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「チラムネ」アニメの幕開けと幕引きにおける物語——「千歳くんはラムネ瓶のなか」たなかまさあき&猫富ちゃお 対談!

©裕夢/小学館/チラムネ製作委員会


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TVシリーズ「千歳くんはラムネ瓶のなか」にて、出色のOP/EDコンボを繰りだしているアニメーションディレクターたなかまさあきさん(OP担当)と、猫富ちゃおさん(ED担当)の対談が実現しました! 

どのような思いのもとOP/EDが生まれていったのか、お互いの映像への感想など、作品愛あふれるお話は、発売中の月刊ニュータイプ1月号「千歳くんはラムネ瓶のなか」巻頭特集に掲載。WebNewtypeでは、誌面に載せきれなかったお話をご紹介します。今回が初対面だったというお2人。お互いのクリエイションへのリスペクトや作家としての矜持がうかがえる語らいを、本誌1月号と合わせてお楽しみください!


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——「月刊ニュータイプ」2026年1月号でも語っていただいていますが、猫富さんはOPのヒロイン紹介パートの名前出し演出にグッときた、と。
猫富 ほんと、めっちゃかわいい! 見た瞬間からキュンキュンしました。キャラのアウトライン線の太さひとつとっても、ちょっとミスったら、一気にダサくなるじゃないですか。
たなか 難しいですよねどこまでトライアンドエラーできるのか、現場やスケジュールによって違いますし。どこまで自分で描くのか、誰に任せるか、とか。 ‎
猫富 そうそう。どの作品、どのタイミングでどのネタに挑戦すべきか……。寝かすべきなのか、今戦うべきなのかってすごい迷います。2D的なグラフィックを生かした画づくりは、それに強い布陣が集まってるときにやりたいけど、でも、怖がってたらずっとできないままだし、みたいな。
たなか 名前出しは、「ヒロインは平等」「全員がメインヒロイン」という本作の作品コンセプトにすごく合っているフォーマットだと思ったので、やりたいと思いました。ひとつ心残りがあるとすれば、メインヒロインのひとりとも言えそうな健太をその流れに入れられなかったことですね(笑)。
猫富 たしかに、健太はヒロインのひとりだから! かわいいですよね。
たなか うん。緑の髪なんだ~とか思って。現場では完全にヒロイン扱いですよね。
猫富 あの、私、たなかさんのすごいファンなんですね、勝手に。だからOPがたなかさんになったと聞いて、「Vコン上がったらすぐ送ってほしいです!」と担当デスクの方にお願いしていたんです。なので、Vコンとかいろいろ拝見していたんですけど、もうほとんどコンテの時点で完成していて。たなかさんの作品はほぼ全部……CMとかも全部チェックしているのでいろいろ想像していたんですけど、想像以上でした。その後の完成映像も全体のルックとしては明度が高いパステル調で、線の太さが一定じゃなくて、太くするところは太くするけど色トレスとかも入っていて。マジやばい完成度で、ほんとに眼福でした。
たなか 僕も猫富さんのコンテを見たとき、逆にどういう映像になるかわからない、抽象的なカットがけっこうあって、どう処理するんだろうってすごく楽しみでした。


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——別チームで動かれているOP/ED制作も、やっぱりお互い刺激を受けて、というのはあるんですね。
猫富 たぶん私だけ、勝手にのぞき見してただけなんですけどね(笑)。 わあ、こういう修正入れるんだあ、とか。

——修正と言えば、OPでは作画監督を務めた木野下(澄江)さんが、たなかさんから返ってくる演出修正が熱くて非常に刺激を受けたとお話されていました。人生で一番くらい楽しい仕事だったと。
たなか ええ、ほんとですか!? めちゃくちゃうれしい!と言いつつ、でもそれは逆にある種の僕の未熟さの表われでもあって……とかって言っちゃうのが僕っぽいんですけど。そういう方法でしか、制作をコントロールする方法を知らないんですよね。もっと違うアプローチも世の中にはたくさんあって、そうしている演出家もたくさんいると思うんですけど、自分の場合は、自分の手を動かすことで、なんとかやってるみたいなところがある。本当はもっとアニメーターさんのインスピレーションに委ねたコンテもあり得ると思うんですけど……。だから、熱のこもった修正というのは、僕の未熟さゆえの現象なんです。
猫富 でも、うれしいですよね。誰かにそう思ってもらえるって。
たなか そう、本当にうれしいしありがたいです。
猫富 EDの作監さんは穂積彩夏さんと栁川沙樹さんで、feel.さんの隠し玉というか、業界でも有名な方々です。この間も別作品の打ち合わせで「クレジットを見たらあのお2人が作監に入ってて、めちゃくちゃビビった」と言われたくらい。そんなすごいお2人なので、私はまず緊張しちゃって、一番下っぱのつもりで「作監はお2人なので、お2人の判断が正しいと思います」みたいな感じで返していたんです。だけど、お2人はそうは思っていなかったみたいで、「猫富さんのつくりたい映像をつくりたい!」と言ってくださって。結構キャラ表からあえて逸脱して、心象を押し出す方向でやらせていただきました。

——とても鮮烈に、本編とは異なるタッチで千歳朔を描きだされて。
猫富 私の段階ではほとんどキャラ表を見ずに作業をしていたんですけど、でもまあきっと作監のお2人がいい塩梅に戻してくれるだろうと思っていたら、「気持ちを優先したらこのままがいいと思う」みたいな感じで、すごく拾ってくださって。今のルックになりました。ラムネ瓶の修正もすごくて(「月刊ニュータイプ」1月号記事参照)どうしてそこまで頑張れるのか……とクラクラしました。今まで自分は、自分の担当している演出回に関しては、自分が一番頑張ってるって思っていたんですよ。「私以上にこの話数(OP/ED)を愛してる人間はいない!」とか思っちゃっていたんですけど、今回は人の手によってつくられている感覚がめちゃくちゃありました。穂積さん、栁川さん、アクション作監のあもーじーくんが作品をぐんと引きあげてくれました。私なんか、何かがアップされるたびに「すげーいい!」「神!」とか返していただけで、気づけばあの映像が出来上がっていた、みたいな。あもーじーくんも「エフェクト表現今までと違う感じにしたくて」と言ったら、「こっち系?」みたいにその場で描いてやりとりしてくれて。それも含めて楽しかったです。やっぱりこうやって新しいものをつくっていかないといけないなってあらためて思いました。私は絵が全然描けなくて、あんまりキャラ絵が描けないので、キャラの修正はほぼ入れてないんですけど。
たなか いやいや、それは謙遜がすぎるでしょう!
猫富 絵を描くのがめんどくさくて、すごくうまく描ける人に描いてもらいたいなって……(笑)
たなか なるほど(笑)。そっちの方が納得できますね。でも、やっぱり演出家としては、めざすべき一つの形だなってお話を聞いてて思いますね。役割分担をしっかりして、任せるっていうことも信頼の証ですし。
猫富 でも、手放さないことも絶対大事だと思うんですよ。自分で描くことでしか生まれないものって絶対にあるので。逆に今回のOPを見て、私が痛感したことがそれでした。「私が一流じゃないのって、そういう理由なんだな……」って監督の德野(雄士)さんに吐露してしまったくらい。私ってやっぱ偽物っすよね、ディレクターとしての格が違う、みたいな。
たなか 何をいう……。
猫富 だから何か少しずつ私も変えていきたいなと思いました。自分を捨てずに、もっと成長したいなって思えたので、ごいっしょできてほんとに、超うれしかったです。
たなか こちらこそなんですが、本当にありがとうございます。


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——あらためて、OPやEDを手がけることへの思いを教えてください。
猫富 私は過去にはOPしかやったことがなくて、だから、今回のOPのすごさが身にしみています。OPには入れなきゃいけない要素があるじゃないですか。特に1クール目はお約束事が多くて、タイトルロゴは絶対だし、キャラ紹介になっているのが望ましいとか。でも、アニメがこれだけあふれている時代に、お約束事を守りながら新鮮な映像をつくるのは本当に難しくて。お約束事を入れると安っぽくなっちゃいそうで、私自身はちょっと変化球にしてお約束事から逃げたパターンが多いんですよね。「風景PANとか絶対しねーぞ」とか肩肘張って。でも、たなかさんの場合は「お約束事? 全然やりますよ。ドヤッッ!」みたいな。画力、センス、解釈力、構成力、どれを取っても頭一つ抜けたクリエイターだなと思いました。間違いなく「チラムネ」なのに、いい塩梅にたなかさんブランドの映像になってる。
たなか (恐縮しながら)今回は木野下さんがしっかり「チラムネ」としての看板をガチャッとはめてくれたんで、成立したのだと思います。僕は逆にいわゆる30分のテレビアニメの演出をまだやったことがないので、CMやMV、OP、EDといったショートムービーの中で、曲をベースに演出していくほうが僕にとっては考えやすいというか。シンプルに経験値があるので、やりやすい表現ではありますね。といいつつ、最近はSNSの影響もありOPやEDに求められるハードルも上がってきているので、その意味での怖さはありますよね(笑)。OPの仕事をするにあたって荒木(哲郎)監督から言ってもらったのが、「OPは他人様の家の玄関を作るような仕事だから」ということばなんですけど、本当にそうだな、と。玄関を作る気持ちで襟を正してやらなければ、と取り組んだ仕事でした。 ‎
猫富 さっきロビーで德野監督とたなかさんに「別件のコンテが全然通らねえよ」って愚痴ったのが恥ずかしくなってきました……。私も襟を正されました。情けない、もうやだやだ……。そして、荒木監督のことばにも勝手に感銘を受けました。というか、荒木監督が急に出てくるのおもしろいですね、この企画(笑)。


【取材・文 ワダヒトミ】


「千歳くんはラムネ瓶のなか」
●毎週火曜日 深夜0.00~0.30 TOKYO MXほか
●各種動画配信サイトで配信中

スタッフ:原作…裕夢/キャラクター原案…raemz/監督…德野雄士/シリーズ構成…荒川稔久/脚本…裕夢、荒川稔久/キャラクターデザイン…木野下澄江/プロップデザイン…秋篠Denforword日和、枡田邦彰、立田眞一/3D監督…小川耕平/美術背景…スタジオ天神/美術監督…諸熊倫子/色彩設計…宮脇裕美/撮影監督…中村雄太/編集…丸山流美/音響監督…納谷僚介/音響制作…スタジオマウス/音楽…藤澤慶昌/音楽制作…KADOKAWA/アニメーション制作…feel.

キャスト:千歳 朔…坂田将吾/柊夕湖…石見舞菜香/内田優空…羊宮妃那/青海陽…大久保瑠美/七瀬悠月…長谷川育美/西野明日風…安済知佳/岩波蔵之介…阿座上洋平/山崎健太…宮﨑雅也

「千歳くんはラムネ瓶のなか」公式サイト
「千歳くんはラムネ瓶のなか」公式X(Twitter)・@anime_chiramune

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