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野津山幸宏がラップバトルの次に挑むのは落語バトル!?「たらちね」を熱演した声優落語天狗連第十九回レポート

2019年7月7日(日)の七夕の日、東京・浅草の東洋館にて「声優落語天狗連 第十九回」が開催されました。

TVアニメ「昭和元禄落語心中」をきっかけにはじまった本イベントは、2カ月に1度のペースでこれまで開催されてきましたが昨年9月の第十八回から一時中断、約9カ月ぶりの開催となりました。当日はあいにくの雨模様ながら客席は満員御礼! 開場前から東洋館は復活を待ち望んでいたファンの熱気に包まれていました。

声優が落語に挑戦する「声優落語チャレンジ」と、プロによる口演の二本立てで行われる声優落語天狗連。今回「声優落語チャレンジ」に挑戦するのは野津山幸宏さん。声優によるラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」の有栖川帝統役で軽快なラップを披露している野津山さんですが、初挑戦の落語は果たしてどのような口演になるのでしょうか。期待は高鳴ります。

大きな拍手と共に幕があがり登場したのは、本イベント発起人の二人。ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんと、お笑い芸人で国語学者でもあるサンキュータツオさん。久しぶりのイベントに二人のテンションもかなり高い様子で、「浅草ディビジョンにようこそお越しくださいました!」(吉田さん)、「平均年齢70歳以上が落語バトル! 見たい!!」(タツオさん)と、「ヒプノシスマイク」を彷彿とさせるネタで挨拶。客席を沸かせます。

恒例の二人のトークも「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」を絡めた内容で、落語家が所属する4つの主な団体について、そして設立の経緯と起点になった名人たちの因縁を(ヒプノシスマイクでの)ディビジョンに例えて説明。落語を見るのが初めてという人たちにも分かりやすく、そして何より面白い話で客席の熱量をぐんぐんと上げていきます。

さらに話題は野津山さんの稽古へ。毎回恒例となった稽古模様の上映では、緊張した面持ちで落語に挑戦する野津山さんの姿が……。稽古番を務めた立川志ら乃師匠は「リズムとメロディが何より大切」と、自ら演じ野津山さんを指導。「感情的に話すと早口になるが、そういう時ほどゆっくり大きな声で」「大きい声でやると、それまでできると思っていたものが途端にできなくなる」など、要所を押さえた指導を真剣に聞く野津山さんの姿が印象的でした。

今回、野津山さんがチャレンジする演目は、前座話でも定番中の定番「たらちね」。独り者の八五郎のところに大家が縁談を持ってきますが、その相手は若くて器量もいいが言葉使いが丁寧すぎて意思疎通もままならず……という滑稽話。この話のポイントは、何といっても嫁にきた清女(きよじょ)が挨拶をする際の長台詞。粗野な八五郎と丁寧すぎる清女の出会いから最後の“さげ”まで、テンポのよさが鍵となる、噺家によって大きく印象が変わる噺です。

大きな拍手で迎えられ登場した野津山さんは、少し緊張した面持ちで「一席、話させていただきます」と挨拶をすると、枕話はせずにすぐに噺に入ります。

正に江戸っ子という感じの八五郎は、等身大の野津山さんそのままといった印象。対して、大きな声で漢文調の言葉を話す清女は強烈な個性を放ちます。そのあまりのインパクトに客席は圧倒され、そして大きな笑いに包まれます。テンポ良く繰り出される言葉の奔流はとどまるところを知らず、大粒の汗をしたたらせながら“さげ”まで一気に演じきりました。

初演とは思えない堂々とした口演に、吉田さんとタツオさん、そして客席から大きな拍手が送られます。「本来なら自由にしゃべりたい野津山くんが、あんなに覚えてしゃべっているなんて!」という吉田さんの言葉に、「こうやりたいって無駄な考えが出てきて邪魔をするので、それを抑えるのが大変でした」と答える野津山さん。終わったあとの晴れ晴れとした表情と言葉から、大きなプレッシャーから解き放たれた開放感が感じられます。

どのような稽古だったのか?というタツオさんからの質問には、具体的な指導が逐一入るような稽古ではなく、とにかく自分で考えさせられる稽古だったと野津山さんは振り返ります。

落語の稽古では、師匠の言葉を書きおこして一言一句覚えていくタイプと聴いて覚えるタイプの二つがあり、野津山さんが後者だとすぐに見抜いた志ら乃師匠は、あまり多くは語らず段階を踏みながらアドバイスをする稽古の付け方をしたそう。清女の演じ方についても、所作は最後の最後まで教えてもらえず「自分でどうやったら女性に見えるのかを考えなさい」というアドバイスから、とにかく自分で考えていったそうです。

また、そこから生まれてきた八五郎と清女について、野津山さんは「清女はとにかく大きな声でやってくれ、と言われたんです。稽古の時にはゴリラみたいだねって言われました。だから八五郎はもう自分のママでいいかなって(笑)」とコメント。そんな野津山さんの言葉に「じゃあ清女の手を引いてくる大家さんは速水奨さんだね!」と吉田さんがツッコミをいれると、「はい、僕の大家さんは速水奨さんです!」と返し、場内は大きな笑いに包まれました。

野津山さんが所属するRush Style(ラッシュスタイル)は、声優の速水奨さんが代表を務める声優事務所。実は野津山さんが着ている着物は速水さんからの借り物で、さらに「速水さんも落語をやってみたいっておっしゃっていたんですよ――野津山くん、そうなったら僕と落語バトルだね――って」というびっくり発言も。

トークはさらに盛り上がり、「ほかの噺もやってみたい」「他の師匠にも教わってみたい」と、野津山さんからは今後も落語に取り組みたいというコメントが。そんな野津山さんに、客席からは大きな拍手が送られました。

大成功の「声優落語チャレンジ」の後は、プロの噺家による口演へ。今回、口演してくださる立川寸志さんは、それまでのキャリアを捨て44歳で落語の世界に飛び込んだ異色の経歴を持つ、現在二つ目の落語家さんです。「年齢的には野津山さんのお父さんぐらいの歳なんですよ」というタツオさんの紹介に、野津山さんと会場からは驚きの声があがります。

出囃子のダークとともに登場した寸志さんは、開口一番「どうも、幸宏の父です」と挨拶すると、さっそく大きな笑いが起きます。前座時代に東洋館で高座に上がった際は10人にも満たないお客さんしかおらず、満席になった東洋館をみたのは初めてだと語る寸志さん。「もう圧に負けそう……」なんて言いつつも、軽快なテンポでマクラを進めていきます。

夏になると思い出す営業に出た時の話から、浴衣の着方、そして夏の浅草の名物、隅田川花火大会の話題へと流れるようにマクラを話す寸志さん。その快活としたリズム、調子の良さに客席は魅了され、いつのまにかに本編の「たがや」へと噺は移っていきます。

「たがや」は隅田川花火大会を舞台とした古典落語。仕事を終え家へ帰る「たが屋」(※桶のたがを修理する職人)でしたが、途中の橋は花火大会の人出で通ることができません。人をかきわけ進んで行くたが屋でしたが、途中で見物人に押され持っていた“たが”が外れて飛び、橋の反対側からやってきたお殿様の笠を飛ばしてしまいます。平謝りのたが屋ですが怒った武士は許さず、たが屋も居直り大立ち回りとなり……。士農工商という身分制度が厳しかった江戸時代、武士への鬱屈した憂さを晴らす噺は町人に大人気だったといいます。

そんな噺を寸志さんは鋭く刻むドラムのようなリズムで展開。山場の大立ち回りから最後のさげまで、アクションシーンを言葉だけで縦横無尽に描いていく話芸のすごさは圧巻の一言。さげの「た~がや~」も見事にきめ、ハラハラして大いに笑った口演が終わると会場は割れんばかりの拍手に包まれました。

口演後、寸志さんと野津山さん、そしてMCのお二人が加わってのトークコーナーで野津山さんは、「師匠の落語とは全く違いますね。もし寸志さんに教わっていたら、今とは別の落語になったんでしょうね」と興奮気味に感想を語ります。これをきっかけに、他の師匠に話を教わる際にはどうしたらよいのか、芸事での先輩後輩の話、そして寸志さんと野津山さんの後輩力の強さについてと、トークは話題を変えながら大いに盛り上がり、その都度、客席からは大きな笑い声が沸き起こりました。

その後も落語にまつわる話は尽きることはなく続きましたが、残念ながら終了の時間。今後も声優落語天狗連はイベントが続けられることが発表され、久しぶりとなったイベントは幕を下ろしました。

次回開催の日時や会場、詳細については公式Twitterで随時発表されるとのこと。これまでとは少し趣向を変えた内容を検討しているそうですので、公式Twitterのフォローを忘れずに!

【取材・文:小川陽平】

■声優落語天狗連 第十九回
日程:2019年7月7日(日)
会場:浅草東洋館
MC:サンキュータツオ、吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)
出演:立川寸志・野津山幸宏・立川志ら乃(ビデオ出演)

    公式Twitter・@seiyu_to_rakugo
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