2019年3月9日、2018年度に最も活躍した声優を称える第13回「声優アワード」の受賞者が発表されました。本稿では、新人男優賞を受賞した石井マークさんへのオフィシャルインタビューをお届けします。
――受賞されたご感想をお願いします。
石井 声優アワードは名誉ある賞で、専門学校時代から注目していました。「ホントに自分が?」という自問自答をした後で、皆さまが応援して下さったことと、受賞のありがたみを実感しました。デビューして4年経ちますが、満足するだけではなく、改めて今の自分に何が必要かを考えていきたい。背筋がピシッと伸びました。
――デビュー当時の思い出をお聞かせ下さい。
石井 僕のデビュー作は「ガンダム Gのレコンギスタ」のベルリ・ゼナム役でした。歴史ある「ガンダム」シリーズの主役ということで、期待や嬉しさ以上にプレッシャーが大きかったです。実際、オーディションから度肝を抜かれました。富野由悠季監督の第一声が「芝居をするな!」です。「自分のまんまで演って!」という指示に、頭の中が真っ白になってしまいました。僕はそれまで、"お芝居で自分自身を出す"のはいけないことだと思っていたので、どうしたら良いのかわからなくなってしまったんです。
――新人で大きな試練にぶつかりましたね。どう乗り越えていきましたか。
石井 ベルリという別の人物を演じるのではなくて、ベルリ=自分なんだと信じて「もし彼と同じ状況に置かれたら、どう感情が動いてどう言おうとするか」を考えて演じてみたんです。そうしたら監督が「それだよ、俺が見たかったのは」とおっしゃって下さって、オーディションに合格しました。アフレコが始まってからも、緊張の連続でした。オリジナル作品なので先がわからないし、「Gレコ」は台本を読んでもわからない時がある。でもここで僕がプレッシャーでつぶれてしまったら、作品にとって何にもならない。そう気づいて、あえてあっけらかんと、伸び伸び全力で演じるしかないとアフレコに臨みました。事前に台本を読むばかりではなく、現場で先輩たちの芝居を良く聴いて、掛け合いの中で自分ならどう反応するかに集中していきました。
――そうした経験を経て、キャラクターをどのように演じるようになりましたか。
石井 ハードな経験でしたが、「Gレコ」があったからこそ自分は成長できたと思っています。富野監督がおっしゃった「お前のままで演れ」は、僕の中で一本の柱になりました。自分が演じる役は"似たもの同士な友達"だと考えて、自分と重なる部分を探す作業をするようにしました。僕のところにくる役は、明るくて社交的とか、テンションが高いとか、何かしら自分と重なることが多いのですが、そうではない役もきます。「カードファイト!! ヴァンガードG」の主人公・新導クロノ役もそのひとりで、特に初期はぶっきらぼうで感情の幅が広くない印象で、自分に演じられるのかと悩んだりもしました。でも物語が進んで、彼が周りの人と打ち解けていくにつれて豊かな感情が見えてきて、負けず嫌いだったりカーッと熱くなる面は自分と似ていると思い、ようやく彼を理解できたと思いました。
――最近の声の仕事では、どのような発見や学びがありましたか。
石井 最近では「TITANS/タイタンズ」ビーストボーイ役のような、吹き替えの仕事も増えてきました。アニメとはお芝居の質感が違っていて、抑揚を抑えた自然な芝居が求められます。アニメの場合は、たとえば「俺は、お前が、好きだ」みたいに、センテンスを分けて抑揚をつけることで絵に感情が乗るんですが、吹き替えは逆なんです。実際に人間が演じているので、表情や口の動きなど映像から受け取る情報量がとても多い。抑揚をつけすぎると過剰になってしまうので自然な演技を心がけています。吹き替えでは、海外の役者さんが演じる原音を聴きながら、セリフのどこを"立てて"いるかを把握するのですが、日本語で同じところを立てると違和感が出たりします。バランス調整が難しいですね。
――アフレコ以外のお仕事では、どんなことを心がけていますか。
石井 「ハイキュー!!」灰羽リエーフ役の頃から、ラジオやイベント、キャラクターソングを歌う機会が増えました。舞台や朗読劇にも取り組んでいます。キャラクター関連のお仕事で心がけているのは、"ほどよくキャラに寄せる"ことです。キャラクターと自分が重なる部分を出すことで、ある程度、自分のパーソナリティを出すこともできる。お客さんには"好きなキャラクターが目の前に存在しているんだ"と楽しんでもらいつつ、"このキャラはこの人に演じてほしい"と感じてもらえたら嬉しいなと思っています。
――「声優」という仕事の捉え方は、デビュー前と変わりましたか。
石井 声優という仕事は、常に考え続けなければいけない仕事なんだなと思いました。今は声優の活動範囲が増えていて、ラジオや歌やステージがあります。僕らの世代は、そうした活動もやりたいと思って声優を目指す人も多いです。一見華やかですが、いざ声優になってみたら、アフレコもラジオもイベントも、その場でどんどん進行していく特性のものが多くて、どう次のコーナーに移行すればいいのか、他のキャストとどう掛け合いをして、どうお客さんに見せていくのがいいのかなど、常にその場に応じて"自分はどう動くべきか"を考えていかなければいけないと気づきました。この仕事は、毎日学んだり失敗したり、常に不安もあるし力不足を感じることもある。でもいつまでも落ち込めないし、現場に行ったら全部楽しい。音響監督さんに怒られても、これから成長するチャンスなんだと思うようになりました。
――これから、どんな声優になりたいですか。
石井 お客さんを楽しませるエンターテイナーになりたいです。人を元気づけたいというのが、僕が声優をしている一番の動機です。声優として、演じたことのない渋い大人のキャラクターをやってみたいし、役者としてドラマにも出たいし、ライブもやってみたい。何にでも挑戦して、自分の活動の幅を広げたいです!
●いしい・マーク/11月21日生まれ。千葉県出身。ジャストプロ所属。主な出演作に「ガンダム Gのレコンギスタ」(ベルリ・ゼナム)、 「おとなの防具屋さん」(カウツ)、「ハイキュー!!セカンドシーズン」(灰羽リエーフ)など
撮影=田上富實子 取材・文=渡辺由美子
■第13回「声優アワード」受賞者、受賞作品(敬称略)
●主演男優賞:内田雄馬
●主演女優賞:三瓶由布子
●助演男優賞:古谷徹、三宅健太
●助演女優賞:芹澤優、東山奈央
●新人男優賞:天﨑滉平、石井マーク、落合福嗣、仲村宗悟
●新人女優賞:石見舞菜香、楠木ともり、林鼓子、本泉莉奈、本渡楓
●歌唱賞:ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-
●パーソナリティ賞:諏訪部順一
●功労賞:緒方賢一、京田尚子
●シナジー賞:ポプテピピック
●富山敬賞:山口勝平
●高橋和枝賞:かないみか
●キッズファミリー賞:TARAKO
●特別賞:ちびまる子ちゃん
●外国映画・ドラマ賞:森川智之、甲斐田裕子
●ゲーム賞:東山奈央
●インフルエンサー賞:南條愛乃
●MVS(Most Valuable Seiyu):神谷浩史
※今回は、特別功労賞に代えて、本年度ご逝去された声優を顕彰しました。
リンク:
「声優アワード」公式サイト