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WIT STUDIOだからできた、CLAMP×音楽という新機軸の作り方――Netflixシリーズ「グリム組曲」プロデューサー鼎談


世界中で最も有名な物語「グリム童話」が新たな姿に! Netflixで現在配信中の「グリム組曲」は6つの物語で構成されているオムニバス作品だ。創作集団・CLAMPの皆さんがキャラクター原案を手がけ、宮川彬良さんが音楽、アニメーション制作をWIT STUDIOが担当する力作となっています。今回はその制作を手掛けたエグゼクティブプロデューサー・櫻井大樹さん、WIT STUDIO代表取締役社長兼プロデューサー・和田丈嗣さん、アニメーションプロデューサー・二宮源太さんの3人に「グリム組曲」の制作についてお話を伺いました。


画面左より和田丈嗣さん、二宮源太さん、櫻井大樹さん


――「グリム組曲」とは、どのような経緯で企画された作品だったのでしょうか。
櫻井 原作となる「グリム童話」は世界中で知られている有名な昔話集です。ただ、そのお話には不自然に感じるところがいくつかあるんですね。たとえば「シンデレラ」に出てくるシンデレラはかまととぶりすぎていないか、とか。「赤ずきん」に出てくる赤ずきんは、おばあちゃんがオオカミに扮していることに早くから気づいているだろう、とか。そういうところが以前から気になっていたんですね。ある時、脚本家の横手(美智子)さんにその話をしてみたんです。そうしたら盛り上がって、「そういう作品だったら私が書いてみたい」と興味を示してくださった。企画って上から依頼すると進みにくいことがあるけれど、やっぱりライターさんがノッてくれると一気に進み始めるものなんです。その後、横手さんとプロットを練っていたら、うまくいきそうな感触がありました。じゃあ、制作現場を探そうと考えて。最初にお声掛けしたのがWIT STUDIOさんだったんです。企画がスタートしたのはコロナ禍前でした。
和田 昨今、アニメーション業界全体で作品の大作化、長期化、シリーズ化という流れが生まれてきています。それはスタジオとしてはありがたいことだし、経営的にも、スタッフ的にも良い状況だなと捉えています。WIT STUDIOでも「SPY×FAMILY」のように長く愛される作品に関わることが増えていますが、それでもやっぱり忘れちゃいけないのはオリジナルアニメーション作品をつくることだと思うんですね。それは石川(光久/Production I.G 代表取締役会長)の教えでもありました。今回はほぼオリジナル作品ですし、新しい「グリム童話」×Netflixって何か楽しそうな感じがしたんですよね。それで参加させていただくことにしました。

――新しい「グリム童話」×Netflixとして、櫻井さんはどんな作品にしようとお考えだったのでしょうか。
櫻井 今回の企画には、手塚治虫さんの「火の鳥」のイメージがあったんです。各話ごとに時代が変わって、ストーリーのジャンルも歴史ものだったりSFだったりする。「火の鳥」では、どの話も必ず火の鳥が出てきて、登場人物たちを導いていく。この「グリム組曲」では、福圓(美里)さんの演じるシャルロッテが想像している物語として、6つの物語が語られていきます。そこに鈴木(達央)さんが演じるヤコブや野島(健児)さんが演じるヴィルヘルムがいろいろな役に扮して出てくる。そして、作品を導いていくファムファタルの女性を福圓さんが演じる。そういう構造を考えていたんですよね。そうすることで、ひとつのシリーズとして楽しんでもらえるんじゃないかなと。


エグゼクティブプロデューサー・櫻井大樹さん


――今回のキャラクター原案はCLAMPさんが務められています。CLAMPさんを起用されたきっかけは?
櫻井 この企画が、横手さんを中心に転がり始めたころから、キャラクター原案はCLAMPさんがいいなと思っていたんです。僕はTVアニメ「xxxHOLiC」と「劇場版xxxHOLiC 真夏ノ夜ノ夢」の脚本を担当したことがあって、横手さんはTVアニメ「xxxHOLiC」のシリーズ構成を務められていた。僕と横手さんの中では、CLAMP先生のキャラクターのイメージがあったんです。じゃあ、僕がCLAMP先生にお会いしてきますということになって。CLAMP先生のもとへ伺ったんです。夜にお会いすると、お酒を飲むことになりそうだったので、お昼の2時半とか微妙な時間にアポイントメントを取って。それで事務所に伺ったら、もうシャンパンを冷やしてお待ちになっていた(笑)。僕がお酒が好きなので、気を遣ってくださったのだと思います。そういうことなら、と僕も遠慮せずに飲んでしまいました(笑)。CLAMPさんは作品に興味をもってくださって、参加してくださることになったんです。

――Netflixは、CLAMPさんとパートナーシップを締結したことが2020年に発表しています。そのことと「グリム組曲」の取り組みは連動しているのでしょうか。
櫻井 「グリム組曲」のキャラクター原案の依頼が先にあったんです。そこで一度ご一緒したことから、長期的な提携(パートナーシップ契約)につながったという感じですね。

――「グリム組曲」は各話ごとに時代も違えば、世界観も違う。CLAMPさんにとっては幅広い年代のキャラクターを描くことになったのでは?
櫻井 そうですね。だいたい23人くらいのキャラクターデザインをあげていただきました。ひとつのキャラクターについても、いくつかバリエーションをつくってくださって、その中から選ばせていただくものもありました。実は、最初の打ち合わせでCLAMPさんから確認されたのは「史実に忠実である必要はありますか?」ということだったんです。この作品はそこに関してはこだわっていなかったので、「雰囲気で構いません」とお話しました。それで独特な髪型やドレスがたくさん登場するものになったんです。とくにシャルロッテの髪型は、実際にはうなっているのかわからない。こういうデザインはやっぱり、普通のデザイナーからは出てこない、発想がぶっ飛んだ部分だと思います。デザインがスーパークリエイティブだったし、スケジュールもしっかりと守ってくださった。プロフェッショナルにお仕事をしていただいたと思っています。


WIT STUDIO代表取締役社長兼プロデューサー・和田丈嗣さん


――WIT STUDIOでは、二宮さんがアニメーションプロデューサーに立たれています。二宮さんをアニメーションプロデューサーに起用された理由は?
和田 二宮はWIT STUDIOの中でちょっと特殊な立ち位置のスタッフなんです。いろいろな作品のいろいろな班に参加していて、いろんなクリエイターとつながっている。みんなが二宮のことを知っていて、困っているスタッフから「ちょっと助けてくれよ」と声をかけられるようなポジションなんですよ。今年の忘年会でも司会をしていましたし、その会場でB’zを熱唱したということもありました(笑)。今回、各話ごとに制作チームのスタッフ構成が変わる形で、実態として6つのチームを率いて制作をするような状況だったので、そのまとめ役としての役割を期待して二宮をアニメーションプロデューサーに起用しました。
櫻井 二宮くんが現場にがっつりと入ってくれるタイプのアニメーションプロデューサーなんです。監督のクリエイティブにもしっかり参加して、「この話はこういうところをやりたいのだからここは変えたほうが良いんじゃないか」とやり取りをしてくれる。今回は、二宮くんの頑張りがけっこう大きかったと思いますね。

――二宮さんとしては「グリム組曲」にどのように取り組んだのでしょうか。
二宮 最初はシナリオを読みましたね。まず「シンデレラ」のシナリオを読んで、これはおもしろいなと感じて。そこからどんどん現場に入っていました。
和田 二宮はアニメーションプロデューサーという仕事が初めてだったので、たぶん何が正しいか間違っているかや、一般的なアニメの作り方との違いがわからなかったんだと思うんですよ。でも……だからこそ、最後までやり切ることができたのかなと思いましたね(笑)。6つのオムニバスという構成も内容も独特だし、全編がフィルムスコアリング(映像に合わせて音楽をつくるという手法)ということも、通常のアニメづくりではなかなかない。個人的にはNetflixさんのつくり方を知りたかったという思いもあったので、そこに挑むという気持ちだったんですが、現場の二宮としてはピュアにその現場に向かい合ってくれたのは今回、すごく良かったと思いますね。だって、全話数フィルムスコアリングってWIT STUDIOではやったことがないよ? 
二宮 そうなんですよね。僕としては、音響作業に入る前に、音響スタッフの方々に見せられる映像をつくるのに必死でした。音楽打ち合わせのときもスコア(楽譜)を見てもよくわからないですし、櫻井さんが譜面を読める方で助かりました。
櫻井 今回は音楽的にも、各話ごとに原曲の作曲家を変えていて。第一話はモーツァルト、第二話はグリーグ(エドヴァルド・グリーグ)、第三話はヘンデル(ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル)、第四話はショパン、第五話はベートーヴェン、第六話はドビュッシーとなっているんです。音楽の宮川彬良先生にはその原曲をアレンジして劇伴をつくっていただいているのですが、音楽の打ち合わせで「ここの小節をカットして、ここを繰り返しましょう」とやりとりをしていくんですね。それを宮川先生は対応してくださって、レコーディングでは自ら指揮を振ってオーケストラに指示を出していくんです。それが本当にすごくかったよね。
二宮 いやあ、本当にすごかったです。レコーディングのときはずっと感心していました。
櫻井 たとえば第六話の「ハーメルンの笛吹き」では、登場人物が笛を吹いているカットに、かならずBGMのフルートの音を当てているんです。笛に口が付いた瞬間に、フルートの音が流れ始める。でも、レコーディングのときは絵と音がなかなか合わなくて。宮川先生は何度も何度も録りなおしたんです。レコーディングの後半では演奏者の方にも映像を見せて、「このタイミングで笛を吹いてほしい」と指示をだして……宮川先生が粘ってくださったんです。おかげでフィルムスコアリングならではの映像と音楽がピタッと合った作品ができました。
和田 そういう音楽ができていく過程を見るという経験ができたのは二宮にとっても、WIT STUDIOにとってもすごくいい機会だったなと思います。今回の作品は6編ともスタイルが違うし、美術会社も違う。短編を6本つくっているようなものですよね。WIT STUDIOにとっても挑戦しがいがあった作品になりました。


アニメーションプロデューサー・二宮源太さん


――6編からなる「グリム組曲」を作り終えた手ごたえをお聞かせください。
二宮 現場のアニメーターの皆さんは、最初CLAMPさんの絵に合わせる苦労はあったかと思います。CLAMPさんの絵は頭身が高めですし、複雑なデザインもある。そこをキャラクターデザインの大杉(尚広)さんが丁寧にかみ砕いてデザインしてくださったり、それぞれの作画監督さんが整えてくださったりしてアニメに落とし込んでいくことができたなと思っています。キャラクターがやっぱり魅力的なので、アニメーターさんたちも描いていくうちに楽しくなってくる。我々も上がってきた原画を見るのがいつも楽しみでした。
櫻井 今回参加してくれた監督はほぼ全員、初監督なんです。鎌倉さんは過去にチーフディレクターをされていたと思うんですけど。今回、監督を務めてくださったみなさんがこれから活躍していくと思うのでそれが楽しみですね。今回、二宮くんという若いプロデューサーと仕事ができて、とてもラッキーだったなと思います。
和田 個人的には今回の作品でかなり刺激を受けまして。これからWIT STUDIOとしては音楽を頑張ってみたいなと思っています。ここからいろいろアプローチしていきたいと思っています。僕としては、櫻井さんが「二宮が頑張った」と言ってくれたのがすごく嬉しいですね。やっぱり、二宮はいい映像をつくろうと粘ってくれて、ぶっちゃけ喧嘩もしましたし、社内でもぶつかることもあったと思います。でも、最後まで残ってくれて、これからもアニメを作ってくれるといっている。今回は特別な経験を積むことができたと思うので、ここからが楽しみです。

【取材・文:志田英邦】




■Netflixシリーズ「グリム組曲」
●Netflixにて全世界配信中

スタッフ:監督=第一話「シンデレラ」金森陽子、第二話「赤ずきん」赤松康裕、第三話「ヘンゼルとグレーテル」橋口淳一郎、第四話「小人の靴屋」鎌倉由実、第五話「ブレーメンの音楽隊」竹内雅人、第六話「ハーメルンの笛吹き」仲澤慎太郎、「プロローグ」「エピローグ」久保雄太郎、米谷聡美/脚本=横手美智子/キャラクター原案=CLAMP/キャラクターデザイン=大杉尚広/音楽=宮川彬良/アニメーション制作=WIT STUDIO/制作協力=Production I.G

キャスト:シャルロッテ=福圓美里/ヤコブ=鈴木達央/ヴィルヘルム=野島健児 ほか

リンク:Netflixシリーズ「グリム組曲」

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