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日本を代表する造形・映像作家が語る「アーリーマン」のスゴさと魅力——映画「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」公開記念座談会

2018年06月12日 12:00配信
日本を代表する造形・映像作家が語る「アーリーマン」のスゴさと魅力——映画「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」公開記念座談会

映画「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」公開記念座談会

(C)2017 Studiocanal S.A.S. and the British Film Institute. All Rights Reserved.

「ウォレスとグルミット」「ひつじのショーン」をはじめ、数々のストップモーション・アニメーションを発表してきたニック・パーク監督とアードマン・アニメーションズ(以下、アードマン)による長編劇場作品「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」が、2018年7月6日(金)より公開。

これまでに4度ものアカデミー賞受賞を誇るニック・パーク監督×アードマンチーム。今回発表された作品は、初の「人間が主人公」の物語です。生まれ故郷の谷を暴君に奪われた原始人「ダグ」と、その仲間の成長と絆を、アードマンならではのクレイアニメで生き生きと描いています。作品の制作スタートは、なんと2010年から。脚本だけでも3年以上かけたという、まさにニック・パークとアードマンの情熱と最高技術が集約された作品といえるでしょう。

そこで今回は、世界中のストップモーション/クレイアニメファンが注目する本作について、日本を代表する造形・ストップモーション・アニメーション作家である伊藤有壱さん、秦俊子さん、MOZUさんに大いに語ってもらいました。

MOZUさんは、現在19歳のジオラマアニメーター。作られた作品はTwitterで大きな反響を呼び、それを見たという人も多いのではないでしょうか。現在公開中の「犬ヶ島」に造形で参加するなど、活動の舞台を広げています。

秦俊子さんは、独自の世界観を武器に世界で活躍している立体アニメ作家。NHK みんなのうた「ヤミヤミ」をはじめ、数多くの短編・CMを制作する傍ら、発表した自主制作アニメ「パカリアン」は、英国・ロンドンで開催されている映画祭「Discover Film Awards」でベストアニメーション賞を受賞しています。

そして最後は、伊藤有壱さん。代表作である「ニャッキ!」や「Mr.ブリック in ハーバーテイル」といったオリジナル作品の制作の他、数多くのTVCM・プロモーション映像も手がけるアニメーションディレクターであり、クレイアニメ作家です。なんと、クレイアニメに挑戦するきっかけが、「ウォレスとグルミット」だったという筋金入りのアードマン好きであり、そのアードマンとも親交が深いとか。

――最初から直球の質問になってしまい恐縮なのですが、「アーリーマン」をご覧になっての第一印象を教えてください。

MOZU:僕は「最初の頃のアードマンっぽいなあ」って、まず感じました。ニック・パークが単独で監督をやっているだけあって、「ウォレスとグルミット」のようなアードマンっぽさというか……。

秦:確かに! あと、私はちょっと「チキンラン」に通じるところがあるかなとも思ったんです。「アーリーマン」は、割とシリアスなシーンもあるんですが、その割合が「チキンラン」と似ているなと。「ウォレスとグルミット」と「ひつじのショーン」は、明るさの比率がもっと大きいじゃないですか。

MOZU:ブラックユーモアが多かったですよね。冒頭から表現がすごくて――あっさり人が死ぬとか(笑)。

秦:そうそう、本当にあっさりしてて(笑)。でも年齢層を高くしつつ、子どもも観られる内容にちゃんと考えて作ってある。残酷な表現とか一切ありませんし。

伊藤:僕は、奇をてらわない“安心感”をアードマンに期待しちゃうんだけど、今回の「アーリーマン」は、より映画としての挑戦度と完成度がすごくて、気持ちがどんどんノっていったんだよね。観ていて粘土だと忘れてしまうところまできているので、これはちょっと新次元だぞと。エンターテインメントとしての力強さが感じられて嬉しかったです。

MOZU:確かに、ストーリーもすごい王道でした。こういうのって、今までのアードマンにはありませんでしたよね。

伊藤:うん。お話の中心にサッカーを持ってくるところとか。でも、ニック・パークは、インタビューで「サッカーが好きなんですか?」っていう質問に「いや、そうでもないよ」って答えちゃう。そういうひねくれたユーモアは、“ニックらしいなぁ~”って。普通はそんな回答、NGだよね(笑)。

秦:私はサッカーにあまり興味がないんですが、そんな私でも、ものすごく楽しめたんです。サッカーにこだわるのではなく、その上にあるエンターテインメント性にこだわったんですよね。

MOZU:興味がない人が作っただけあって、サッカーを知らない人でもとっつきやすい感じ、しますもんね。

伊藤:微妙に褒め言葉になってないぞ(笑)。でも、今回改めてニック・パークはいいなと思いました。アードマンには、ニック・パーク以外にも優れたディレクターがたくさんいて、僕はリチャード・スターザック監督のトボけて苦みのあるユーモアも好きでたまらないんだけど、今回の「アーリーマン」はニック・パークの持ち味が満載! それにクレイ(粘土)での表現は、より大胆かつ繊細さを増して、こんな絵作りができるアードマンの層の厚さを改めて堪能できた。ダグの瞳の動きのチャーミングなこと! もう必見です。

秦:最近は、クレイアニメで力の入った長編作品がいくつか発表されていますが、アードマンのクレイは「粘土だ」っていう質感が出ていて、観ていてすごくイイんですよね。

MOZU:手作り感が残っているのが、アードマンのすごいところですよ。よく見たら指紋とか残っているんじゃないか?って感じしますもん。クレイアニメであんまりやりすぎると、どうしてもCGっぽくなっちゃうんです。でも、それだとクレイにこだわる理由ってないじゃないですか。

秦:そうそう。“CGっぽく見えてしまうくらいすごい技術”ってのはあるんです。でも、アーリーマンは少し方向性が違う。そういう造形面でいうと、私が一番気になったのは口の置き換えです。キャラクターが話すときに、口だけを変えるんじゃなくて、ほっぺや鼻の形も微妙にちゃんと変えているのに首から下は全然動いてない。何だ、この技術は!?って。

伊藤:最近は、レベルが上がってCGみたいな見栄えを目指すスタジオやディレクターがいて、それはそれで素晴らしいことなんだけど、観ていてとても安心するのはアードマンの作品なんだよね。素晴らしい監督が何人もいてスタッフの層も厚い。そんなスタジオは他にはありません。

秦:たくさんの監督がいても、ビジュアルを観ただけで「あ、アードマンの作品だ」って全部わかるって、すごいことですよね。

伊藤:うん、アードマンのカラーがしっかりあって、それが源泉となって愛すべき作品が生み出されていく。アードマンというスタジオのバリューが、日本であまり知られていないのは、もったいないよ。

秦:日本でのアードマン作品だと、やっぱり「ひつじのショーン」だと思うんですが、ショーンを観ている子どもたちって、動きで大爆笑するんですよ。言葉ではないところでウケているのを観ると、ショーンというキャラクターは、やっぱり強いなって感じます。「アーリーマン」は人間中心のお話なので、子どもたちがどういう反応をするのか気になりますね。

伊藤:子どもたちが初めて見る「原始人」が、「アーリーマン」にかもしれない。そう考えるとエンターテインメントに寄せてきた「アーリーマン」は、「ひつじのショーン」とともに初めて観るアードマン作品としても最高の1作だよね。

――これほどの規模でストップモーション/クレイアニメを作れるアードマンって、やはりとてつもない存在なんですね

秦:スタジオもものすごく大きいんですよね……。私は見学したことないんでけど、MOZUさんは去年行かれたんですよね?

MOZU:もう広いってもんじゃなかったです。でも、僕が見学したのは小さい方のスタジオで、それでも相当広かった。その辺は伊藤さん……お願いします。

伊藤:人を使うのがうまいな、19歳(笑)。アードマンは、イギリスのブリストルにあった倉庫を改築したスタジオからはじまったんですが、その倉庫は一度火事で燃えてしまうんです。後に再建されますが、それとは別にサッカースタジアム級の巨大なスタジオを新たに作り、彼らはそこで長編作品を作ってるんですね。同じセットを何個も用意して一度にたくさんの人が作業をする。ここ5年で「ひつじのショーン」と「アーリーマン」、さらにショーンの新作……と、次々に長編作品を生み出している、まさに粘土工場、クレイファクトリーですよ。

秦:そんなに……。そういう話をお聞きすると、やっぱり日本のコマ撮り人口は少ないって感じちゃいますね。

伊藤:そもそも、そういうスタジオシステムでストップモーション作品を作るってこと自体、日本では知られてないしね。それでも、最近になってようやく近いことをやろうとするスタジオもあるんだ。

MOZU:でも、力のある人は国内・国外関係なく引く手あまたですから、世界でみてもコマ撮りのアニメーターは多くないんじゃないかな。

伊藤:アードマンは今の規模になるまで、ブリストルで40年もかけているんだ。これは余談だけど、彼らは地元ブリストルのためにたくさんの貢献をしていて、ついには教育プログラムまで作ってしまった。そこまで地元文化を愛しているし、その愛が作品にも込められているのが観ていてよくわかる。ウェールズなまりの英語とかイギリス人にしか通じないギャグとか(笑)。そういう部分は日本人である我々からはエキゾチックに写るし、「アーリーマン」からも感じるね。

――映像作家、造形作家として「ここは要チェック!」といった見どころを教えてください。

MOZU:僕は、笑いの前にある“間”が大好きなんですよ。あるシーンでダグが高いところから転げ落ちていくんですが、それを相棒のホグノブがずっと眺めているんですね。本来は笑うところではない何でもない場面なのに、思わず笑ってしまう。そういう間の使い方がアードマンらしくて、すごい好きなんです。クレイアニメって、作っていると動かしたくなるんですけど、アードマンは止まっていても、それが面白い。ぜひ“間”のすごさに注意して観てください。

秦:私もアードマン作品のコミカルなテンポ感がすごく好き。このテンポ感って、誰でも楽しめる大衆性そのものだと思っているんです。「アーリーマン」にも、そのテンポを感じています。それに笑いのセンスは、アードマンらしくて、明るいところとブラックユーモアのバランスが絶妙です。あと、造形面では表情のなめらかな動きに衝撃をうけました。ただ観ているだけでは気づかない猛烈に高度な技術なんですが、同じアニメーション作家として「これはやばい」と。

伊藤:「アーリーマン」を観て僕が一番嬉しかったのは、粘土が一番!ってところ。僕自身も粘土という素材をいまだに愛しているし、可能性も感じています。そして彼らは「粘土で何ができるんだろう?」と考え、完全なエンターテインメントをやってのけた――やっぱり粘土なんですよ。あの粘土感は、本当にすごい。これは、CGに絶対取って代えられないという強い手応えを感じています。ぜひ粘土の魅力にどっぷり浸かってください。

MOZU:伊藤さんにとっての一番のシーンって、どこなんですか?

伊藤:超個人的粘土のツボは、ヌース卿の入浴中、肉がタプタプゆれるところ!! もうおえ~~ってなるくらいキモい(爆笑)。

一同:(笑)。

小川陽平

■映画「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」

2018年7月6日(金)、TOHOシネマズ 上野ほか全国ロードショー

配給:キノフィルムズ

リンク:「アーリーマン 〜ダグと仲間のキックオフ!〜」公式サイト

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