アニメ

魂を吹き込んだ13分間——「ボトルジョージ」監督×プロデューサー対談

©CHIMNEY TOWN


4月20日に東京・池袋HUMAXにて試写会が行なわれた、コマ撮り短編映画「ボトルジョージ」。お酒の瓶に閉じ込められた毛虫のような生き物・ジョージと少女・チャコとの出会いから始まる、依存症と家族をテーマにした13分のアニメーション作品です。4月27日にはサンフランシスコ国際映画祭に出展するなど、映画祭を中心に世界での上映を予定しています。
本作品は、「えんとつ町のプペル」を手がけたキングコング・西野亮廣さんが原案と製作総指揮を担当。西野さん率いる「CHIMNEY TOWN」が製作を指揮し、アニメーションスタジオ「トンコハウス」と「ドワーフ」が共同でアニメーション制作に挑みました。監督を務めるのは、アニー賞で作品賞などに選ばれた「ONI〜神々山のおなり」などの作品で知られる、アメリカを拠点に活動するトンコハウスの堤大介さん。プロデューサーは「どーもくん」やNetflix「リラックマシリーズ」、コマ撮り時代劇「HIDARI」など多くのコマ撮りアニメーションを手がけてきた、ドワーフの松本紀子さんです。

本稿では、堤さんと松本さんによるスペシャル対談を実施。「ボトルジョージ」の制作の裏側から、お2人が考えるコマ撮り短編アニメーションの今後まで、幅広くお話を聞きました。


©CHIMNEY TOWN


——本作「ボトルジョージ」をつくるにあたって、「CHIMNEY TOWN」「トンコハウス」「ドワーフ」がひとつのチームとなった経緯について教えてください。
堤 きっかけは2019年に開催した「トンコハウス映画祭」で、西野さんをゲストスピーカーにお招きしたことです。ステージ上で意気投合し、後日飲みに行ったときに「いっしょに何かやりましょう!」という話になって。こういうことって社交辞令としてよくある話だと思うのですが、その翌朝、西野さんから「ボトルジョージ」の企画が送られてきたんです。

——すごい行動力ですね。
堤 そう、僕もまさにその行動力にほれ込んで、作品をいっしょに作りたい思いが増しました。作品をつくるときってアイデアが重要視されがちですが、僕にとっては、だれとやるかも非常に大事。人と人とのつながりで、作品は出来上がっていくからです。西野さんの有言実行力にひかれ、「ボトルジョージ」の企画が立ち上がっていきました。

——企画当初から、コマ撮り短編アニメーションでの制作を予定されていたのでしょうか?
堤 最初は絵本として完成させよう、という企画からで、そのイラストを「トンコハウス」が担当する予定でした。でもやっぱり僕は映画を撮る人間なので、絵本じゃなくて映画にしませんかということを提案したんです。そして短編映画にするのであれば、ぜひ「コマ撮り」で、それならば「ドワーフ」と、もっというと松本プロデューサーといっしょにやりたいということを西野さんに持ちかけました。それで3人で打ち合わせをしたのですが、初めに松本さんからは忠告を受けましたよね。
松本 お話自体は、大変ありがたいのですが、「本当に大丈夫かな?」というのが正直な第一印象でした。そもそもコマ撮り映画の制作にはお金もかかるし、特に瓶の中に入っているジョージやリアルな液体の表現って大変です。普通に考えるとコマ撮りにはならない企画だから、「本当に大丈夫ですか」と繰り返したのを覚えています。
堤 でも課題が浮き彫りになればなるほど、西野さんも僕も「やってやろう」という気持ちが高まっていって。
松本 堤さんも西野さんもチャレンジャーな気質がある方。むしろコマ撮り「らしい」企画ではおもしろくないと感じられるんですよね。だから本作も、最終的にはお2人の熱意に説得され、できることをやるのではなく、やりたいことをやろうという思いで進んでいきました。

——ちなみに、堤さんの「松本さんといっしょにやりたい」という思いはどこからきたのでしょう?
堤 監督とプロデューサーの関係って、立場に上下関係が生じることが少なくないのですが、松本さんは僕と対等に接してくださるんです。だから正直に、思ったことを言い合える。監督とプロデューサーって夫婦のような関係性で、対等なやり取りがなければうまくいかないと思っています。
松本 そうですね。堤さんは非常にオープンに意見を取り入れてくださるので、私もやりやすかったです。
堤 松本さんはもちろん、ドワーフのメンバーの皆さんといっしょでなければ、本作は完成できなかったかもしれません。もちろん僕も、何度も日本とアメリカを行き来しながら現場への指示を出しましたが、僕がアメリカからリモートでのコミュニケーションを取るときは、現場は主に助監督の堀川(大輔)さんが仕切ってくださっていました。彼の存在もとても大きかったです。積極的にコミュニケーションを取ってくれるタイプで、うまくいかないことや悩みまで共有してくれるんです。日本のアニメーション業界でよくみられるのが、大変なことを口にせずになんとか頑張ってしまう光景。でも、僕はそれがすごく苦手で。言ったとおりにすべてが叶うことを、望んでいないんです。課題があるならみんなでいっしょにちゃんと考えて、進んでいきたい。課題をしっかり共有してくれる堀川さんがいてくれたから、信頼して現場を任せ、自分の監督としての業務に集中することができました。
松本 うれしい! 堀川さんに伝えます。


©CHIMNEY TOWN


——実際の撮影には、どれくらいの期間がかかったのでしょう?
松本 1ヶ月弱、背景となる素材撮りを行ない、2ヶ月かけてアニメーションの撮影を行なっていきました。でも実際、コマ撮り作品って、撮影よりも準備のほうに時間がかかるんです。キャラクターデザインができたら、絵から立体へと人形を造形して、セットをつくって。準備が非常に大事ですよね。
堤 そうですね。撮影前にはストーリーリールいうストーリーを視覚化したものを制作するのですが、日本と海外では認識が異なる気がします。日本の場合はコンテのような簡易的なもので進行しますが、海外の場合はムービーとして、ほぼ最終版に近いものをつくるんです。そうすると監督の頭の中のイメージが全て視覚化されるので、現場に迷いがなくなります。今回の作品もトンコハウスでストーリーリールを制作し、ドワーフさんと共有。アニメーターの方の意見などを取り入れながら撮影を進めていきました。

——キャラクターデザインはどのような流れで決まっていったのでしょう?
堤 ストーリーからイメージを組み立てて行きました。そのキャラクターが何を表わしていて、どういう存在なのか……これはストーリーがなければ考えられません。
松本 そうですね。キャラクターデザインは、単なる絵ではありません。その子がどういう性格で、どういうバックグラウンドがあるのかなどをすべて含んでいます。ストーリーをもとにトンコハウスさんが描いたキャラクターの絵を、ドワーフが立体に造形することで、どんどん命が吹き込まれていく。そのプロセスを見ているのも、すごく楽しかったです。そうそう、少女のチャコの顔は、左右対称ではないんですよ。だから人間らしさがあるというか。
堤 人間の顔って、左右対称じゃないですからね。歯もあえてふぞろいにしています。チャコの年齢はちょうど歯が生え変わる時期で、きれいにそろっているのはむしろ不自然。そういうちょっとしたところに手を加えるだけで、キャラクターのかわいさが、もう何倍にも増すんですよ。


©CHIMNEY TOWN


——現実の世界と同じように、アニメーションのキャラクターも立ち上がっていくのですね。
堤 魂を吹き込むというのがアニメーションの語源ですから。手描きであろうとCGであろうと、キャラクターが現実世界で生きているように表現することを大切にしています。そうすると、ただ「かわいいね」だけじゃなく、見た人に共感してもらえる作品になると思います。
松本 そのためにも、まずは物語をきちんとつくり上げることが大切ですよね。特にコマ撮りの作品は、撮影するプロセスの楽しさに、ついついおぼれてしまいやすい。ストーリー性がしっかりある、おもしろい作品をつくって、その役者として人形が存在する。そういうスタンスを大事な軸として、ていねいに作品をつくっていければ、コマ撮り作品はもっと普遍的なものになると思います。
堤 そうですね。将来コマ撮り作品がよりメジャーになるためには、「人形劇から脱皮」する必要があると思うんです。人形劇だってかわいいし、すてきです。でも、そこを超えて、お客さんが感情移入して人形であることを忘れられたら、その瞬間にマジックが生まれる。今回の作品でも、見ている人が人形であることを忘れてしまうくらい、魂を吹き込むことをめざしました。ふだん、いかに世の中にあふれる物を観察しているかが、作品には表われてくるんです。たとえば消しゴムひとつにしたって、同じものはひとつとしてない。どの部分でどう消すのか、誰が使うかによって形は変わっていきます。そういうふうに物をひとつひとつをていねいに観察し、表現する。この作品では、そんな理想的な表現を叶えることができました。

——ありがとうございました。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
松本 作品は出来上がった瞬間、見る人のものになるのだと思っています。見た人が何を受け取って、どう感じたのかを、聞かせてほしいですね。サンフランシスコ国際映画祭を皮切りに、海外の映画祭への出展も予定しているので楽しみにしていてください。ただ、今のところ日本で上映を予定しているのは、大阪での試写会のみなんです。
堤 日本の映画祭の方々がこの記事を読んで招待してくだされば、僕らはどこでも行くつもりです! 「CHIMNEY TOWN」「トンコハウス」「ドワーフ」という3つのエネルギーが集結して出来上がった「ボトルジョージ」。ひとつでも欠けていたらたどり着けない、新しい領域に行くことができた作品だと感じています。短編映画だからこそできる表現がある、そのテーマを追求できたことを、誇りに思います。

【取材・文:冨田ユウリ】


■「ボトルジョージ」
スタッフ:監督&脚本…堤大介(トンコハウス)/製作総指揮&原案&脚本…西野亮廣 (CHIMNEY TOWN )/プロデューサー…松本紀子(ドワーフ)/助監督…堀川大輔/プロダクションマネージャー…合田貴菜(ドワーフ)/編集…西林杏奈/ストーリーボード…中村優香/音響…高木創/音楽…Zach Johnston、Matteo Roberts/プロダクションデザイン…舩木愛子、土屋文乃/コンセプトアート…稲田雅徳、橋爪陽平(トンコハウス) /キャラクター立体原型…舘岡孝/人形制作設計…原田脩平(ドワーフ)/リードアニメーター…Frej Bengtsson/撮影監督(カメラ)…河井大/撮影監督(照明)…新井朱句世/VFX監督…杉木完(ドワーフ)/コンポジター…帆足誠/製作…CHIMNEY TOWN/制作…トンコハウス、ドワーフ

リンク:「Bottle George」公式サイト 
    「ボトルジョージ_dwarf」インスタグラム 

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