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キーマン・茂木総監督に聞く「ナナシス」──(3)

「Tokyo 7th シスターズ」のキーマン・茂木伸太郎インタビューの第3回。2034年、アイドルが消えた世界でアイドルを描くという独特の題材はどんな思考から生まれたのか。そして茂木から見た「アイドル」とは?

●アイドルはいつか終わるから輝く

──2034年、アイドル不遇の時代という設定の出発点を教えてください。

茂木:設定に関しては、まずアイドルというジャンルがリアルにしろ、二次元にしろ、企画当時の2012年には、すでに現実に衰退傾向にあると思っていたのがひとつです。存在価値というか存在意義というか、なんのためにやるのか、なんのためにそこにいるのか、それが揺れている。なので、未来では一度壊れるだろうと。もうひとつは表現としてです。これは個人的な話なんですが、虐げられていたり、大事なものを失くしてしまった人間の視点でしか僕はものが描けないんですよ。厳しい環境で踏ん張る人間にこそ輝きを感じるというか。とにかくそういう理由で決めた設定です。だから、アイドルがいない時代の彼女たちはただのアイドルをめざしている人間、つまり人間として描かなくちゃならないと思っていて、今でもそういう描き方をしています。

──アイドルとして描かないという出発点であっても、作中では特別な存在としてアイドルのすばらしさを描く必要が出てくると思います。

茂木:もちろんそうです。なので、あくまでアイドルの文法は外さずに描かないといけないと思っている部分もあるし、逆にあえて外している部分もあります。でも、アイドルのすばらしさを描くのと同時に、むしろ描くべきだと思うのはアイドルの人間として苦しさとか受難だと思ってます。それが誠実に人間を描くことなんじゃないかなと思ってます。「4U」(作中のガールズバンド)のストーリーは、まさにそういう部分を表現するためにああいう形にしました。あれは九条ウメの話ではあるんですけど、僕にとっては同時に七咲ニコルの物語であって、それこそ「七咲ニコルなんて死んでしまえばいい」なんてセリフをわざと入れてるのもそうです。あれは僕にとってはアイドルものだからこそ、なくてはならないセリフだったんです。

──アイドルではなく、人間としての彼女たちの魅力を描きたいわけですね。

茂木:そうですね。彼女たちにとってアイドルはあくまでも通過点なんです。人生のいち期間でしかない。でも、受験勉強や部活で頑張るのといっしょで、アイドルという経験の中で成長して変わっていくはずなんです。その成長と変化こそがいちばん美しいと思ってます。冒頭でも言いましたけど、「それがいちばん美しい」と思っているものだからこそ、素直にそれをつくってます。プレイヤーキャラに当たる支配人も、そんな普通な女の子たちを妹を見守るように見つめる存在として素直に描いています。

──キャラとしての支配人像が受け入れられているのは、遊んでくれる支配人さんたちと茂木さんのシスターズに向ける視線が近いんでしょうね。

茂木:あはは、どうなんでしょうね(笑)。それは、それこそユーザーさん各々なので僕にはわからないです。

──ミニアルバム「Longing for summer」のドラマは支配人がハルに古びたCDを聴かせるシーンから始まります。あのくだりはつくり手の茂木さんが、受け手の支配人(=プレイヤー)たちに、俺が今まで見つけてきた宝物を聴いてくれ、と言っているように感じました。

茂木 いやいやいや、そんなおこがましい気持ちではないですよ(笑)。でも、本当に「ハルノヘッドフォン」は素直な自分の気持ちで書きました。本当に初期からナナシスを好きだと言ってくれた支配人の皆さんへでもあるし、シスターズである彼女たちへでもあります。それから、あのCDは昨年10月の「マチ★アソビ」で年末までにCDを出しますと言ってしまったので、スケジュール的には地獄ですが、その皆さんとの約束を違えたくなかったんです。キャラデザのMKSさんから送られてきたジャケットのラフに描かれていたハルの表情がもう衝撃的にすてきで……何かわからないけど、何かを待ち望んでいるような、心で何かを聴いている女の子のひと幕をそのままドラマで描きました。だから、劇中では聴いてる最中を描くことはしたくなくて、聴いている最中ではなく、聴き始める前と後ということにしました。それに、タイトルもハルのイメージですね。名前もそうですし(笑)。ハルは春生まれでして、また僕自身もそうなんですけど、春生まれの人って、夏という季節へのあこがれをずっともっているというか。生命がいちばん輝く季節が夏で、春はそれを夢見ている季節というか。少なくとも僕はそんなふうに思っていて。それはもうハルの設定を考えている頃からあるイメージだったので、そのまま使いました。

──アイドルである女の子たちが未完成で、いずれ輝く夏を迎えるというニュアンスも入っている感じでしょうか。

茂木:そのとおりです。まだまだ春先になったくらいで、夏はこれから来るんです。【記事:WebNewtype】

「Tokyo 7th シスターズ」公式サイト:http://t7s.jp/

インタビュー=中里キリ
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