新作&おすすめアニメのすべてがわかる!
「月刊ニュータイプ」公式サイト
2022年3月5日、2021年度に最も活躍した声優を讃える第十六回声優アワードの受賞者が発表されました。本稿では、助演男優賞を受賞した立木文彦さんのオフィシャルインタビューをお届けします。
――助演男優賞受賞の報を受けたときの率直なお気持ちは?
立木 最初はあくまでもノミネート、何人もいる候補者の中のひとりに入ったのかな? みたいな感じだったんですね。それが受賞だと聞いて、本当に驚いた次第です。今まで自分なりに、いろんな作品に一生懸命携わってきたんですけれども、そうしてやってきたことと、「賞をいただく」ことが、自分の中ではまったく結びついてなかったんです。無縁だと思い込んでいたものをいただけて……時を越えて新人の頃の自分に会えたら、「受賞したよ!」って真っ先に伝えたいぐらいの喜びです。
――お話ぶりからも気持ちが伝わってきます。
立木 受賞のきっかけになった作品と、今、このタイミングで受賞できたこともうれしいんですよ。ただ自分個人の受賞なのではなくて、作品が評価された上で役者個人に対する評価もあった。そのことで喜びが倍増してる次第です。特に「エヴァンゲリオン」はもう、これから先、こんな作品には多分出会うことはないと思いますし。作品が発表されるたびに、その時々の何かを、時代を彩ってきた作品だと感じていて、自分にとってもかけがえのない、いちばん記憶に残る作品なので、そんな作品で受賞できたのがうれしいですね。総監督の庵野秀明さんとは同世代でもあって、そんな方とずっといっしょにやってこれたことも、何よりもかけがえのない財産だと感じていますし。もう一作の「銀魂」も、「エヴァ」よりはあとからですが、長い作品なんですよね。しかも自分の役柄的な部分では、「エヴァ」とも不思議な関係性があって。それが同じ年に劇場版があって賞に繋がったことも、何か縁というか、運命を感じてます。
――役と最初に出会ったときのご印象はいかがでした?
立木 両者とも、最初は今とはまったく違う印象でしたね。(碇)ゲンドウに関しては、庵野監督から説明された人物像も、絵を見たときの印象も、何か計り知れない闇を持った感じだったんですね。長谷川(泰三)に関しては……初登場したときはエリートでしたからね。なんかパシッとした、カッコいいキャラだな! と思っていたんですよ。それがもう、ほどなくして崩れて、荒削りな部分とか貪欲な部分とか、グダグダな人間らしさが出てきた(笑)。
――“マダオ”(=まるでダメなおっさん)化しましたよね。ゲンドウはどう印象が変わったんですか?
立木 ゲンドウに関しては、出会った当初から一貫して、ビジュアルから自然ににじみ出てくる癖だとか生き様を声に出すことを意識していたんです。だからその点ではそれほど変わらないんですが、セリフですよね。今回の劇場版をもってして、ようやくセリフに人間味が出てきた。「破」でも少しあったんですけども、今回の「シン・エヴァンゲリオン」でさらに素の部分が垣間見られたというか、出せたというか。そこで印象が変わっています。。非常に感情移入しやすいセリフと立ち振る舞いで、「シン・エヴァンゲリオン」でのゲンドウはまさに集大成という感覚がしました。
――シリーズ25年の重みを感じます。
立木 「エヴァ」に関して言えばさらに、緒方(恵美)ちゃんがTVシリーズの初回から、碇シンジという役をすごく苦しみつつ、葛藤しつつ演じて成長していった部分を、ずっと親のような立場で見ていたところがあるんです。自分自身としても、役としてもそういうところがあって、やっぱりそんな主演の「彼」……緒方ちゃん自身は女性ですけど、演じていたシンジという「彼」の存在があったからこそ、そのすぐそばで暗躍してきたゲンドウが助演として評価していただけたと考えている部分がありますね。
――そんな「助演」という立場ならではのおもしろさは、どんなところに感じますか?
立木 主演の人ってやっぱり、特に声優の仕事では、収録現場で座長にならなきゃいけないところもあるんで、大きな責任があるんですよ。もちろんサブのキャラにも責任はありますけど、でもどこか役に対して冒険ができるというか、実験的なことができる余地があるんです。あくまで個人的な考えですが、主役は最初から割と演技も固めなきゃいけないところがあると思うんですけど、それからすると助演の立場は、主役をかき回すぐらいの何かができる。たとえば、同じ役の仲でも極端な演じ分けもできるんです。またそれがおもしろいし、ただ自分が楽しんでいるだけじゃなく、やった方が作品にも幅が出て、おもしろくなるような気がするんですね。そういう意味でも助演というのは、非常におもしろい。これからも主役に絡んで、何かキラリと光る存在感を出せるような役を、助演としてやりたいですね。中堅からベテランになってきた今、より強くそう思うようになっています。
――今回の受賞を経ての、今後の目標は?
立木 以前はあまり感じなかったことなんですけど、最近なんとなく、自分が発したことばで人がどれだけ喜んでくれるかを、今までより具現化したい気持ちが強くなってるんです。だからそういう役や、作品や、番組に出ることが目標かもしれないですね。ただ、今まで自分がやってきたことに満足したら、表現者としては終わりだとも思っているので、これからもどこか貪欲に、いつでもお腹が空いているような中年親父声優でありたいなと思っています(笑)。見てくれる人、聞いてくれる人の感情を揺さぶるものを、数ではなく、やっていきたい。そういう作品に出会えて、自分がそれをちゃんと演じ切れたらいいなと思っています。
――最後に、受賞を支えてくださったファンの皆様にひとことメッセージを。
立木 現時点で自分自身がそれほどアニメ作品に出ているわけではなく、過去からやってる作品で今回受賞することができたんですよね。だからこそ余計に、作品をずっと愛し続けてくださったファンの方々に感謝の気持ちがあります。賞はうれしいですが、自分よりむしろ、作品や役を応援し続けてきてくださったみなさんに、こちらから賞をお渡ししたいくらいの気分です。「助演大好き大賞」みたいなものを、目いっぱい差し上げたい。あらためて、本当に応援、ありがとうございました。
【撮影:田上富実子/取材・文:前田久】