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あの演出についての質問も!? 劇場アニメーション『HELLO WORLD』大阪舞台挨拶レポート

『サマーウォーズ』で助監督を務め、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- 』を大ヒットに導いた伊藤智彦監督最新作『HELLO WORLD』が、全国東宝系にて大ヒット公開中。高校生の直実が10年後から来た自分とともに同級生の一行瑠璃を救おうと奮闘する、新感覚のSFラブストーリーとして絶賛の声が相次いでいる本作の大ヒット御礼舞台挨拶ツアーが実施され、10月12日(土)、TOHOシネマズ梅田で伊藤智彦監督が登壇し、観客からの質問に応えるかたちで舞台挨拶が行われました。何回も観ているファンの方ならではの通な質問が相次いだトークの模様をレポートします。

伊藤監督と進行役の武井克弘プロデューサーは、ともにカラスのぬいぐるみを抱えて登壇。まずは、台風の中来場してくれた観客に、武井プロデューサーから「大丈夫ですか? 今日はありがとうございます。諸注意も特にありません。写真もどんどん撮っていただいて、この映画を広めていただけたら嬉しいです。また、プレゼントは届いておりますでしょうか? ちょっとした気持ちですが、瑠璃ちゃん(ヒロイン・一行瑠璃)のブロマイドをお渡ししております。こちらをぜひ自慢していただけると嬉しいです。舞台挨拶に行くと、こんないいことがあるよ!と自慢してください」と挨拶。

そして、「せっかくなので聞きたい質問があれば~」と武井プロデューサーが観客に質問を促すと、早速2、3人から手が上がり、質問に応えていくかたちでトークは始まりました。まずは、「皆が古本市のために本を持ち寄ってくるシーンで勘解由小路三鈴が持ってきた本は『どこよりも遠い場所にいる君へ』だったのでしょうか?」という質問について。

伊藤監督は「そこは観た人が思うように感じてくれればいいんですが、即物的に言ってしまうと、きっと製作委員会に出版社が入るに違いないと思いまして(笑)。集英社さんが入ってくださったので、そこからこのタイトルを選びました。でも、Twitterなどで書いていただく際には、考えがあったという風に書いていただけると(笑)」とぶっちゃけトーク。そこから劇中に登場する本の話題になり、高校生の直実の部屋にある早川書房の青背と言われる青い背表紙の本は実際の本を元にしているそうだが、武井プロデューサーによると、早川の編集さんによるといくつか番号違いがあったそうで、また、まだ青背ではないものも入っていたそう。伊藤監督は「それはちょっと未来だから許してください」と答え、観客の笑いを誘っていた。さらに、「番号が違うということは、今の我々が住んでいる現実とは違うというマルチバース的な解釈ができるかもしれないですね」と、伊藤監督は一歩踏み込んだ解釈についても語っていました。

次に、瑠璃ちゃんが可愛くて物販を買いまくっているという男性からの質問は、リヤカーで瑠璃の家から本を運ぶ途中に、河原で直実と瑠璃が休憩しているシーンでの距離感について。最初は、ふたりの間に距離があったものの、最後は瑠璃から距離を縮めていくというシーンの演出への思いを聞かれた伊藤監督は、「演出の仕方を聞かれると面はゆいところがあるのですが、映画の技法としてフレーム内フレームという言い方をしますが、木が画面のセンターで区切ってあって、それをキャラクターが超えていくと何かを超えた感じがするという手法をよく使うんです。具体的な名前をあげると、岡村天斎さんとかよくやっているかな。後は僕がよくやります(笑)。あのシーンでは、本当は直実が踏み出さなきゃいけないんだけど、直実が一歩踏み出せないので、瑠璃が寄ってきてくれていることで、仲良くなった感じを出したいと思いました。河原のシーンでは、木が境になっています」と、演出は質問どおりの意図だったそうです。

ちなみに、ソーラーパネルのある屋上で、直実とナオミが握手をしようとするシーンでも、柱を超えるという、同じ演出が使われている場面が。伊藤監督いわく「映画が始まって22分ぐらいです(笑)。試してはできないということの繰り返しを『サマーウォーズ』ではよくやっていて、僕もよくやります」とのこと。その演出によって屋上の場面は、直実とナオミの距離が近づく印象的なシーンとなっています。

次は、大人ナオミの部屋に大きなもの悲しそうな女性が描かれた絵画が飾ってあった意図について、女性からの質問でした。ちなみに、この方は10回観てくださっているそうです。

伊藤監督は、質問の最中にも「あー」と声を上げ、「すごくいい質問ですね。あの絵は、アンドリュー・ワイエスという画家の『クリスティーナの世界』という絵で、足が動かなくなった女性が遠くを見ている内容です。瑠璃を追いかけているナオミの心境を表すために飾りました。また、映画史的に言うと『2001年宇宙の旅』で、最後の方にボーマン船長が、あの絵を見つけるシーンがあって、トム・クルーズ主演の『オブリビオン』にも出てくるなど、SF映画ではあるある絵画なんです。実在する絵であり、SF映画的な文脈もあって、登場人物の心境にも寄り添えるという意味合いがあります。10回観ていただくと絵画に気付くんですね(笑)」

さらに男性から、大人の一行さんが直実の世界のカラスだったと、それはいつからだったのでしょうか?という質問が。

伊藤監督によると、「金色のカラスは瑠璃が操ってはいますが、黒い方をどこまで干渉していたのかというのは、けっこう難しいところなんです」とのこと。そこで質問者の方から「直実くんが一行さんと仲良くなって、にやにやしているシーンで、なぜカラスはあんなにバチバチ叩いていたのかが気になっているんです」とさらなる質問が。伊藤監督は「どこまでコントロールできているかはけっこう曖昧なつくりになっていて、その時はアクセスできていたんじゃないか、アクセス出来る時と出来ない時があったんじゃないか、という感覚で作っています。さすがに2階層下のものを操れないんじゃないかということが気になってくるので、100%支配下には置けていないんじゃないかという前提で考えていました。100%コントロールできている時は、カラスの目にハイライトが灯って、人格が出てくるようにしていました。アニメ的な解釈で言うと、ハイライトがあると生きていると説明されることが多いんですが、ハイライトによって人格を灯したという解釈で僕はやっていました」と解説した後に、「実は、野﨑(まど)さんとも話していたんですが、感想の中にこっちの方が正しい答えなんじゃないかという感想があったりするんです(笑)。こっちの方が辻褄が合うんじゃないかということがあるので、全てを言わなくて良かったと思っています。『ブレードランナー』でも、何かのカットを入れたばかりに、デッカードは人間なのか、レプリカントなのかという議論になっているじゃないですか。それと同じことだと思います」とSF映画の金字塔に絡めて、裏話を語っていました。

最後に、終了の時間も迫る中、どうしても質問したいという方からスピンオフへの質問が。

武井プロデューサーは「決まり文句になってしまって本当に申し訳ないんですが、皆さんの応援次第なんです。これしか言えません。もちろん、究極は勘解由小路三鈴のスピンオフアニメができたらと思って作っています。末永く応援していただけたら嬉しいです」と返答。最後に伊藤監督が「台風に負けなかった皆さんですから、「勘解由小路三鈴スピンオフが観たいぜ」と拡散していただいて、ついでに本編もまだ上映していますから観ようぜと広げていただけたら嬉しいです」と観客に呼びかけて、舞台挨拶は終了しました。

『HELLO WORLD』の舞台挨拶はこの後京都・名古屋と続いていきます。それぞれの舞台挨拶で伊藤監督はどんな重要情報をさらに漏らしてくれるんでしょうか。

【取材・文:華崎陽子】

■HELLO WORLD
●全国東宝系にて公開中
リンク:「HELLO WORLD」公式サイト
    公式Twitter・@helloworld0920
     「TOHO CINEMAS」公式サイト
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