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2022年3月5日、2021年度に最も活躍した声優を讃える第十六回声優アワードの受賞者が発表されました。本稿では、主演女優賞を受賞した緒方恵美さんのオフィシャルインタビューをお届けします。
――主演女優賞受賞の報告を受けたときの思いを教えてください。
緒方 率直にいって驚きました。理由は2つです。ひとつは、この賞が私くらいの年齢の女性を対象にした賞だとは思ってなかったから。そもそも残念ながら日本では一定以上の年齢の女性声優が主役を演じる機会が限られているという現状もありますが、実はずっと一般投票の賞だと思っていたので、今人気のアニメ作品の主役をしている旬の若手声優から選ばれるものだと思っていたんですね。ですから、「なぜ自分に?」と。それから、もうひとつは単に私が「女優賞」でいいんですか?と(笑)。主に「シン・エヴァンゲリオン」のシンジ役に対していただいた賞とうかがったのもあり……。仕事の7、8割は少年や男性役で、ふだんからあまり女優だと自分で思っていない節もありますし(笑)――私自身のジェンダーに関しては拙著「再生(仮)」に記した通りですが、今、声優の中でも具体的にカミングアウトをし始めた人たちもいる。ジェンダーフリーが叫ばれる昨今、世界の映画祭でも「男優賞」「女優賞」とわけるのをやめるところが出てきたり、いろいろな変化が起こっていますが、とくに我々の場合は仕事内容自体、もともと中の人の性別や年齢、姿形を超えたところで表現することも多い分野。私のような者がこのような賞をいただいたことをきっかけに、声優アワードなら日本におけるその先駆けにもなれる可能性があるのではないか、とも勝手に感じております。
――2021年公開「シン・エヴァンゲリオン劇場版」にて、ついに完結したシリーズ、主人公シンジ役を担った日々を振り返り、今思うことは?
緒方 いろいろありすぎるのですが、簡単にいってしまうと、「エヴァ」のおかげでここまで声優でいさせてもらえた、「エヴァ」のために声優になれたのだと思いました。作品がはじまった1995年頃というのはまだ、声優の芝居が舞台芝居に近く「張った声で、朗々とする芝居がいい」とされていました。そんな時代の中リアリティを最初に求められた作品。「何言ってんのか分からなくていいから、リアルな芝居にして欲しい」と言われつづけ、14歳の少年としてマイクの前に立ち続けて。26年を経て「シン・エヴァンゲリオン劇場版」に至ったわけですが、毎作より高い精度を求められた現場でした。リアルな魂を監督がずっと追い求めてくださった。その研鑽のおかげで今も私は、少年のヒリヒリとした心を持ち続けることができ、その繊細な部分を描いていく作品に携われているのだと思います。
――緒方さんにとって賞の選考対象期間はどのような1年でしたか?
緒方 コロナ禍ということで、私も含めみなさんにとって大変な1年だったのではと思います。私たちの仕事もキャスト全員そろっての収録というのは難しくなり、文化の継承的にもヤバさを肌身で感じています。音響監督さんたちとも危機感をもっていろんな話をしてきましたが、最近では「ヤバい」より「しかたない」という慣れのようなあきらめを一部の現場から感じることもあり、いよいよ心配。「掛け合いはできなくても、僕たちを信じて託してください」といってくださるのですが、各セクションのお仕事を信じることと、もしも掛け合いをしていたなら生まれた表情や培えた空気が失われたという事実は別の……職人的部分の問題なので、ひとりの役者としてはとても歯がゆい現状があります。
――一方で、音楽フェス「Precious Anime&Game Song Festival」の企画・主催にも思いを込めて活動されてきましたね。クラウドファンディングの成立も経て3月27日に開催決定しました。
緒方 企画を考えはじめたのは、ちょうど「エヴァ」が落ちついてきた初夏のころでした。音楽業界、イベント業界にとって大変厳しい状況下でもありましたが、そこへ非正規雇用の女性が解雇されているというようなニュースをはじめ、日本の貧困や差別、ジェンダーの問題など、あらゆるひずみが明るみになってきて。そのときシンプルに「コロナ禍で困窮する方々に、歌を、音楽を届けたい」という思いがわき上がってきた。自分にできるだろうかと悩みながら進めてきましたが、おかげさまでクラウドファンディングも成立しまして。アニソンの力は本当にすごい。最も男性社会だといわれる業界のうちのひとつが芸能界で、その荒波をくぐり抜けてきた歴戦の勇者のような女性シンガーの皆さんが歌うアニソンと、MCでうかがおうとしているピンチの乗り越え方は、きっと皆様の力になれる。いっしょに、明日へつながるエネルギーをお届けできることが今、とても楽しみです。
――最後にファンの方々へメッセージをお願いします。
緒方 今まで何度も声優には向いていないと思ってきました。でも何とか「エヴァンゲリオン」を務め上げることができて、「呪術廻戦」の乙骨憂太役しかり、また新しい作品に出会わせていただけた今、声優にならせていただけたことで、自分にも誰かの役に立つことが少しはできたのかもしれない、と最近ようやく思えています。私が主演女優賞をいただくことになるなんて本当に微塵も(笑)思っていなかったのですが、でもそれは、共に作品を作って下さった監督以下クリエイター・スタッフの皆さん、また長年応援してくださっている、あるいは最近新しくファンになってくださった皆さんの心が反応してくださったおかげにほかなりません。この先もやれる限り、皆さんに楽しんでいただけるよう努めます。私と、また新しく私を迎え入れてくださる作品・ステージのチームの皆さまともども、今後ともよろしくお願いします。
【撮影:田上富実子/取材・文:ワダヒトミ】