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現在YouTube内「眉村ちあきofficial♪」チャンネルで配信中の「冒険隊 ~森の勇者~」MV(ミュージックビデオ)。眉村ちあきさんのみずみずしい歌声と楽曲が色鮮やかなアニメーションに乗って軽やかに展開する本MVはどうやって誕生したのか!? 今回のMVを手がけた、日本画家でありアニメーション作家でもある四宮義俊監督との対談で浮かび上がる「奇跡の邂逅」。
眉村 実は四宮さんと直接お会いするのは、今日が初めてなんです。
――そうなんですか!?
四宮 打ち合わせはずっとZoomでしたからね。初めまして(笑)
眉村 初めまして(笑)。Zoomではいろいろと恥ずかしいところをお見せしまして……。
――あ、なるほど。しかし恥ずかしいところって、何があったんでしょう?
眉村 四宮さんからのビデオコンテ(絵コンテを仮撮影して、音と合わせて映像にしたもの)初めて見せてもらって、その後に、それからZoomで打ち合わせをする日があったんですけど、私、ビデオコンテで嗚咽しちゃったんです。よく知っているスタッフさんたちだけで、まだ四宮さんは入室していないと思ってたから、いつもの調子で「良すぎるんだけどヴェ~~~!」みたいに大騒ぎしていたら、四宮さんが普通に入室していたっていう……。
四宮 「全然反応しないから!」って、後から眉村さんに軽く怒られたんですけど、リアクションできないですよね……(笑)。
眉村 怒ってたんじゃなくて、こんなに泣いてる姿を見られてドン引きされてるって思ったんです(笑)。四宮さんがZoomに入室してるとわかっていたら、もっと猫を被ってました。
四宮 でもその姿を見て、「いけるかも」という気がしたんですよね。
眉村 じゃあ、逆にそれが良かったのかもしれないですね。
――そもそも、MVの企画の発端はどのような形だったのでしょう?
眉村 もともとは、3月頭にこの曲のデモが完成して、それを新しいアルバムのリードトラックにすることが決まって、さあ、MVを撮影しよう……と思ったところで、世の中が「絶対自粛!」みたいな雰囲気になってしまったのが始まりなんです。
――新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出て、いろいろと社会的な活動が止まってしまった時期ですね。
眉村 そうです。もう世の中が「外に一歩も出ないぜ!」みたいな感じで、となると、MVの撮影もできない。どうしよう? そこで、アニメのMVをやるのはどうだろうという話になったんです。この曲は子どもの空想の世界のイメージで書いたもので、ファンタジーを描いている部分もあるから、アニメーションがピッタリだとも思いましたし、いい機会じゃないかと。
四宮 最初は眉村さんのスタッフの方からメールをいただきました。ちょうどこちらも、緊急事態宣言で他の仕事が一瞬止まっていた時期で、この先の仕事も見越すと、一緒に作業をしてくれている人たちと、あまり間を空けずにモノを作っておきたかったんです。そんなこともあって、お引き受けしました。もちろん、それだけではなくて、コロナの状況下である今、この瞬間にしか作れない。今だから作る意味があるアニメーションを作れそうな予感が、眉村さんの楽曲を聴いたときにしたんです。
眉村 おお~!
四宮 あと、依頼してくださった方が、「『トキノ交差』を見て、頼みたいと思った」とおっしゃっていたのも、大きかったですね。あの作品は、渋谷のスクランブル交差点という、かなり限定的な状況でしか見られない作品なので、見てくれた人のことを大事にしたいんですよ。
――では、具体的な制作過程のお話も聞かせてください。
四宮 まず僕の中で引っかかったのは、「ビールを飲んでる」という歌詞でした。アニメの中にどこか現実の世界と地続きな要素を入れたい。そんなこともあって、まずその具体的なフレーズが気になりました。で、Zoomでの打ち合わせで眉村さんに、なぜビールを飲んでいるのかを質問したら、「お盆だからです」と返ってきたんですよね。
眉村 そうなんです。私が子どものころ、お盆になると家族でいとこの家によく行っていたんです。そこで子どもたちは庭のビニールプールで遊んで、日焼けしたくない大人たちは、遠くで離れてビールを飲んでいた。そんなとき、家の隣にある森が気になっていたなぁ……って。「今なら、大人たちの目を盗んで、子どもたちだけで森へ冒険に行けるじゃん」なんて考えていたことを思い出して、歌詞にしました。
――つまり、あれは実体験がベースなんですか?
眉村 歌詞の最初の風景だけ、そうです。あとの部分は完全に想像、ファンタジーですね。子どもの妄想の力を信じている曲なんですよ。ただ……そう考えて書いたはずなのに、完成した曲をあらためて聴いてみたら、自分が今置かれている状況だとか、コロナの状況とも重なるような気がしたのが、不思議でした。聴く人によって違うものが見える曲になったんじゃないかなぁ……。
――歌詞についてほかにお話はされたんですか?
眉村 1行ずつ、全部解説しました。ただ、私の歌詞は「このメロディーならどの母音が合うか」みたいな音先行で書くので、話しながら意味を考えたところも多かったです。
四宮 解説といっても、割と感覚的な言葉だったので、内容を理解するというよりは、お話を通じて眉村さんという存在を理解していくというか、人となり、動機の部分を知りたいなと思っていました。それを踏まえて、歌詞の内容を膨らませて作ったのが、あのMVの内容です。たとえば、「僕たちこそ」の「こそ」の部分。あそこは、さきほどお話にあったように、音に合わせて付けられた言葉なのかもしれない。でも僕としては、僕たち「が」でも「は」でもなく、「こそ」という言葉を使ったことに、何かの意味合いが残したかったんです。それで考えたのが、子どもたちが最後に会う瞬間だとか、みんなが引っ越してしまう……といったシチュエーションでした。
眉村 なるほど……私、めっちゃいい歌詞を書いてたんですね(笑)。
――物語性があって、解釈の幅もある歌詞だと思います。
四宮 そこの歌詞は「僕」の解釈も難しかったんですよね。眉村さん以外にも、女性のミュージシャンで「僕」という一人称を使う方は大勢いますけど、あれが実は僕にはよくわからないところがあって。それで今回、主人公が3人組で、男の子と女の子がいて、女の子には眉村さんの成分が入っている……というイメージにしたんです。この機会にあらためて聞いてみたいんですけど、あの「僕」は誰なんでしょう?
眉村 誰かと言われたら、わからないですね。歌詞を書くときは割と「私」という一人称を選ぶことが多いんですけど、たまに「僕」のほうが、気持ちにハマるときがあるんです。今回はたぶん、小学生の気持ちになったからかなぁ……。男の子と遊ぶことが多い子どもだったからか、子ども目線で歌詞を書くときは、いつも男の子になった気持ちになるんです。
四宮 なるほど、おもしろいですね。
【プロフィール】
●まゆむら・ちあき/弾き語りトラックメイカーアイドル、株式会社会社じゃないもん代表。年齢は最近非公表になった。'18年TV番組「ゴッドタン」に出演後、さまざまなメディアから注目されるようになる。'19年5月7日、メジャー1stアルバム「めじゃめじゃもんじゃ」をリリース(トイズファクトリー)、その後も数々の楽曲を発表し、'20年12月9日3rdアルバムとなる「日本元気女歌手」を発売。12月14日には自身初となる日本武道館公演が控えている。
●しのみや・よしとし/'80年、神奈川県出身。日本画家、アニメーション作家。日本画家として絵画を軸に、立体、映像など多彩な創作活動を行う。CMや広告、企業商品や本の装画など各メディアへと広がる。アニメーションでの代表作に『言の葉の庭』(ポスターイラスト・美術背景)、『君の名は。』(回想シーン演出)、渋谷スクランブル交差点での四面連動ビジョン放映で話題になった『トキノ交差』(監督・原画・美術)など。また、監督を務めた『ポカリスエット・アニメCM』(インドネシア)では1500万PVでYouTubeインドネシア当月第1位を獲得。現地アニメイベントへのゲスト招聘など、近年ではアジアでの評価も高まる。
【文・構成:前田 久、写真:大川晋児】