Prime Videoで世界独占配信中、また1月16日(金)より【Part-1】【Part-2】順次再上映が始まった「藤本タツキ17-26」。どういった思いでこの作品をつくったのか? 制作に対する思いを監督たちにうかがいました。
(月刊ニュータイプ2025年12月号で特集された際に掲載したインタビューの再掲です)
アニメで構造のおもしろさを伝える
「目が覚めたら女の子になっていた病」監督・寺澤和晃インタビュー
──映像面でのこだわりは? 画面を分割するように影が入る表現は、かなり個性的なルックでしたが。
寺澤 藤本先生の作品自体に、ああいう線が入る影みたいな表現がたくさんあると思うんですが、加えて自分が、デ・キリコがやるような、影によって世界が分割されている、どこか壊れた感じの絵がもともと好きなんです。それを今回、やってみようと思いました。あの表現は背景で影の形を全部決め込んだうえに、セル(人物)でも合わせて影を描かないといけないので、TVシリーズでやるのはかなり難しい。今回は短編なのでやり切れるかなと。後は、小ネタみたいな話になりますが、藤本先生のほかの作品を全部読んで、そこから全カットの構図を拾いました。藤本先生っぽい、あの何とも言えない空気感のあるレイアウト感をどうやって出すかを考えたら、そのやり方が最適かなと。ほかにTシャツの文字も「ルックバック」からの引用ですし、トシヒデが溶けていく演出も「チェンソーマン」の原作からもってきたオマージュです。手の表現もそう。藤本先生がフレームを手が割ったり、マンガのフレームの外から手が出てくるみたいな表現をよくやられるのを取り入れてみました。
──内容面ではLGBTQに関する表現を巧みに脚色されている印象でした。
寺澤 原作のセリフを現代ふうに変えたくなかったんです。そうすると別の物語になってしまうので。とはいえ、現代のお客さんに届くものにしたい。そこでいろいろ考えた結果、時代設定を「平成」にすることに答えが集約していった感じです。LGBTQを支える思想に僕個人としては賛同しているんですけど、その下でこの短編をつくってしまうと、原作の突き抜けたおもしろさが失なわれてしまいそうで。なので自分が10代だった「平成」を、「いいところだけじゃなく、悪いところもあったよな」みたいな感覚で、自戒も込めておもしろおかしく、考えながらつくれたらいいな……みたいな気持ちでしたね。
──音楽にハロー!プロジェクトをフィーチャーしたのは?
寺澤 「この作品にどういう音楽が流れたらおもしろいテンションになるかな?」と、考えていたときに、たまたま米津玄師さんが「KICK BAC
K」でつんく♂さんの歌詞をオマージュした理由を動画で知って、ふと「恋愛レボリューション21」を流しながら原作を読んでみたら、めっちゃトシヒデの背中を押してくれるやん、と(笑)。この曲を使いたかったのも、時代設定を平成にする理由のひとつでしたね。
──軟式globeはどうして?
寺澤 軟式globeさんの平成感って、何だかすごくて……いい意味で「バカだなぁ」と思いますけど、それがいいんですよね(笑)。
──あそこは原作だとテレビのなかに何も描かれていないシーンです。
寺澤 正直に言うと、あそこで「好きだよ」とセリフで言ってますよね? これ、絵コンテを描いていると小っ恥ずかしくて、描いている自分とは違うもうひとりの自分が思わず突っ込んでしまう。そういう世界をメタ視点を、演出でも入れたくなってしまうんです。それが合わない作品もありますが、この作品には合うかなと。
──「LOVE涙色」の使い方も同じ考え方ですか?
寺澤 まさにです。あそこはセリフがきついので、そのことばじりをとらえて「ひどい作品だ」と見られちゃうと、藤本先生のよさが削がれてしまう。グロいことが行なわれているときでもそれを俯瞰している知的さ、ただ目の前の出来事だけじゃなく、それを構造として見てどう考えるかみたいなところが、藤本先生の作品のおもしろさなのかなと。だからアニメでも、違う形で同じような構造をつくりたかったんです。
目が覚めたら女の子になっていた病
今から25年前。21世紀の始まりを翌年に控え、どこか浮足立った空気が世間を覆っている時代。ある日トシヒデが目を覚ますと、女の子の体になっていた。医者によると、どうやっても元には戻れない病気なのだという。恋人のリエとその兄のアキラはそんなトシヒデの変化を温かく受け入れてくれるが、本人の戸惑いは大きく、また、周囲からの風当たりも冷たい。クラスの男子たちからどぎついいやがらせの標的にされ、アキラに助けられたトシヒデは、そんなアキラの姿に不意にときめきを感じてしまい……。キャラクターデザインは「薫る花は凛と咲く」の徳岡紘平、アニメーション制作は「魔法使いの嫁 SEASON2」のスタジオカフカ。劇中に流れる音楽にも注目してほしい。
寺澤和晃
●てらさわ・かずあき/スタジオカフカ所属。「魔法使いの嫁 SEASON2」(監督)、「けだまのゴンじろー」(絵コンテ、演出)、「カードファイト!! ヴァンガード」(絵コンテ・演出)など
【取材・文/前田久】
■「藤本タツキ17-26」
リンク:アニメ公式サイト https://fujimototatsuki17-26.com/