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〈並列意思〉を手に入れ、さらに強くなった「私」(愛称・蜘蛛子)。一方、人間サイドでは勇者ユリウスがエルロー大迷宮にやってきて……。
物語が大きく動き出しそうな「蜘蛛ですが、なにか?」。リレー連載第9回は、地竜に転生したフェイを演じる喜多村英梨さんが登場。人間ではない役どころをどのように演じているのか、語っていただきました。
――本作の第一印象はいかがでしたか。
喜多村 攻めてるな、と(笑)。仕事柄、ヒロインはかわいい女の子であってほしいという先入観があったので、蜘蛛そのもののデザインには驚きました。でも、ネットスラングが飛び交うコアなセリフの嵐、レベルアップやスキルのようなゲームのあるあるネタのような、ビジュアルだけではないセリフや物語の面白さがあって、これがこの作品のキーポイントであり、蜘蛛子の持ち味なんだなと思いました。
――オーディションは最初からフェイで受けられたんですか。
喜多村 テープオーディションのときはカティアだけだったんですが、スタジオオーディションではフィリメスもやりました。そのあと「ドラゴンの声もやってみてもらえますか」と急に言われて。画もセリフもなかった状態だったので、リアルな感じか小さめな感じかを確認させていただいたら、「どれだけ引き出しがあるか聞かせてください」と(笑)。魔物の兼ね役ができる人を探しているのかなと思い、とりあえず攻撃している感じやかわいく喋っている感じのセリフを言ってみたんですが、そのときは正直、手応えも何もなかったです。
――そうだったんですね。
喜多村 帰り際に板垣(伸)監督に「面白かったです」と言われたものの、カティアのことなのか、フィリメスのことなのか、ドラゴンのことなのかよくわからなくて(笑)。でも、こうしてフェイに決まったのは、何か刺さるものがあったということなので、本当によかったです。
――フェイについてはどのような印象をお持ちになりましたか。
喜多村 転生前の美麗がクラスの中で目立っていたことも、若葉に突っかかるのも含めて、青春キャラだなと思いました。クラスカースト上位だからこそ強気でいられるキャラクターというか。ただ、板垣監督は単純なヒールキャラではないとおっしゃっていたんです。みんな私を取り巻いてくれるのに若葉だけが無視してる、気に食わない、だから突っかかる。要は、若さゆえに自分を中心に考えてしまう女の子なだけなんです、と。だから、セリフ上で若葉にきつく当たるとか、語気を強めにとあっても、美麗のキャラクター性としては決して悪ではないので、そのさじ加減は意識するようにしました。
――確かに、ちょっとませた女子高生という感じがしますよね。
喜多村 そうですね。ギャルとまではいかないけれど、今どきの女の子でちょっとチャラついてしまう女子高生らしい女子高生なのかなと。それは第1話の冒頭でも意識するようにしました。
――魔物というところで何か大事にしていることはありますか。
喜多村 どこまで魔物っぽい擬音で魔法を放つか、ですね。例えば、授業で水魔法を放つシーン(第3話)。のちのちステータスがアップすると伺っていたので、最初から強い雰囲気は出さないけれど、ベースとしての強さはしっかり意識するようにしました。
――そのあとの地竜戦ではフェイの強さを見せつけましたね。
喜多村 ここは一つ気になったことがあったんです。地竜戦で〈血縁喰ライ〉の称号を得るんですが、戦闘中、どこで血縁だと気づいたんだろうって。倒したあとに考え込むシーンがしっかりありましたし、台本には描かれていないけれど、どこかのタイミングで気づいたはずと思って。それで、「どこで血縁と理解して、それでもなお倒そうとしたんですか」と監督に相談したんです。なんでも無感覚に倒せるタイプではないと思いましたし、ちゃんと葛藤する子として、例えば首元に食らいつくあたりでためらうニュアンスを入れたほうがいいのかどうか、気になってしまって。
――監督からはなんと?
喜多村 血縁を喰らうことに対してなんとも思わないわけではないけれど、シュンたちよりは物事を冷静に判断して戦うことができる、達観しているとのことでした。途中で血縁に気づいたとしても瞬時に状況を整理できるし、普通に戦闘ができるんです。であれば、私は息づかいであまりフェイの弱さや迷いを際立たせないほうがいいだろうなと思って、画にお任せすることにしました。
――画とバランスを取ってアフレコされたと。
喜多村 そうですね。演じる役の顔が少しでも映っていたら、つい息づかいのようなリアクションを入れたくなるんですが、フェイに関してはポイントポイントだけしっかりと、ニュートラルに演じるという方向性で進めました。
――フェイとシュンの関係性についてはどのように捉えましたか。
喜多村 変にカジュアルな関係ではないので、演じる際は落ち着いた感じで接するようにしています。シュンのペットのようなポジションですが、「ザ・使い魔」というよりは転生前のクラスメイトの延長で、どちらが上とか下とかないフラットな関係。「お姉ちゃん相棒」みたいなイメージです
――「お姉ちゃん相棒」はわかりやすいです(笑)。
喜多村 元担任のフィリメスより、ずっと落ち着いたお姉さんの印象があります(笑)。だから、突っかかってくるユーゴーに対しても「やれやれ」と反応する感じですね。突っかかってこられたら、やり返すというキャラクターではないんです。人間としての落ち着きと魔物としての強さ、この二つがあるので基本的に冷静な態度で大丈夫というのがフェイを演じる上で重要なところなのかなと思います。
――シュンとはフラットですが、すごくいいパートナー感がありますよね。
喜多村 堀江(瞬)君が熱血ヒーローという雰囲気ではなく、落ち着いた少年としてのヒーロー像を作ってくれているので、お互いに「落ち着き玄人」みたいな感じが出せている気がします。この二人は、「よっしゃ、行くぜ!」「いっけ~!」って感じでもないじゃないですか(笑)。すごくスマートなチーム感があるので、余計にユーゴーが若く見えます。
――そのユーゴーを含めた、人間サイドの人間関係についてはどうご覧になっていますか。
喜多村 みんな仲良しのクラスメイトではないところがリアルだなと思います。お互いに突き放すわけではないけれど、馴れ合っているわけでもない。クラスのグループ間にありそうな温度差が、転生した先にもあるのが妙にリアルに感じられました。ユーゴーとユーリは少し特殊ですけど、二人のこともみんな「やれやれ」と思っているような気がします。
――確かにユーゴーとユーリ以外は、お互いにあまり干渉しない様子ですよね。
喜多村 フェイもそうだし、シュンもそうですね。フィリメスも何をやっているのかよくわからないし、それぞれ誰かと馴れ合うわけでもなく、みんな自由にやっているなと。ただ、その中で一番まわりをよく見ているのがカティアなのかなと。まわりの様子を窺って、ユーゴーの敵意もちゃんとシュンに忠告していますからね。今後、この関係性がどうなるのか、まだまだわからないところがたくさんあるので、私も楽しみにしています。
――フェイ以外で気になるキャラクターは誰ですか。
喜多村 スーのブラコンな感じがひたすらかわいいです。半分は「小倉唯、かわいい!」みたいな感じですけど(笑)。あとはやっぱり蜘蛛子ですね。アフレコが別々だったのでずっと気になっていたんですが、映像を見てこのセリフ量を一人でやったのかと驚きました。ピンポン球を壁打ちするような収録だったんだろうなと。あおちゃん(悠木碧)にはアフレコ現場ですれ違ったときに、「ギャラ、三人分もらったほうがいいよ」と伝えました。
――はははは(笑)。
喜多村 でも、単純にセリフ量が多いのでセリフの処理能力が高い役者さんじゃないと絶対に大変な役だと思いましたし、あおちゃんだからこそできる役なんだろうなと納得しました。それは、あおちゃんがもともとオタクなのも大きいと思います。……いや、私も人のことを言えないオタクあがりですけど(笑)。蜘蛛子って、自分へのノリツッコミやオタク特有のイントネーションみたいなものをけっこう出しますよね?
――そうですね。
喜多村 オタクの間には「このネットスラングはこう言ってほしい」みたいな共通認識があると思うんですが、あおちゃんは痒いところに手が届くお芝居をしてくれるんです。このお芝居は実際にオタクじゃないと掴むのに時間がかかるだろうなと思いました。しかも、ただリアルなオタクっぽさを出すだけじゃなくて、それを咀嚼してしっかりお芝居に落とし込んでいるので、聞いていて心地いいんです。「そうそう、こういう言い方!」って納得できますし、めまぐるしい展開でも楽しんで聞けるコミカルさや緩急のつけ方があって、引き出しの多さに圧倒されました。
――ありがとうございます。では最後に、第7話以降の注目ポイントを教えてください。
喜多村 少し先になりますが、フェイ……というよりも美麗の人間像が明らかになる話数があるので、それがフェイの前半のハイライトになるかなと思います。フェイに限らず、シュンたちはどんな学校生活を送っていたのか、美麗と若葉の関係は実際にどうだったのかも明らかになってくると思うので、ぜひ注目してください。よろしくお願いします。
【取材・文:岩倉大輔】