舞台

刀使たちの“その後”を描く完全新作! 朗読劇「刀使ノ巫女 清夏奉燈」初日公演レポート

11月6日、7日の2日間にわたり、埼玉・ところざわサクラタウン ジャパンパビリオン ホールAにて上演された朗読劇「刀使ノ巫女 清夏奉燈」。この作品は2018年に放送されたTVアニメ「刀使ノ巫女」の続きを描く完全新作の物語で、脚本はTVアニメのシリーズ構成・脚本を手がけた髙橋龍也さん、舞台の演出として使用されるイラストはキャラクター原案のしずまよしのりさんによる描き下ろしと、オリジナルスタッフが再集結。もちろんキャストもそのままで、衛藤可奈美役・本渡楓さん、十条姫和役・大西沙織さん、柳瀬舞衣役・和氣あず未さん、糸見沙耶香役・木野日菜さん、益子薫役・松田利冴さん、古波蔵エレン役・鈴木絵理さんの6人が、演じるキャラクターと同じ制服姿で大集合しました。

思えばこの制服衣装はTVアニメの放送当時からおなじみのもので、イベントや雑誌の撮影などで大活躍していたのですが、まさか長い年月を経てキャスト自身が舞台上でこの制服を身にまとい可奈美たちを演じる日が来ようとは……! 初日の幕が上がり、ひとり、またひとりと姿を現わす演者たちの姿を見て感慨深い気持ちになったファンも少なくなかったのではないのでしょうか。舞台を見つめるわれわれの中ではすでにTVアニメ放送終了から3年以上たっていますが、今回の朗読劇は「衛藤可奈美と十条姫和が隠世の深層から生還して3か月と少し」という設定で始まります。そんな時間軸のズレも、始まってしまえばまったく気にならないというもの。相も変わらぬ剣術オタクの可奈美、クールで生真面目な姫和、お姉さん気質で母性あふれる舞衣、芯はしっかりしつつもおとなしい沙耶香、いついかなるときも省エネスタイルを貫く薫、そしてハイテンションなムードメーカーのエレンと、6人が動いて、セリフを発するたびに、あのころのままの彼女たちがそこにいることを実感させられます。なお、薫の相棒の荒魂・ねねの声はねね役の松田颯水さんによる事前収録でしたが、ねねが声を出すたびに松田利冴さんが身につけたねねに顔を向けたりして相手をしているようすが薫とねねの深い絆を感じさせてくれました。

ストーリーは伊豆諸島のある島で目撃された荒魂に対し、可奈美たち6名が調査任務で派遣されるところから幕を開けます。歴戦の猛者である6人にとっては実に他愛もない任務ですが、これは任務の名目で与えられた休暇なのかもしれません。そう考えた6人は島に到着し、さっそく荒魂の捜索に当たります。それとは別に、舞衣は羽島学長からある用事を頼まれていました。その内容とは、6人に関するレポートをまとめること。これまでの激しい戦いの中で彼女たちが何を考え、何を感じていたのか。あるいは、刀使になったきっかけとは? 物語前半~中盤はさまざまな能力やアイテムを駆使して荒魂を捜索するようすと、それと並行してレポート用の取材を進める舞衣の姿が描かれました。舞衣のインタビューを通して語られる刀使の思いや過去はここで初めて語られることも多く、セリフのひと言ひと言に重みがあり、じっと聞き入ってしまいます。また、荒魂捕獲用の新装備「アンカー銃」をみんなに配るエレンの妙なテンションの高さや、ドローンに吊るされたねねが舞台の上から実際に吊るされて登場するところなど、思わず客席から笑いがこぼれるような楽しい場面もありました。全体を通して薫とエレンはアドリブ的な動きが多く、キャストの2人も生き生きと演じているようすが伝わってきました。

作中での一夜が明けて、いよいよ巨大な荒魂が可奈美たちの前に出現します。その姿はまるで鳳凰のような美しさ。クライマックスにあたる刀使と荒魂との決戦は、6人それぞれがセリフとモノローグを交互にことばにしていくという形式で描かれました。目の前にある状況を緊迫感のあるモノローグで実況するように表現し、戦いの中で発する声が敵の強大さとそれに立ち向かう意志をダイレクトに伝えてくる――実際に殺陣をしているわけではありませんが、声の演技だけで迫力ある戦いを表現するのが朗読劇の醍醐味といえるでしょう。手に汗握る展開は可奈美たちの勝利で幕を下ろしますが、小さな雛のような姿になった荒魂にはもはや人の世に害をなすだけの力も意思もありませんでした。それでも災厄をもたらす存在としてとどめを刺すのか、見逃すのか。その選択は姫和に託されますが、はたして彼女の取った選択とは……? この結末には姫和の成長が大きく感じられ、大西さんの熱演も相まって「刀使ノ巫女」のシリーズ全体を通しても屈指の名場面のひとつになったと言っても過言ではないでしょう。

エピローグでは宿舎の庭に埋められていたタイムカプセルを可奈美たちが発見します。その中に入っていたビデオテープに残されていた映像は各学院の学長たちや折神紫、可奈美や姫和の母親らの20年前――今の可奈美たちと変わらないころの姿。ここでTVアニメのキャスト陣による紫たちのセリフが流れたというのもシリーズのファンにとってはうれしい仕掛けでした。過去から現在へと継承される思いを可奈美たちは受け止めて、またこの先の未来へと走り続ける。だとすれば、またいつか何らかの形で彼女たちの物語が見てみたい。そう思わせてくれるような大団円を迎え、無事に初日の公演は終了となりました。

なお、カドカワストアでは11月21日まで公演グッズを期間限定販売中。ビデオテープのシーンに新録音源を追加した朗読劇『刀使ノ巫女 清夏奉燈』公演収録CDのほか、脚本・髙橋龍也によるシナリオ原案を楽しめるシナリオブック、公演パンフレットなどがラインナップ。公演終了後も、冷めやらぬ「刀使ノ巫女」を楽しめそうです。

【取材・文:仲上佳克】

■朗読劇「刀使ノ巫女 清夏奉燈(せいかほうとう)」

スタッフ:原作…伍箇伝計画/脚本…髙橋龍也/イラスト…しずまよしのり/演出…鈴木智晴 (劇団東京都鈴木区)/協賛…ローソンエンタテインメント/制作…ソニーPCL/主催…KADOKAWA

キャスト:衛藤可奈美…本渡楓/十条姫和…大西沙織/柳瀬舞衣…和氣あず未/糸見沙耶香…木野日菜/益子薫…松田利冴/古波蔵エレン…鈴木絵理 他

リンク:朗読劇『刀使ノ巫女 清夏奉燈』
    朗読劇『刀使ノ巫女 清夏奉燈』カドカワストア特設ページ
    朗読劇『刀使ノ巫女 清夏奉燈』公式Twitter・@toji_roudoku

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