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1万円からのアニメ内広告枠「ぜひ使って!」『ノクターンブギ』森田と純平監督インタビュー【後編】

7月からGYAO!・YouTubeで配信されている完全リモートショートアニメ『ノクターンブギ』。2018年の衝撃作『LOST SONG』を手掛けた森田と純平監督の新作であるこの作品は、前作から一転、モンスターばかり集まるシェアハウスを舞台にしたシチュエーションコメディです。キャストには瀬戸麻沙美さんや山下誠一郎さん、早見沙織さんなどが名を連ね、少し不思議な若者たちの愉快な会話劇を展開中。今回はそんな『ノクターンブギ』をひとりで制作する森田と純平監督に、本作の制作方法に倣ってリモートでインタビュー。後編では本作を支えるクラウドファンディングや監督の苦労に関する話をお届けします。

――初回配信から2か月以上経ちましたが、手応えはいかがですか?

森田と まだ全然認知度がないので、その点ではまったく満足はできていませんが、一方ですでに滅茶苦茶ハマってくれている人もいるのはありがたいです。しかも単純に作品を好きという人やラジオきっかけで入ってきてくれる山下誠一郎君のファンもいてと幅広い。内容に関しては僕もキャストも自信を持ってお送りしているので、今後もコアなファンを増やしていきたいです。

――広告枠があるのも『ノクターンブギ』の大きな特徴ですよね。瀬戸麻沙美さんの生誕10,000日目を祝うメッセージが送られていたりして。

森田と あれは驚きました。クラウドファンディングを始めたものの、いきなりああいうのが来るとは思っていなかったので面白かったし、「突然そんなメッセージが来ても受け入れられるのが『ノクターンブギ』だな」と自分で再認識できたし。

――ただ、もっと広告枠を利用してほしいという思いはあるんじゃないでしょうか?

森田と それはもうぜひ使ってほしいです。たとえばIKEAさんから「ソファー使ってよ」なんて連絡きたら、シェアハウス内のソファーをIKEAのものにしてそのソファー褒めちぎりますし(笑)。清涼飲料水の話があったら毎回飲みますし、何でもやりますよ!

――Twitterで「実家でやっている肉屋がピンチです。みんなコロッケ買ってね」みたいなツイートを見かけますが、そういった小規模な宣伝もOKなんですか?

森田と 全然ありです。商品の写真を頂ければキャラクターがちゃんと「外はカリカリ、中はフワフワじゃないですか」とか絡みます。僕がひとりでやっているので、突然来た案件も僕が頑張れば翌週に反映するとか全然できるので。

――アニメだと過去には『TIGER & BUNNY』なんかもスポンサーが付いて広告が出ていましたが、『ノクターンブギ』はそのハードルの低さに驚きます。特に価格。開始当初は1000円からプランがあって(9月上旬現在は10000円から)。

森田と ははっ(笑)。それはやっぱり僕が素人だからでしょう。正直なところ制作費で言うと超赤字なんですけど、お金はほかの仕事でがんばって稼げばいいや、と思っていて。『ノクターンブギ』は僕がやりたい話を大好きな役者達とやっているところもあるので、お金よりは「そんなことやっているの?」と興味を持ってくれた人をどんどん巻き込んでいきたいと思っています。

――エンディングクレジットによるとおひとりで原作・脚本・監督をされていますよね。ただ今のところ毎週1本必ず公開されていて、本当にひとりで作業されているんだろうかと思ってしまいまして。

森田と ひとりで寝食を削って、血反吐を吐きながらやっています(笑)。ほかの仕事もやりつつなので、『ノクターンブギ』の作業は夜中にコツコツ寝落ちするまでやって……みたいな。

――エンディングクレジットに嘘はないと。

森田と よくTwitterなんかで「スタッフのみなさん、体に気を付けて」みたいなメッセージをいただくこともあるんですけど、「いえいえ僕ひとりです」と言いたい(笑)

――ただクレジットのスタッフ欄には、CG協力としてGreat Creatorsというところが書かれていて、ここだけクリエイティブ面で協力を仰いでいるのかなと推察します。具体的にはどんな部分で協力を頼まれているのでしょうか?

森田と 基本的に3Dキャラクターのモデリングと顔などのテクスチャ(各パーツに貼る画像)は僕が担当しているのですが、洋服だけはどうにも難しくて、そういった部分をお手伝いいただいたりしています。

――逆にそういった難しいところ以外は森田と純平監督がされていると。元々こうした3Dのキャラクターを作り、動かすのは慣れていたんですか?

森田と いや、まったくです。そもそも『ノクターンブギ』も最初は普通のアニメ作品として出資を募って製作委員会を作り、「じゃあCGをお願いします」と言おうと思っていたくらいなので(笑)。今のようなミニマムな形で作ることを決めてから勉強し始めたので、まだソフトも全然使いこなせていません。

――それでもこうしてきちんと形にして毎週配信できているので、素直にすごいと感じます。

森田と CG技術とかを学ぶのは嫌いじゃないので。そういう面で自分はオタクなんだと思ってます。

――どっちがいい悪いという話ではないですが、多くの人が関わるTVシリーズの監督と、今回のようにひとりで作る監督と、どちらがやりやすいですか?

森田と やりやすさという点だけなら、ひとりのほうかもしれません。自分で全部決められるし。逆にやりたいと思ったことは自分でやらなければいけないので……まあ、本当に映像作りが好きでよかったです。好きじゃなかったら無理ですよ。

――仕事だったらつらいと。

森田と 一瞬で辞めてます(笑)。

――そんな森田と純平監督のライフワーク的な『ノクターンブギ』ですが、どれくらい続けられる予定でしょうか? 山下さんはnoteで「50代になっても続いているかもしれない」と書かれていましたが。

森田と (笑)。海外ドラマでは10年やっているものはざらにあるし、『ノクターンブギ』はあえてゴールやエンディングを決めずに作っているので、やれるものなら無限にやりたいです。

――『ノクターンブギ』の設定なら、住人が入れ替わったり、たまには隣の部屋に視点を移したりといろいろと続けるための手段はありそうですしね。

森田と まさに。そういう感じでいろいろと形は変わるかもしれないけど、続けていきたいです。方針を決めるのは僕ひとりなので、変な話、いろんな大人に「こうやっていいでしょうか?」と伺いを立てる必要もなく、本当に自由ですから。

――山下さんと一緒にされているラジオ番組「のくたんレディオ」についても聞かせてください。本編の制作だけで大変そうなのに、こちらも毎週配信されているのはなぜでしょう?

森田と ミニマムでやっているオリジナル作品なので、多くの人に知ってほしいという思いはありつつもそれが難しくって。それで山下君にご助力お願いして、作品の魅力をより多くの人に届けようと思いやっています。ラジオを選んだ理由は本編と同じようにリモートでできるからですね。毎週の収録時間はフレキシブルに僕と山下君の空いている時間にやっているし、お互い家でできるからリラックスして臨めています。

――山下さんの特技を活かしてラップが作られ、クラウドファンディングによって曲も作られる……という流れが早々にできたのも驚きました。

森田と 山下君も楽しんでやってくれてありがたいし、ご支援頂いたかたにも本当に感謝しています。「1回しか入金できないんですか?」みたいな声もいただくくらいで……今後もそういったファンが観たいもの、聴きたいものを一緒になって作るという流れは続けていきたいです。

――期待します。最後に本作から少し離れたことを伺います。森田と純平監督は2020年にこの『ノクターンブギ』をスタートさせ、8月にはVtuberが多数登場するバラエティ番組「NHKバーチャル文化祭」の演出も担当されました。こうした3Dキャラクターを使った分野で、今後何かやってみたいことはありますか?

森田と あります。Vtuberがやっていることの何がすごいってリアルタイム性だと思うんですよ。それを活かしたことをやってみたいです。これまでCGを使っての映像作りって手付でアニメーションを作り、レンダリングしてやっとワンカットできて、「ちょっと違うな」と思っても工数とコスト的に修正は難しい……みたいなことをやっていました。でも今Vtuberのジャンルでは、ゲームエンジンを使ってリアルタイムで映像が作られている。右を向けば右を向いて、左を向いたら左を向く絵ができる。ツールが成熟してきて、ようやく実写と同じような感覚で映像素材としてできるようになってきましたね。あとは絵のクオリティ問題をクリアしていければ。

――数年前はここまでVtuberが流行るなんて思わなかったように、数年後にはまた新しいコンテンツが生まれる可能性もありますよね。

森田と ニュースで見ましたけど、『スター・ウォーズ』のエピソードをVRで体験できるものがあるらしいですね。バーチャル空間で『スター・ウォーズ』のキャラクターのドラマが展開していて、それを間近で観られるという。それがもう少し進化したら、ハン・ソロと話しているけど全然違う方向に行ってC-3POの所に移動して話してもいい、という風な体験型ドラマみたいなこともできそうですよね。

――VRドラマだと、VRで社内恋愛が行われているオフィスに入りその証拠を見つける探偵になるというSCRAPが考案したものがあって。

森田と それはエロいやつ?

――エロくはないんですけど(笑)。そういうちょっとしたゲーム要素込みのものもあって面白そうだなと感じました。

森田と そういうコンテンツの提案は僕ももらったことがあったんです。そのときに考えたんですけど、やっぱり作業量が膨大になりそうなんです。これまで僕らはカメラが向いているところの物語だけを描けばよかったけど、VRの世界だとカメラが向いていない方向の人も観られる可能性があるのでそちらの脚本も書かなきゃいけない。しかも時間軸も進んでいくとなると、無限に作業が発生してしまう(笑)。

――確かに。『ノクターンブギ』に話を戻せばリソースを取っ払って考えると、声優さんの動きに合わせてキャラクターが動いたり、VRで部屋に入って会話劇を楽しむなどできれば、正当進化な感じがありますね。

森田と リソースや資金の問題さえ解決できれば、技術的にはもう充分にできます。いつかそういったことへの挑戦もしてみたいですね。

【取材・文:はるのおと】

■「ノクターンブギ」
GYAO!・YouTubeにて配信中

スタッフ:原作・脚本・監督…森田と純平/音楽:白戸佑輔
キャスト;夢仲魔理…瀬戸麻沙美/久結霧矢…山下誠一郎/大噛美瑠衣…吉田仁美/桜来 清…鈴木裕斗/井戸柳たま子…早見沙織/影山狩宇…小山剛志/語り部…田代哲哉

クラウドファンディングにより制作決定したノクターンブギのオリジナルソング
作詞:山下誠一郎 作曲:白戸佑輔
「今宵はブギ―・ラップ」
10月後半配信予定!

リンク:「ノクターンブギ」公式サイト
    「ノクターンブギ」公式YouTubeチャンネル
    「ノクターンブギ」作品応援&クラウドファンディング
    公式Twitter・@MORITAtoJUMPEI
    「ノクターンブギ」公式Instagram  
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