter・@fugoukeiji_bul
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