新作&おすすめアニメのすべてがわかる!
「月刊ニュータイプ」公式サイト
先日最終回を迎えたテレビアニメ「幸腹グラフィティ」のオープニング映像を手掛けているのは、数々の作品で監督やキャラクターデザイン、アニメーターとして活躍する梅津泰臣。「幸腹グラフィティ」で総監督を務める新房昭之とは、もう約20年来のお付き合いになるという。その2人が語る「幸腹グラフィティ」のオープニング映像のメイキング秘話をお届けする。
――今回のオープニングは、どのようにつくられたのでしょうか。
梅津:毎回、オープニングをつくる時は原作者さんや監督のイメージを聞くんですね。テーマがある場合は、そのテーマを監督から聞いて、オープニングに反映させていきます。もちろん、テーマがない場合もあるんですが。新房さんとの場合は、前にやった「それでも町は廻っている」のオープニングの時も「ミュージカルで」という明確なオーダーがあったんですね。だから、今回も何かあるのかなと。それでシャフトさんで打ち合わせをしたら、新房さんから「『不思議の国のアリス』のイメージにしてくれ」と。「アリス」と原作「幸腹グラフィティ」にどんな接点があるのかなと模索しつつ、今回のオープニングをつくっていった感じです。なんで「アリス」にしたのかは新房さんにお聞きしたいですね。
新房:うーん。なんだろうね(笑)。「アリス」の世界は楽しそうじゃない?
梅津:ははは(笑)。新房さんから「アリス」と言われた時、漠然としたイメージしか持っていなかったんです。断片的に頭に思い浮かんだのはクラシックなアニメ映画の「アリス」のイメージで。これはちゃんと見直さないといけないなと。今回あらためてアニメのアリスを見直しました。それで「アリス」のイメージをオープニングに入れています。ぜひクラシックな「アリス」をご覧になってからオープニングを見ると、「このシーンがこうなっているんだ」という発見があると思います。
新房:「アリス」と言って自分の中にあったものでは、たしかにクラシックな「アリス」が一番具体的でしたね。あとは小説の挿絵(ジョン・テニエル画)ですね。あのふたつが印象的でした。
梅津:やっぱりそうですよね。その新房さんからいただいた「アリス」というテーマ、原作にある「食べ物」というテーマ。そして坂本真綾さんの歌があって。それらをどう結び付けるかを考えている時に、たまたまカラオケに行ったんです。そうしたら、そこできゃりーぱみゅぱみゅさんのPVを見たんですよ。そのPVが僕の中ではすごく「アリス」っぽくて。おそらくPVのディレクションをやっている方がそういうセンスを持っていたんだと思うんですけど、すごく良い内容だったんで、「これだ!」と。それでひとつのオープニングにまとまるなと思ったんです。きゃりーさんの楽曲に詳しい人が、「幸腹グラフィティ」のオープニングを見たら、なんとなく共通点を感じると思いますよ。
――オープニングの内容は「リョウが食材を探しに行く」というかたちになっていますね。
梅津:オープニングは料理そのものを出すというより、料理ができあがる過程を描いていて。食材があって、その食材がそろった!というところで終わっているんです。エンディングは「食べる」という内容だと聞いていたので、オープニングとエンディングの流れがリンクするといいなと。
新房:きりんもよかったです。
梅津:絵的には、きりんちゃんをかわいらしく描こうと思いました。リョウが料理をつくって、きりんが食べる役割なので。リョウが白ウサギ役で、きりんがアリス役。リョウに導かれて、きりんが料理の世界へいざなわれていくというかたちですね。
――リョウがフライパンを持っているのが、かわいらしいですね。
梅津:リョウは最初、フライパンじゃなくて包丁を持たせようと思ってたんです。だって食事をつくる人でしょう。料理道具を持っているほうがいいんじゃないかって。でも、包丁をもっている女の子についていく……ってどこかホラーっぽく見えますからね(笑)。
一同:ははは。
梅津:包丁だと、さすがに作品と合わないかなと思って、フライパンに変更したんです。
――原作の川井マコト先生は、リョウがフライパンの上で踊るところがお好きだそうです。
梅津:もうちょっと尺(時間)があれば、長い尺でしっかりと踊らせたかったところだったんですけど。前回の「それでも町は廻っている」の時と同じように、今回もベテランに声をかけています。今回のアニメーターは若手とベテランの半々ですね。若手ばかりだと僕自身が物足りなくなっちゃうから、やはりベテランがいないとね。ベテランのアニメーターさんは経験をたくさん積んでいるので、それだけ引き出しの数も多いんです。きりんちゃんの動きなんていうのはアニメーターさんの功績が大きいと思いますよ。あと、今回は編集を松原理恵さんにお願いできたのも良かったです。松原さんは「オープニングはこう見せたい」という、自分の意見を持っている方で、お互いにアイデアをやり取りしながらできたので、とても刺激的でした。
――新房監督と梅津さんがご一緒するお仕事は「新・破裏拳ポリマー」(1996年・新房監督作品/梅津泰臣はキャラクター設定)から数えると約19年になりますね。
梅津:しかも、新房さんと僕は同郷なんです。となりの町だけど。
新房:梅津さんともずいぶん長い付き合いになりましたね。
梅津:そうですね。新房さんは「それ町」の時も、今回も、僕に任せてくれたので、すごく仕事がやりやすかったです。
新房:そうですね。今回も、基本的には「アリス」のイメージであること以外はお願いしませんしね。
梅津:もしも新房さんがコンテの段階で「もっと食べる絵を入れてくれ」と言っていたら、こちらもコンセプトを変えたかもしれないけど。おかげで最後までブレずにできたのがよかったです。
新房:ありがとうございました。【記事:WebNewtype】