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ガドルとのバトルに、キャラクター同士のドラマと、キャスト陣の熱演が光るTVアニメ「デカダンス」。本作の魅力を掘り下げるリレー連載第15回は、音響監督の郷文裕貴さんにアフレコの裏話や劇伴制作について伺いました。
――「デカダンス」の音全体の方向性で主軸にされたことはなんでしょうか。
郷 最初に立川(譲)監督から人間の世界とサイボーグの世界があると提示されました。人間の世界で思い浮かべたのは、荒廃した風景や土と砂のイメージ。スチームパンク風の世界ですね。一方のサイボーグ世界は、人がそもそも人の形をしておらず、テクノロジーのレベルもグッと高い世界というイメージだったので、この二つの世界のギャップをいかに音で表現するかが大きなテーマになりました。
――二つの世界の違いを出すと同時に、実はつながった世界であることも示さないといけないわけですよね。
郷 そうなんです。音や音楽がまったく違う世界をどうつなげばいいのか。立川監督と話したのは、重要になってくるのは人間世界とサイボーグ世界を行き来するカブラギたちだろうと。具体的には、両方の世界に登場するキャラクターは過度にお芝居を変えないということにしました。
例えば、カブラギだったら素体は無愛想で表情変化も少ないですが、本体のほうは色味がやや明るくてかわいらしいですよね。見た目が違うからといってお芝居を変えず、同じお芝居をしてもらうことで、二つの世界がつながっていることを示してもらうことにしたんです。これはドナテロやターキーたちもそうです。逆に、サイボーグのモブたちには見た目に寄せた芝居をしてもらって、サイボーグ世界の明るさ、呑気さを補強する形にしました。
――郷さんは立川監督とは初めての仕事なんですよね。
郷 初めてのお仕事になりますが、演出意図もわかりやすく、指示も明確だったのでとてもやりやすかったです。
――監督とのやりとりで印象的だったことは何かありますか。
郷 自分はたまに本筋から離れた質問をすることがあったんです。デカダンスの仕組みやタンカーの組織がどうなっているかといった完全に興味本位の質問なんですが、そういう細かい質問でもぱっと解説してくださるんです。「デカダンス」のあらゆる設定が監督の頭の中に詰まっているんでしょうね。僕は設定を掘り下げるのが好きなので、質問して解説してもらえるのが楽しかったです(笑)。
――ではキャスティングについても伺えればと思います。まずはナツメについては、どんなイメージから楠木ともりさんをキャスティングされたのでしょうか。
郷 立川監督の意見だったと思いますが、カブラギもナツメもお芝居に自然なところがほしいということでした。特にナツメは明るくて前向きで希望があるという、わかりやすいキーワードがあるので、やろうと思えばそういった部分を色濃く出せるんですが、デフォルメした子にはしたくないと。この世界で地に足つけて生きている子であってほしいとのリクエストがあったので、それを考慮してオーディションをやらせていただきました。
――楠木さんはさまざまな作品でヒロインを演じられていますが、過去のリレーインタビューでナツメのような自然体のキャラクターを演じるのは新鮮だと話していました。それも狙いとしてあったのでしょうか。
郷 それは偶然ですね(笑)。オーディションで声を聴かせていただいて一番、自然体だったからです。立川監督も同様の意見だったと思います。ただ、ナツメのようなキャラクターは新鮮ということで、もしかすると「手慣れていない感」みたいなところが「デカダンス」の求める自然さにはまったのかもしれないですね。
――カブラギについてはいかがでしょうか。
郷 カブラギも同じようなリクエストでしたが、あれだけ無愛想なのは逆にフィクション的ではあるので、どちらかというと佇まいであったり、まとっている空気の自然さを重視して選ばせていただきました。
またカブラギは無愛想で枯れた感じのほかに、トップランカーとして活躍していた過去や転落して人生について諦めてしまったという事情があります。その「経歴」をお芝居で表現できる方がいいだろうということで、頼れるところと枯れた感じの両方が出せる小西さんにお願いすることになりました。小西さんはアフレコ現場でもムードメーカー的な立ち位置になることが多く、もしかするとそういった人柄も反映されたのかもしれないですね。
――お二人へのディレクションで何か印象に残っていることはありますか。
郷 楠木さんには、「あまりかわいくならないようにしてください」とお願いした記憶があります。特に第1話は変顔をしてリアクションしたり、大きな悲鳴を上げたり、さらにゲロを吐くシーンもあるので(笑)、特に気をつけていただきました。そういった場面は振り切ったほうが面白いですし、ナツメが作り物のキャラクターではない、あの世界で一生懸命生きている人間なんだという実在感が出ますから。監督も叫ぶときは汚くと話していたので、楠木さんにもそういうリクエストをしました。
――ナツメは必死だからこそ、逆にいとおしさが感じられるキャラクターですよね。
郷 そうですね。決してきれいでかわいらしいお芝居をしてもらっているわけではないのに、結果としてかわいく見えるという不思議さが魅力なのかなと。
――カブラギについては何か印象的なディレクションはありましたか?
郷 カブラギは感情の起伏のない枯れた人物として登場し、ナツメと交流する中でどんどん心が動いていくというキャラクターです。きっと小西さんもその感情の流れが気になっていたのではないかと思い、カブラギの感情をどこまで抑えるか、精神状態が今どの段階にあるのかを立川監督に伺って、共有するようにしました。
――では、ミナトとクレナイのキャスティングのポイントについても聞かせていただけますでしょうか。
郷 ミナトとクレナイで重視したのは、司令官や女戦士といったキャラクターの立ち位置です。司令官としての威厳や女戦士としての凛々しさとカリスマ性を表現できる方ということで、鳥海(浩輔)さんと喜多村(英梨)さんにお願いすることになりました。ミナトに関してはカブラギの相棒という一面もあるので、小西さんのお芝居に引けを取らない落ち着きと貫禄のあるお芝居ができる方にお願いしたいという理由もありましたね。
――カブラギとミナトはいろいろと想像できる関係ですよね。
郷 まぁ友情なのだとは思いますが(笑)。ミナトに限らず、ナツメとフェイの関係もそうですが、この作品はサブストーリーがいろいろ想像できて面白いですね。
――ドナテロをはじめとするサイボーグチームは、ベテラン勢の演技が光りました。
郷 サイボーグたちもカブラギ役の小西さんを軸に考えていきました。カブラギの所属していたランカーチームのメンバーであれば、貫禄のあるお芝居ができる人で揃えたほうが統一感が出るだろうと。またサイボーグはおもちゃのようなデザインなので、性格や雰囲気がはっきり出たほうが面白いだろうと考えて、ベテランの方にしっかりカラーを出していただこうと思ったんです。ドナテロは体も大きくボスの風格があるので、やっぱり小山(力也)さんだよねとなりましたし、ターキーは青山(穣)さんに料理していただいたらいい感じの性格の悪さ、ズルそうなところが出るだろうと。このお二人が決まってからほかのサイボーグも自然と決まっていきました。
――サイボーグ世界と人間世界では、足音のようなSEも全然違いますよね。
郷 これはもうわかりやすく違いを出すようにしました。ただ、サイボーグはサイボーグでもっと「カチンカチン」という硬い音にすることもできたんですが、そうではなくキッズアニメのキャラクターが出すような「ぷにぷに」としたコミカルな音をつけたんです。そのほうが面白おかしい雰囲気になるだろうと、最初の音響効果の打ち合わせでアイデアをいただきました。
――音楽は得田真裕さんが担当されていますが、音楽についてはいかがでしたか。
郷 サイボーグ世界と人間の世界でルックが大きく変わるので、監督とは音楽で違いを出したいと話していたんです。得田さんには実際に音楽の違い、音色の違いをくっきりつけていただいて、とても助かりました。人間の世界のほうは土臭さや泥臭さに加えて、あまり綺麗ではなく安全なところでもないタンカーの街だけど、人がその中で一生懸命に生きている、そういったテーマで楽曲づくりをお願いしました。対して、サイボーグ世界はデジタルな音色を使った未来感のある音楽を作っていただいて。どちらも「デカダンス」の世界にうまくはまってよかったなと感じます。本当にありがたいです。
――特に印象的だった曲はなんでしょうか。
郷 点描シーンで使用した曲ですね。第3話のナツメの修行シーンや第7話のみんなで壁を修理するシーンなど、点描が多いのも本作の特徴です。1週間なのか1ヶ月なのかはわかりませんが、長い時間を経て成長したことや、問題が解決に向かうことを画と音楽で見せる演出で、音楽に力があったので時間経過に説得力を持たせられました。選曲するのも楽しかったです。
――いよいよクライマックスを迎えますが、今後の見どころを教えていただけますか。
郷 第10話の最後に出てきた、あの超巨大ガドルとの戦闘が大きな見どころになります。超巨大ガドルとデカダンスがいかにぶつかるのか。そのアクションを楽しんでいただきたいですし、デカダンスの戦いは音響面でも迫力ある演出に挑戦できるので、できれば大音量で聴いていただきたいです。
【取材・文:岩倉大輔】