アニメ

スタジオポノック最新作がついにお披露目。長編劇場アニメ『屋根裏のラジャー』製作報告会見

記者会見に登場した皆さん。写真左より百瀬義行監督、イッセー尾形さん、寺田心さん、安藤サクラさん、西村義明プロデューサー


長編劇場アニメ『メアリと魔女の花』で世界的にも注目を集めたアニメーション制作会社スタジオポノックが6年ぶりに公開予定の長編劇場アニメ最新作『屋根裏のラジャー』。その製作報告会見が8月21日に東京・帝国ホテルで開催されました。

『屋根裏のラジャー』はイギリスの詩人・作家であるA.F.ハロルドによる児童文学作品『The Imaginary』を原作とした物語。少女の想像から生まれた“イマジナリーフレンド”の少年・ラジャーたちによる人間には決して見えない大冒険をスタジオポノックが精緻で美しい映像表現で描いていきます。

製作報告会見では企画・プロデュースを担当した西村義明さんと、百瀬義行監督が登壇。西村さんは元スタジオジブリのプロデューサーで『かぐや姫の物語』や『思い出のマーニー』の制作に参加。スタジオジブリ制作部門の解散後にスタジオポノックを設立させ、同社の第一作目として長編劇場アニメ『メアリと魔女の花』を世に送り出しました。また百瀬監督はかつて『火垂るの墓』や『かぐや姫の物語』といったスタジオジブリにおける高畑勲監督作品のメインスタッフとして活躍してきた人物です。

西村さんは、冒頭の挨拶で「ホテルでの会見というと10年前に『かぐや姫の物語』で高畑勲さんたちがここに立ったんですよね。それから10年経って高畑勲監督の右腕だった百瀬義行監督と一緒に映画を作って製作を報告が出来ることはとても感慨深いと思っています」とコメント。続けて美術監督としてスタジオジブリで数多くの作品を手掛けてきた山本二三さんが今月19日に亡くなったことにも触れ、「心からご冥福をお祈りいたします」と目を潤ませながら故人を悼んでいました。

 今回の『屋根裏のラジャー』で“イマジナリーフレンド”という難しい題材を劇場アニメ化するにあたり、西村さんは「ラジャーの人生に思いをはせてみました」と語ります。人間が想像することによって生み出された存在でありながら、人間に忘れられるとこの世界から消えてしまう宿命を背負ったラジャー。そんな彼を主人公とした物語を映画に出来ないかと考えたときに西村氏は「それは本当に悲劇なのか、そうじゃない物語があるはずだ」と思ったそうです。そして今の分断と無縁の時代の中にいる多くの人にとってラジャーの生きた短い人生は意味のある物語になるはずといった考えを元に、「この原作を僕たち自身の物語として、人間の物語として描こう。そうすれば、世界の方々に見ていただける価値ある作品が出来るんじゃないかと思いました」と、本作の制作を決意するに至った経緯について振り返ってくれました。

西村さんはいざ制作するにあたっては3つの挑戦すべき事柄があったと打ち明けます。ひとつはダイヤのように多面性をもった物語を、映画として2時間ほどの尺に収めながらひとつの物語に収斂させていくことが出来るのかという「物語上の挑戦」。2つ目はCGでも手描きでも難しいイマジナリーフレンドのラジャーを描くための「表現上の挑戦」。これについては西村さんが「アニメーションの新しい一歩。手描きアニメーション2.0」と絶賛する新技術を用いたフランスのクリエイターたちとのコラボで乗り越えるましたが、制作体制は会社の身の丈を超えてしまい苦難の連続となってしまったようです。結果として2022年の公開予定は延期。一時はスタジオポノック解散・倒産の可能性も取り沙汰されることにもなりました。そうした「経営上の挑戦」まで含めた3つの挑戦に苦しみながらの大変な映画制作現場になったと西村さんは回想します。

そんな苦難の連続となった『屋根裏のラジャー』ですが、遂に先日0号試写が行われたようです。試写に立ち合った百瀬監督は一緒に鑑賞したスタッフの様子から手応えを感じたらしく、「すごく心強く感じたし、ホッとしました」と感想を一言。そんな百瀬監督でが「やりたかった」という「皮膚感の表現」についてチャレンジしたことで、キャラクターの見た目について従来のスタジオポノックの作品とは違うテイストなったようです。余分な工程が加わって作業は大変だったようですが、手描きのアニメを超える表現の追求を実現出来たようで、百瀬監督は「より洗練されたかたちで絵作りが出来たと思っていますし、表現にしても深掘りが出来てる手応えを自分では感じています」と満足げな表情を浮かべていました。

そんなスタッフ陣に続いて、ラジャー役の寺田心さん、アマンダの母リジー役の安藤サクラさん、ラジャーをつけ狙う謎の男ミスター・バンティング役のイッセー尾形さんら3人がキャスト陣を代表してステージに登場します。

イマジナリーの世界観とラジャーという存在にすごく惹かれて「僕自身が絶対演じたい思っていました」と語る寺田さん。「ラジャーになってやる」とラジャーと同じボーダーのシャツと青色のパンツ姿でオーディションに挑戦しただけでなく、この役に受かるように神社で神頼みまでしてこの役を射止めたようで、役が決まったときには「泣いちゃうぐらい嬉しかったです」と当時の喜びを語ってくれました。

この会見ではじめて予告映像を見たとのことでしたが、声変わり前の自分の声が流れたことにビックリしていました。どうやらアフレコの直前からちょうど声変わりの時期と重なってしまったらしく、アフレコのスケジュールを急いだために映像より先に声を録るプレスコ方式で収録は行われたようです。そのため声の芝居に合わせて映像を作った部分もあったらしく「寺田さんの演じたラジャーのニュアンスがアニメーションに活かされてる感じがします」と西村さんは言います。また百瀬監督から見ても寺田さんははまり役だったようで「収録でスタジオに来て話してる声もラジャーにしか聞こえなかったってくらいにしっくりきていた」とベタ褒めで、それを聞いた寺田さんは「すごく嬉しいです」と照れたような笑顔を見せていました。

収録ですが寺田さんにとってアフレコも初挑戦、プレスコも初挑戦と毎日が発見ばかりだったようです。当時は「ラジャーが僕で、僕がラジャーでみたいな不思議な感覚」があったようで、毎日が「冒険に行くぞ」といった感じの楽しい収録だったとのこと。そんなこともあって家でも「明日の冒険は何かな?」と思いながら過ごしていたと語ってくれました。

続いて出演を決めた当時の話をしてくれたのはリジー役の安藤さん。劇場アニメの出演は初という安藤さんですが、「絶対リジーを演じたい」と思っていたそうです。俳優として常に想像力の中で暮らしている自分と、現実にいる自分がずっと寄り添いながら存在している状況が当たり前だったという安藤さんは、オファーが来た当時そんな状態が他人から見たら変なのかもしれないと悩んでいたそうです。なのでそんなときに出会った“イマジナリーフレンド”をテーマにしたこの『屋根裏のラジャー』には助けられたとのこと。そんな安藤さんは、原作を娘が寝る前に読み聞かせているそうで、「早く映画になった『屋根裏のラジャー』を見せたいなと思います」と親子で上映を楽しみにしているとのことでした。

ミスター・バンティング役イッセー尾形さんは、最初に台本を読んだ段階では役を掴められなかったそうです。でもバンディングの絵を見せてもらったときに、「顔を見て私そのものだなって」と親近感を憶えたらしく、収録はなんとかなりそうだという気持ちになったということでした。収録ではスタッフからのプレッシャーに耐えきれずに相手役を用意してもらったとのことです。映像を見たときにはすごいインパクトを感じたようで「自分がこの作品に関わったのかと思うと、人ごとのようにビックリしました」と大絶賛。今冬の劇場公開へ向けての期待感を口にするなど、作品への熱い思いを語ってくれた製作報告会見となりました。

【取材・文:すわみさお】



「屋根裏のラジャー」
●12月15日(金)劇場公開

スタッフ:原作…A.F.ハロルド/監督… 百瀬義行/作画監督…小西賢一/美術監督…林孝輔/動画検査…長命幸佳/キャラクター色彩設計…高下直子/撮影監督…福士亨/映像演出…奥井敦/延享演出…笠松広司/プロデューサー… 西村義明/制作…スタジオポノック/製作…「屋根裏のラジャー」製作委員会

キャスト:ラジャー…寺田心/アマンダ…鈴木梨央/リジー…安藤サクラ/エミリ…仲里依紗/シンザン…山田孝之/ダウンビートおばあちゃん…高畑淳子/ミスター・バンティング…イッセー尾形

STORY:
彼の名はラジャー。
世界の誰にも、その姿は見えない。
なぜなら、ラジャーは愛をなくした少女の
想像の友だち―イマジナリ―。

しかし、イマジナリには運命があった。
人間に忘れられると、消えていく。
失意のラジャーがたどり着いたのは、
かつて人間に忘れさられた想像たちが
身を寄せ合って暮らす「イマジナリの町」だった――。

リンク:「屋根裏のラジャー」公式サイト

(c)2023 Ponoc

この記事をシェアする!

MAGAZINES

雑誌
ニュータイプ 2024年5月号
月刊ニュータイプ
2024年5月号
2024年04月10日 発売
詳細はこちら

TWITTER

ニュータイプ編集部/WebNewtype
  • HOME /
  • レポート /
  • アニメ /
  • スタジオポノック最新作がついにお披露目。長編劇場アニメ『屋根裏のラジャー』製作報告会見 /