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「この世界の片隅に」公開直前!片渕監督SPインタビュー【中編】

いよいよ公開が今週土曜日(11月12日)に迫ってきた「この世界の片隅に」。先日開催された第29回東京国際映画祭では特別招待作品として上映され絶賛されただけでなく、早くも世界14カ国での上映が決定。公開前から話題沸騰となっている本作品、公開を待ち遠しく思っている人も多いのではないでしょうか。

そんな本作の監督を務めた片渕須直さんのインタビュー中編をお送りします。今回は実力派スタッフが作り上げた精緻な映像に魂を吹き込んだ声優さんたちについての話題です。

■僕としては最良のキャスティングだった思います

――そのこだわりの映像に魂を吹き込んだ演者さんたちのお芝居もまた自然でした。

皆さんナチュラルですよね。一部、ナチュラルじゃないはずの方もいますけれど(笑)。新谷真弓さんなんて、絶対ナチュラルな感じで出てこないだろうなあ、と思っていたんですよ。ただ、新谷さんは最初からすごく作品に興味を示してくださって、なおかつ広島出身なので広島弁の手助けをしてくださるというお申し出までしてくださったんです。そこで全ての台詞を広島弁で新谷さんにしゃべっていただいて、その録音したのを他の声優さんのガイドにしたいとお願いしたいんです。

その中で新谷さんが周作さんのお母さん、サンのセリフを読んだ時、ものすごくきちんとした年齢感と風土性を感じたんです。こういう芝居ができるのならば他の役もできるだろうけれど、このお母さんをここで逃すと他の人は絶対にできない!と思ったので――普段の新谷さんのお声からはまったく想像できない役柄ですが――お願いしました。こんな風に演じられる方だったとは思わなかったです。正直、びっくりしました。

――周作を演じた細谷佳正さんも他ので演じられている役とは違ったお芝居をされていました。

周作さんを演じてくれた細谷くんは「自分としては普通であることを演じたいという気持ちがずっとあって。この作品ではそれをやります」と言ってくれたんですね。周作さんはイケメンですから、うっかりするとすぐに“二枚目”になってしまう。細谷くんの声もだいぶ二枚目っぽい声なんだけれど、いかにそこをニュアンスとして普通に演じられるのか、普通にただそこにいる人として演じられるのか。それを自分のテーマとして最初から掲げて演じてくれたのが、すごくうれしかったですね。

――すずの妹、すみを演じた潘めぐみさんも落ち着いた印象でした。

すみちゃんは、うっかりしたら絵に描いたようなお姫様になるんじゃないかと思っていたんですが、潘ちゃんの演じ方がすごくて、まったくそうならなくて。すみちゃんは、いわゆる“広島の片田舎にいるかわいい女の子”なんですよ。決してお姫様じゃないし、ご令嬢でもない。その微妙さを絶妙な芝居でちゃんと着地させているのがすごくよかったですね。

――すずさんとの絡みが多い径子さんは難しい役だったと思います。径子役の尾身美詞さんを選ばれた理由は?

尾身さんは径子とは違う役でオーディションにいらしていたんです。ただ、そのお声、年齢感からいうと径子さんにぴったりだと感じて、オーディションの時に台本ではなく原作の一部を読んでもらえますか?ってお願いしてしゃべってもらったんですね。そうしたら、その瞬間に径子さんが飛び出てきた。

尾身さんは原作の熱心なファンで、しっかりと読み込んでいらっしゃったんです。だからその場で役作りができちゃった。しかも、話してもらった台詞を僕らの作った映像にはめ込んでみたら、なんとタイミングまでぴったり。まさに僕らの想像力の中から飛び出てきた感じだったんです。

そして径子の子どもである晴美さんを演じてくれた稲葉菜月ちゃんですが、彼女はもう11歳でそれなりの年齢なんですね、決して小さな子どもではない。にもかかわらず、子どもの声、幼児の声を芝居として演じられる役者なんです。「晴美さんって5歳なんですよね、じゃあ5歳になります」って言って……あの切り替えはすごかったですね。すごく自然な5歳児の声じゃないですか。あれが演技としてできるのだから、この先が楽しみな演者さんです。

――演技という点では、出ているシーンはそれほどでもないのに、京田尚子さんの演じるイトの印象がすごかったです。

京田さんといえば「風の谷のナウシカ」で伝説を語る大婆様が真っ先に思い浮かぶと思うんですが、「風の谷のナウシカ」って約30年前の作品ですから、その頃は(当たり前ですが)もっとお若かったはずなんすよ。そして今80代になられて、ご自身の年齢よりもう少し若いおばあさんの役をお願いしましたが、さすがというしかない素晴らしい収録でした。京田さんは広島出身ではなかったので、なにか方言的なアドバイスができたらとスタジオに広島出身のスタッフをできるだけ集めて収録したんです。そうしたら、そのスタッフ全員が“普通の広島のおばあさんが居る”って感動したくらいです。

――世界観の説明、描写に関わる場面で登場が多かった円太郎さんはいかがでしょう?

円太郎さんをお願いした牛山茂さんは、以前「BLACK LAGOON」という作品で第二次世界大戦中のUボート艦長を演じていただいたんです。戦争の英雄なんだけれど故郷に家族をおいてきたという生活感を感じさせるお芝居をしてくださり、素晴らしいキャスティングだったと思っているのですが、今回の円太郎さんも家族を背負った上で海軍の技術者として働く生活感のある男性は……と考えて、牛山さんにお願いしました。家庭人であり技術者でもある――ここが肝要なんですよね。僕としては最良のキャスティングだった思います。

次回はいよいよ最終回。すずの対の存在だというリンを演じた岩井七世さん、そして、すずの幼なじみである水原哲を演じた小野大輔さんについて監督が語ります。さらに作品の主題、込めた想いについても――。なお、後編はネタバレを含むため、11月12日(土)の公開後の掲載となります。乞うご期待!<後編に続く>

■劇場アニメ「この世界の片隅に」
公開  :11月12日(土) テアトル新宿、ユーロスペース他で全国ロードショー
スタッフ:原作…こうの史代「この世界の片隅に」(双葉社刊)/企画…丸山正雄/監督補・画面構成…浦谷千恵/キャラクターデザイン・作画監督…松原秀典 /美術監督…林孝輔/音楽…コトリンゴ/プロデューサー…真木太郎/監督・脚本…片渕須直/製作統括…GENCO/アニメーション制作…MAPPA/配給…東京テアトル
キャスト:北條すず…のん/北條周作…細谷佳正/黒村晴美…稲葉菜月/黒村径子…尾身美詞/ 水原哲…小野大輔/浦野すみ…潘めぐみ/ 白木リン…岩井七世/北條円太郎…牛山茂/北條サン…新谷真弓 他

リンク:「この世界の片隅に」公式サイト
    公式twitterアカウント・@konosekai_movie
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