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「旗揚! けものみち」もいよいよクライマックス! ついにケモナーマスクとMAOがリングで相見えることになりそうです。が、その前に今回は前哨戦! カーミラとローゼの因縁の戦いや、まさかの尻……じゃなくてアルテナ姫の電撃参戦など、盛りだくさんの第11話でした。それでは実況アナウンサー・村田晴郎氏に解説をお願いしましょう!
クラスタ銀行プレゼンツ第二回闘技大会「チーム勇者源蔵vs異世界の魔王軍団」始まりました! どうやら前哨戦をやるべきという私の提案はクラウスさんに却下されたようです。でもボンちゃんが無理矢理プロレスをやらされるという予想は当たったので、それでよし!
運命の決戦を前にしたMAOが「時が来た! それだけだ」と言います。
これは“破壊王”の異名で人気を博したプロレスラー、橋本真也さんのプロレス史に残る名言です。
1990年2月10日、新日本プロレス東京ドーム大会のメインに組まれた「アントニオ猪木&坂口征二(*1)vs蝶野正洋(*2)&橋本真也(*3)」。
当時の猪木さんと坂口さんは新日本プロレストップ中のトップ。
しかし下の世代が育ち、若手の追い上げからその座を死守できるかが注目されていた。
対する橋本さんと蝶野選手は海外修行で力をつけ、トップ選手を狙う立場。このタイミングで猪木&坂口と闘えるのは大きなチャンス。勝利すればこれ以上ないアピールとなる。
試合直前の両チームにアナウンサーがTV用のインタビューを敢行した。
猪木&坂口サイドのアナウンサーが猪木さんに「もし負けるということがあると、これは勝負は時の運であるということでは済まないことになりますが……」と質問すると、猪木さんは「出る前に負けること考えるバカがいるかよ!」とアナウンサーにビンタ! 「出てけ! コラァ!!」と一喝、インタビューを強制的に打ち切ってしまった。
とんでもない緊張感に凍り付く控室。
画面は橋本&蝶野サイドに変わる。これからのプロレス人生がかかった大一番を前に厳しい表情の両選手。ピリピリした空気が画面上からでも伝わる。
蝶野選手はそんな空気を吹き飛ばすようにカメラに向かって「潰すぞ、今日は! よく見とけ、オラ!」と凄む。
そして橋本さん、彼は凄むことなく、意外なほどの冷静さでこう言った。
「時は来た! それだけだ」
よくわかったような、わからないような、不思議な響きのある言葉だった。
その直後、隣にいた蝶野選手が下を向き、口元を手で隠した。笑いを堪えているように見えた。いや、間違いなく笑っていた。
突然キレてビンタをする猪木さん、凄む蝶野選手、妙な冷静さを見せる橋本さん、笑う蝶野選手。それらの組み合わせが奇跡の名場面となり、橋本さんの「時は来た! それだけだ」の言葉は後世まで語り継がれる名言として残りました。プロレス者がその人生の中で勝負を強いられる時、誰もがこの言葉を思い浮かべ、口にします。プロレス者の心を奮い立たせると同時に穏やかにする魔法の言葉なのです。
MAOもMAO役の稲田徹さんも筋金入りのプロレス者、このセリフを万感の思いで口にしたことでしょう。
この言葉の破壊力にピンとこない方、インターネットで「時はきた」と検索すればそこに答えが出てくるかもしれません。こないかもしれません。これ以上は何も言いません。
とにかく、この話を踏まえた上で、もう一度このシーンを見るとMAOと稲田さんの気持ちがより強く伝わると思います。
今回、私から「おめでとう」を言いたい人物が三人います。
まずは一人目、アルテナ姫!
ジャーマンを食らっても尻を気にする彼女のタフネスっぷりの謎が解けました。
彼女は“M”の資質を持っていたのですね。自覚すらしていなかった隠された才能が源蔵さんとの日々の中で徐々に開花していき、今回覚醒に至った。マスクを被り「民に知られてはいけない」という背徳感がさらなるブーストをかけたように見えます。素晴らしい。
人に見られることで興奮し、快感を覚えるというのはプロレスラーにとって必要な資質のひとつです。貴女は立派なプロレスラーになりました。
源蔵さんのおかげで本当の自分を見つけられましたね。おめでとう、アルテナ姫。
二人目は、陽炎!
今回の陽炎はかっこよかったよ! ナイスファイト!
ナルシストでプライドの高い陽炎が特盛セリスのサポートに徹し、見事に勝利!
ドロップキック、かっこよかったぜ。
勝ち名乗りを受け嬉しそうな陽炎の姿を見て、ちょっとウルっときちゃったよ。
おめでとう、陽炎。私も貴方のこんな姿を見ることができて嬉しいよ。
三人目の「おめでとう」はカーミラです!
花子とイオアナを加えたタッグマッチになるかと思いきや、従者同士のシングルマッチになりました。でも結果的にこれで良かったと思います。源蔵さんの言う通り「良い試合」でした。カーミラにとって「やって良かった試合」だったと思います。
カーミラはポンコツだけど、ポンコツだからダメなんじゃなくて、ポンコツでもやればできることを証明してみせた。弱いから強くなりたい。強くなって勝ちたい。勝てなかったけど、強くなれた。負けたから、強くなれる。そして、そんな自分をちゃんと見てくれている人がいるんだってことを知ることができたのは、源蔵さんとプロレスのおかげですね。おめでとう、カーミラ。良かったね。
この試合でカーミラが見せた必殺技は第9回コラムで紹介した「フランケンシュタイナー」でした。第9話でMAOが見せたフランケンシュタイナーと比べて、カーミラが見せたものはまさに正調フランケンシュタイナーと言えるもので、ローゼの脳天をマットに突き刺す見事な一発でした。
次回予告の赤井沙希選手と山下実優選手(*4)の技再現シーンでも、あそこまでエグい落とし方はしていませんでした。本来のフランケンシュタイナーは「やってみてください」と言われて簡単にできるような技ではないのです。本当に危険な技なのです。
カーミラの敗因は、フォールの体勢にいく前に両脚のフックを外してしまったこと。フランケンシュタイナーは叩きつけた後、そのまま両脚のフックを外さなければそのまま相手の上に乗る形になるので「技が決まった喜びで我を忘れてしまって」も自然とフォールの体勢になっていて、3カウントが入っていたでしょう。惜しい。
しかし、ローゼはいつのまにあんな完璧なジャーマン・スープレックスホールドを体得していたのだろう? 私は「旗揚! けものみち」関係者に聞いてみた。普通に。
「ローゼはエルダーヴァンパイアの中でもかなり優秀な存在で、第一試合で特盛セリスが使ったジャーマンを一度見ただけで完コピしてみせたのです!」(「旗揚! けものみち」関係者談)
なんと! そんな理由が! ローゼは従者の職を失ったらプロレスラーになるべきです。
さぁ、次回はいよいよメインイベント、ケモナーマスクvs MAO!
源蔵さんも「俺、ワクワクしてきたぞ!」、「ぜってぇ見てくれよな!」と、月を見ると大猿になってしまう戦闘民族……ではなく、リングを見るとケモノになるプロレス民族の血が騒いでいましたね。源蔵さんとMAO、最高のプロレスを見せてくれることでしょう!
最後に、これをご覧の皆さまは絶対に真似をしないように。技を仕掛けた側も仕掛けられた側も共に不幸な結末が待っています。ケモナーマスクのようになりたければ身体を鍛えてプロレスラーになりましょう。「Please don‘t try this at home.」約束ですよ。
<注釈>
(*1)坂口征二
柔道の強豪選手だったがプロレスへ転向し、力道山さんの日本プロレスに入団。その後、アントニオ猪木さんと共に新日本プロレスで活躍したプロレスラー。ニックネームは「世界の荒鷲」。長男はDDT所属のプロレスラー、坂口征夫選手。次男は俳優の坂口憲二さん。現在は新日本プロレスの相談役の役職に就いている。
(*2)蝶野正洋
新日本プロレスで絶大的なカリスマで人気を博したプロレスラー。正統派のテクニシャンでスター街道を駆け上がったが、突然悪の道を選択し「武闘派宣言」。スタイリッシュな黒のコスチュームに身を包み“黒のカリスマ”として新日本プロレスに君臨した。現在プロレスラーとしてはセミリタイア状態だが、タレントとしてTVで活動中。毎年、大晦日の「笑ってはいけないシリーズ」で月亭方正さんにビンタをしている。「ガールズ&パンツァー」応援大使。
(*3)橋本真也
あんこ型の体型ながら鋭く重いキックを中心とした豪快なファイトスタイルでファンを魅了したプロレスラー。新日本プロレスでは同期の武藤敬司選手、蝶野正洋選手と共に「闘魂三銃士」として時代を作る。ニックネームは「破壊王」。人間的にも豪放磊落な性格で皆から愛されたが、2005年7月11日、40歳の若さで急逝。息子は大日本プロレス所属のプロレスラー、橋本大地選手。現在、BJW認定世界ストロングヘビー級王者として活躍中。
(*4)山下実優
DDTプロレスリングのブランド団体「東京女子プロレス」のトップ選手。アイドルになることを夢見ていたが、オーディションに落選し続け失意の日々を過ごす。その後、東京女子プロレスが設立することを知り、夢の続きをプロレスに懸けてみることを決意。デビューから3年でシングル王者となり、東京女子プロレスのエースとなる。現在も旗揚メンバーとして団体を牽引する存在。