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並列意思によって複数の思考が独立し、魔法も使えるようになった「私」(蜘蛛子)。だが、喜びも束の間、火龍との戦いで絶体絶命のピンチに――!?
「蜘蛛ですが、なにか?」を盛り上げるリレー連載第11回は、再び「私」役の悠木碧さんが登場。これまでのエピソードを振り返りながら、ついに登場した並列意思の演じ分けなどについて伺いました。
――第8話が放送されましたが、蜘蛛子のリズムにもだいぶ慣れてきましたか。
悠木 第3話ぐらいまでは、演じ方をガチガチに決めてその通りにやることで精一杯だったので、そのときに比べるとずっと慣れてきました。最初は、セリフに対して脳みそが追いつかない状況で、「こうしたい」という演じ方に縛られてしまったのか、現場で別のやり方を思いついたときや何かディレクションがあったときに、なかなか対応ができないことがあったんです。でも、第4話ぐらいからうまくハマる瞬間がわかってきて、だんだんリズムも掴めるようになってきました。
――何かきっかけがあったのでしょうか。
悠木 「これがきっかけ」というのはなくて、ただただ慣れていったのが大きかったのかなと思います。「ここに着地すれば、こうなる」という予想もだんだんできるようになって、先の展開を想定しながら芝居を組み替えていけるようになりました。
より具体的に言うと、240%の力を出すべきところがちゃんと算出できるようになったということになるのかなと。全部240%の力を出そうとすると必ずエネルギー切れになりますし、視聴者の方も聴くに堪えなくなると思うんです。だから、画に任せられそうなところは画に任せて、システム的な説明は鑑定さんに任せて、ここだというところで240%の力を出す。あとは第8話ぐらいになると蜘蛛子もこの世界に慣れてきて、そのおかげで私も余裕が出てきたというのも大きかったです。
――悠木さんがそこまで苦労されていたのが意外でした。
悠木 正直、蜘蛛子を演じるのは自信があったんです(笑)。それゆえ、実際アフレコが始まったときはどうしていいかわからなくなって。「私も老いたかな」「腕が鈍ったかな」と落ち込んだんです。そのときに、これができるようになったら私も蜘蛛子みたいにランクアップができるぞとポジティブに捉えられたのがよかったのかなと思います。
――そして、「並列意思」のスキルによってもともとの「情報担当」に加え、「体担当」「魔法担当」「魔法担当2」という複数の蜘蛛子が登場しました。
悠木 実は、並列意思は別々に録っているのではなくて、流れでいっぺんに録っているんです。最初は大丈夫かなと不安もあったのですが、一人で壁打ちしているよりもだいぶ楽になりました。万が一、一人ぼっちでどこかに閉じ込められたら、もう一人の自分を作れば生き残れる。そんなことを勝手に学びました(笑)。
――全部、流れで録っているんですね。
悠木 声が重なるところ以外は全部流れなので、完全に自分と自分が会話している状態です。蜘蛛子も頭の中のもう一人と会話をしている設定ですから、私も並列意思を取得しないとダメだと思って(笑)。ちゃんとスキルを取得して、並列意思で演じています。
――すごい(笑)。とんでもない処理能力が必要とされますよね。
悠木 双子の役を演じることや自分と自分が会話する役もわりとあるのですが、さすがに四人を別録りでもなく一気に録るのはなかったので、不安もありつつ新鮮でもありました。なかなかできない経験ですから。
――演じ分けはどのようにされているんですか。
悠木 最終的に落ち着かせたいテンションは一緒と言いますか、基本的に同じ人物であるという根っこは変えたくなかったので、声色に関してはあまり変えていません。別の個性がありながらも、同じ人物であるという説得力を持たせる難しさはありますが、気持ちとしては楽になりました。一人で演じるとはいえ、キャラクターが複数になることでお芝居に緩急がつけられるので、並列意思には助けられています。
――声はそこまで変えていないとのことですが、各担当のキャラづけみたいなものはどこまで考えられているのでしょうか。
悠木 「情報担当」の蜘蛛子との関係性を大事にするようにしています。「体担当」だったら最初に出会った仲間なので、パートナー感を大事に二人で息を合わせるときはとにかく熱くやろうと考えていました。ここぞというときに難しいことを語り出す「魔法担当」は、落ち着いて演じることを大事にしています。そういう意味では、「ヤァ!」と登場して、いきなり「すっこんでろ!」とみんなに冷たくされた「魔法担当2」は、わりと自由に演じています。
――ちょっとした遊びを入れていると。
悠木 はい。ぼやっとしたところも好きですし、一番遊べるところがあるので、「魔法担当2」は少し特別扱いしているところがあります。
――ほかに演じる上で大事にされていることはありますか。
悠木 最初の頃、板垣(伸)監督からバトルシーンはかっこよく、ご飯を食べている日常や思考シーンは楽しくしてほしいと言われたんです。ただ、バトルをしているときに突然、面白い発言をすることがありますよね? 戦闘中にモードが完全に変わるときがあって、序盤はその切り替えがすごく大変でした。スイッチが気持ちよく決まらないと、この作品の爽快感が伝わらなくなるので、なるべく視聴者の方に違和感を持たれないような気持ちいい切り替えを意識しています。
――今はその切り替えにも慣れてきましたか。
悠木 はい。今はそれがめちゃくちゃ楽しいです! 来るぞ……来るぞ……来たー!みたいな感覚があります(笑)。その感覚をそのまま乗せてしまってもいいのが蜘蛛子の楽しいところで。蜘蛛子自身、戦闘中に面白いことを言うときって必殺技を言うような感じになっていますし、こちらの「悦」が出てもいいのかなと。
――確かに、役者の気持ちが乗ってしまっても違和感のないキャラクターですよね。
悠木 この作品に限らず、例えば必殺技を撃つときって生死のやりとりをしていることが多いと思うんです。でも、蜘蛛子はポジティブな分、追い詰められながらもゲーム感覚で楽しんでいるところがあって。普段だったら自分の気持ちは抑えることが多いのですが、蜘蛛子の場合は私も必殺技を撃つように「今から気持ちいいのを決めるぞ!」という気持ちを乗せています。誰も聞いていないのに叫んでいるような子なので、家にひきこもってゲームをしているときの臨場感が出たらいいなという感覚です。
――蜘蛛子は本当にどんなときもポジティブですよね。
悠木 私、この作品の「種族底辺・メンタル最強女子」というキャッチコピーがすごく好きなんです。結局、どんなに弱くてもメンタルが最強だったら生き残れるということですし、このヤバい環境ですら楽しめちゃう蜘蛛子の強さがこの言葉に表れているなと。とても気に入っている言葉です。
――これまでの話数を振り返って、何か印象に残っているエピソードはありますか。
悠木 地龍アラバに遭遇して逃げたところです。一回逃げてしまって、もう絶対に逃げないぞと決めたのに、逃げなきゃダメだと思ってまた逃げてしまった。蜘蛛子の心に爪痕を残す出来事になったので、ここはすごく重要なポイントだったなと思います。
どんな状況も楽しんで、時にはアホみたいなこともやっているので(笑)、一見、まったくへこたれないように見えるのですが、実は悔やむこともあるし、悩んで反省してトライ&エラーを繰り返しながら成長しているんです。ポジティブな人だって、ただずっとポジティブなわけではない。それがしっかり描かれていたのがいいなと思いました。
――アラバの存在はその後も蜘蛛子にとって大きな存在になりますからね。
悠木 そうなんです。ここで一度、圧倒的な差に気づくのは重要なことですし、それに本当にここは逃げて正解だったと思います。まともにやったら絶対に死んでましたから(笑)。
――ありがとうございます。では、第9話以降の見どころを教えてください。
悠木 今後、新しいキャラクターも出てきて、物語がより深まっていきます。世界の真相も少しずつ明らかになっていくので、ぜひ一緒に驚いていただけたら嬉しいです。それから、第2話で人間に襲われたシーンがありましたが、今度は蜘蛛子視点で見る人間ではなく、人間視点から見た蜘蛛子も描かれます。それはいろいろと考えさせられるので、楽しみにしていてください。
【取材・文:岩倉大輔】