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キーマン・茂木総監督に聞く「ナナシス」──(2)

ゲーム「Tokyo 7th シスターズ」のキーマン・茂木伸太郎インタビューの第2回。彼は、どのような過程とスタンスで作品をつくり上げていったのか。

●作品に触れてもらうのに適していたのがたまたまスマホアプリだった

──監督やプロデューサーの作家性が入った作品は、ソーシャルゲーム業界のものづくりでは珍しい気がします。

茂木:そうですね。僕は「Tokyo 7th シスターズ」を“ソーシャルゲームをつくっている”という認識でつくってなかったからもしれません。あくまで作品をつくっているつもりだったというか。

──アプリという形態を取った理由はなんでしょう。

茂木:会社からは「ブラウザでやるって手もあるんじゃない?」とも言われたんです。でも、シナリオをつけたい、音楽を入れたい、ボイスを入れたい、となるとアプリしかなかったんです。

──ビジネス主導ではなく、茂木さんの作家性を出したものづくりに最適な表現方法がスマホアプリだったんでしょうか?

茂木:というより、作品を見てもらえる場、プラットフォームとして最適だったというか。当時はもうソーシャルゲームの収益システムだったりに批判が高まっていて、スマホのアプリであるというだけで作品扱いされなかったように思えます。でも、スマホというプラットフォームについて、僕は個人的にポジティブにとらえていたんです。いちばん大事なのは「free to play(=無料)」で、時代に合う形で作品に触れてもらう機会を多くするという目的に適していたのがスマホだったんですね。すべては作品を見てもらいたいという気持ちありきで、ビジネスのことはあまり考えてなかったのかもしれないですね。

──言葉だけではなく、最初の一年は課金要素なしで運営していたのだから説得力があります。

茂木:そこに関しては、社長の西村(※Donuts代表取締役・西村啓成)から「作品としての力にそれだけ自信があるなら、無料でやってみれば」と強く勧められたからというのもあります。そこはさすがにかなり悩みましたが、最終的にはそうしました。不思議ですよね(笑)。ソーシャルゲームをつくっていた会社なのに、作品という形での評価しか見ることができない形でのリリースになったんですから。それでふたを開けてみたら、「ゲームはあんまりだけどコンテンツとしてのナナシスいいよ」という声がたくさんいただけたんです。正直、初期は僕もコンテンツのクオリティを出すことに手いっぱいでゲーム要素をきちんと見られていなかったし、人員も足りていなかったので、ゲームの練り込みができていなかったのは認識しています。でも、それでもコンテンツはいいと言ってくれる人がいたおかげで、会社としても作品としての力を認めてくれた部分があったんです。そしてゲームのリニューアルも決定された。それが昨年秋のリニューアルまでの流れです。

──茂木さんとしては単一のスマホアプリではなく、「ナナシス」というキャラクターや世界観を包括したコンテンツ、IPをつくろうとしたんですよね?

茂木:最終的に目指す方向性としてはそうなります。でも、僕個人としてはもっと同人的というか、「ナナシス」という映画を一本つくり上げて、それが横に広がっていってほしいという感覚でしかなかったです。他にアイドルものの商品や作品がそれこそ山のようにある時代で、作品を蔑ろにしていきなりメディアミックスをやるという選択肢は取らずに、やっぱりそこも作品ありきにするべきだと考えていたんだと思います。

──先行するアイドルコンテンツには80年代〜90年代のアイドルソング、ゲーム音楽、アニソンの文脈がかなり入っています。「ナナシス」は独自性として、ボーカロイド以後の音楽を意識しているように感じます。

茂木:制作費を得るための建前の戦略としては、それはあります(笑)。でも、いちばんはやっぱり単純に僕が好きだったからですね。テーマソングの作曲をkz(livetune)さんにオファーしたのも、彼の音楽がもともと大好きだったからです。先行するアイドルコンテンツとの差別化を考えたというよりは、僕自身がもともとDTMをやっていて、ループものであったり、物語性があったり、泣きメロが好きという個人の趣味の延長に「ナナシス」の今の音楽があって、それがたまたまファンの皆さんに受け入れていただけたという感覚です。だからこそ「ナナシス」の音楽はこれからも枠に囚われずに、どんどんいろんなものに挑戦していくと思います。戦略でヒットする音楽がつくれるんだったら、みんなそうしていると思いますしね。あ、ボーカロイド以後ということなら、そこも結局クリエイターの姿勢にひかれたんだと思います。ボカロ世代の彼らは、スポンサーがいなくても独立して音楽がクリエイトできるじゃないですか。そして当然自分の作品なので細部まで決定し、最後までこだわりぬく。そういう人たちにこそ僕は強い共感がもてるので、いっしょにつくりたいと思ったのはあります。【記事:WebNewtype】

「Tokyo 7th シスターズ」公式サイト:http://t7s.jp/

インタビュー=中里キリ
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