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‘05年のTVシリーズ第1期放送以来、ファンの心をつかみ、癒やし続けている『ARIA』シリーズ。月日の流れはアニメ業界にさまざまな変化、革新を起こしているが、『ARIA』の世界はいい意味で15年間変わらずにいてくれる……。そんな温かな世界を築いている佐藤順一総監督とメインキャスト陣が、作品への愛情を語ってくださいました。
――映画『ARIA The CREPUSCOLO』はオレンジぷらねっとがメインの物語だということについて、総監督やキャストの皆さんの間ではどのようなお話をされましたか?
茅野 実は話す機会がないままアフレコに突入してしまったんです(笑)。全員で収録することは叶わなかったのですが、オレンジぷらねっとの3人はいっしょに収録できるように、スケジュールを調節していただきました。2日に分けての収録で、涼さんは1日目だけの予定だったんですけど、2日目の私の収録に合わせてわざわざ来てくださったんですよね。おかげでアリス先輩との会話のシーンも掛け合いで収録することができました。
広橋 これまでの収録は、休憩時間に音楽をかけたり紅茶を飲んだりしていたんですけど、今回は別々でしたから、スタジオの雰囲気が少し違ったかもしれません。また今回はアテナさんがお話してくれることになって、佐藤利奈ちゃんが演じてくださったんですけど、利奈ちゃんがとにかく不安そうでした(笑)。「『ARIA』の収録ってこんな感じだよ」という話をさんざんしていたんです。それなのに、今回はみんながバラバラななかで利奈ちゃんは初めての収録をすることになって……。でもサトジュン(佐藤総監督)さんは「大丈夫です」しか言わなかった(笑)。
茅野 ドヤ顔してたという話は聞きました。
佐藤 第一声を聴いたときに、サトリナ(佐藤利奈)さんのアテナがあまりにもアテナだったので、皆さんザワッとしたんですけど、次の瞬間、僕は振り向いて「どうよ」って感じだったらしい(笑)。(監督の)名取(孝浩)くんがしっかり見てて「佐藤さん、ドヤ顔でしたよ」と(笑)。
――佐藤(利奈)さんの不安はどうやって取り除いてあげたのですか?
広橋 私よりも愛衣ちゃんが……。
茅野 いえいえ、アフレコ終了後にいっしょに帰ったくらいです。
佐藤 そういうの大事かも(笑)。
茅野 帰り道、八の字の眉毛になっていて「大丈夫だったのかなぁ」とおっしゃっていました。でも、「アーニャちゃんが初めてしゃべったアテナ先輩がサトリナさんですよ」と私がコメントで出したのをサトリナさんが見て、うれしく受け止めてくださったみたいで、私もうれしかったです。
広橋 そう言ってもらえるのはいいなぁと思いました。演じる人からしたら、すごく不安だと思うんです。そんなときに「私が初めて掛け合いをするのは、利奈ちゃんのアテナさんだよ」と言ってもらえたら、きっとすごく心強い。
茅野 それもいっしょに収録できたからこそですよね。今は全員で録るということは叶わないご時世なので。いっしょにできて本当によかったし、アテナ先輩としゃべれるのも本当にうれしかったです。
――完成品をご覧になったときの印象を教えてください。
茅野 私、試写会には行けなかったんですけど、涼さんと舞台挨拶の後で見させていただきましたよね。
広橋 ぜいたくなソファの席で(笑)。
茅野 こっそり入って、ファンの方々といっしょに見させていただいたのがうれしかったです。試写会はどうでしたか?
葉月 TVアニメ第1期のときから映像を見ているので、15年の年月が経ってCGの技術の進化を感じました。街の奥行きとかすばらしいんですよ。見入ってしまいました。
佐藤 ゴンドラは複雑な形なので、意外と手描きが大変なんですよ。今回は全部CGなので、だいぶ助かっています。街の再現度も上がったし。昔は街並みの資料といえば素材写真しかなかったけど、今は「この水路はどうなってるんだ?」って、Googleストリートビューで見られますから(笑)。
3人 Google!(驚嘆)
葉月 TVアニメの第2期くらいまではゴンドラで漕ぐ道なりがわからなかったんです。でも『ARIA The ORIGINATION』以降、ゴンドラが通った水路がわかるんですよ。地図を知ってると、ここを通ってこっちに出たんだな、というのがわかるので、観光案内している気分になります。
茅野 CGが使われても、『ARIA』の世界の印象が変わらないのはスゴイですよね。
佐藤 今回いっしょにやってくれた名取くんが『ARIA』を理解し尽くしているんです。普通のアニメーションだったら6秒間止め(絵)で見せると怒られるんだけど、『ARIA』は平気で20秒くらい止める(笑)。そういったテンポ感やゆるさを名取くんが大切にしてくれている。『ARIA』に対して、「帰ってきた」という気持ちをもっている彼が入ってくれているので、技術的な面から変わってしまうという不安はまったくありませんでしたね。
――作品のもつ温かさと技術の進歩が、いい具合に調和できたのですね。
佐藤 むしろ、できなかったことができるようになった、という感じです。『ARIA』の空気感を表現するうえで、できることが増えています。
――広橋さんは作品のご感想は?
広橋 試写会のときは、できあがったのを初めてみる機会だったので、自分がどういう気持ちでその場にいるんだろうと思っていたんです。結果、完全にお客さんでしたね。映像が始まって音楽が流れた途端、自分がアリスを演じたとか、アテナさんのキャストが……とか全部忘れてしまって、「わぁ~すごい!」って(笑)。台本も読んで、アフレコもして、完成とまではいかなくても絵も見ているのに、普通に泣いてました。泣いてしまった……と思いながら隣を見たら、(西村)ちなみさんも泣いてました(笑)。
茅野 (共感して頷きつつ)なんで涙が出るんでしょうね?
広橋 取材のときも泣いてたよね。何か緩ませるものがあるんですよ。
茅野 ほぐしてくれるんですよね。
広橋 そうそう、デトックス!
茅野 デトックスって言ってましたね(笑)。ことばにするのは難しんですけど、ほぐされて、涙が出てしまうんです。『ARIA The AVVENIRE』を劇場で見たんですけど、そのときも、始まった瞬間から泣いてました。
葉月 アフレコでも泣いたんだよね。
茅野 アーニャを演じることが決まったときもワ~ッと泣いて、アフレコでも泣いて、完成作品を見て泣いて(笑)。
――主演の葉月さんとしては、共演者が感動の涙を流していることについていかがですか?
葉月 これまでのアフレコでも、灯里がセリフを言っていると、後ろで鼻をすすっている人がいるんですよ(笑)。
広橋 えりーんの声にデトックス効果があるのかもしれない。
葉月 ファンの方にもよく言っていただくんですけど、自分ではよくわからない……(笑)。灯里の声だけでなく、ほかのキャラクターの声や音楽が合わさって、情景が脳裏に甦ってくると、それまでのストーリーで感動したシーンや泣いたシーンもいっぺんに甦って来るんでしょうね。今までの足跡が大きすぎるから、胸がいっぱいになるんだと思います。
――出演者も涙する作品をまとめ上げている総監督。皆さんのご意見をどのように受け止めますか?
佐藤 ニヤニヤしちゃう(笑)。
――狙ってつくってらっしゃる?
佐藤 このスイッチを押したら泣くよね、みたいな。
3人 私たちチョロい?(笑)
佐藤 こういう言い方をするといやらしいけど、ファンの方も『ARIA』の世界を求めていらっしゃると思うので……『ARIA The AVVENIRE』で言うと、冒頭のシーンなんですけど、風景を見せて、波の音を聴かせて、いつもの音楽を流すと、スイッチが入るんですよ。「はい、スイッチ!」って用意してます(笑)。
茅野 催眠術をかけられているみたい(笑)。
【取材・文:垳田はるよ】