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2月18日から動画サービス「ZOWA」で配信が始まったASMR動画のオリジナルショートアニメ『あなたから聴く物語』。ASMRとは、物を砕く音、破裂音、鳴き声などの“音”に焦点を当てたもので、音楽やヒーリングとも違う、今注目の動画ジャンルです。
本作では“声”をフィーチャーし、聴こえてくるのは公衆電話で話す1人の少女の言葉だけ。そこから毎話、童話やお伽噺をいじったおかしくも不思議な物語がつむがれていきます。手掛けたのはアーティストのミュージックビデオ(MV)などで活躍する新鋭の映像制作チーム“Hurray!”。脚本・映像監督を務めたHurray!代表のぽぷりかさんに、ちょっと変わった本作が生まれた経緯などを聞きました。
――この『あなたから聴く物語』。正直に言うと、リリースを読んだときはまったくピンとこなかったのですが、映像を観てみたらとても面白くて、一気に観てしまいました。
ぽぷりか:ありがとうございます。
――1話目で「桃太郎かよ(笑)」ってクスッとなって、2話目のシンデレラで笑いが止まらなかったです。
ぽぷりか:今回、これまで作ってきたMVのような映像ものではないし、話を作るのも初めてだったので、楽しんでもらえるのか不安な面もあったんです。そういう言葉をいただけるのは嬉しいですね。
――相手へのツッコミが絶妙で、構成作家や芸人のネタを聴いているような感覚でした。ぽぷりかさん1人で考えられたのですか?
ぽぷりか:脚本は僕1人ですが、初期のアイデア出しではみんなと話し合っていて、例えば2話目のシンデレラは、「なんで王子、靴のサイズで探したんだよ?」「謎だよね(笑)」みたいな話を友達としていて生まれたものですね。
――シンデレラの話は傑作でした(笑)。
ぽぷりか:よくよく考えればおかしな話なんですよね。ただ、別にそこを論破するのではなく、おもしろく聴いてほしいというだけです。先ほど「ピンとこなかった」と言われましたが、僕自身も期待から入ってほしくはなかったんです。「は?」みたいな感じで聴き始めて、ちょっとクスっと笑えてもらえたら、それがいちばん嬉しいですね。
――お伽噺をいじるというのは、ぽぷりかさんの発案ですか?
ぽぷりか:はい。なおかつ、オムニバス形式にしたのも僕の提案です。新規コンテンツで、ほぼ声だけで物語をつないで興味を引かせ続けるというのは相当難しいと思いました。一気に聴かせるならともかく、日にちを空けての配信スタイルで、最終話までお客さんが付いてきてくれるのか。それであったら1話ごとを楽しむオムニバス形式で、「あの話面白かったよね」「この話が好きだな」って、そういう楽しみ方をしてもらえるほうがいいと思ったんです。お伽噺はその延長の考えで、誰も知らないオリジナルの話をやろうと思ったら、キャラクターや状況説明に絶対に尺を取られます。ショートでそれはナンセンスだし、その時点でつまらないと思う方もいるかもしれない。最初の入口って勝負どころで、説明を端折っても入り込める題材として、広く知られているお伽噺や童話はうまく使えると思ったんです。
『あなたから聴く物語』は「ZOWA」をはじめとした動画共有サイト、SNS上で全10話が順次公開されています。
【なぜ電話ボックスが舞台なのか?】
本作は電話ボックスを舞台に話が展開していきます。携帯電話での通話がメインとなっている今、なぜ電話ボックスを舞台に選んだのかを、エイシスのプロデューサー・住田さんに語っていただきました。
「大きく2つの理由があり、舞台装置としてもボイス作品としても使いやすいと思ったからです。まず、ここ最近の音声コンテンツの市場の動向を見ていると、シチュエーションボイスがASMRに向いているんだろうなとは思っておりましたが、いくつかの制約もあると考えておりました。シチュエーションボイスの設定をそのまま活かした場合、一人称か三人称どちらであってもカットのヨリヒキが必要になってくる、そのための工数なども考えないといけません。さらに、主人公(自分視点)と相手役は基本的に男性と女性で分かれてしまう(男性向けなら相手が女性、女性向けなら相手が男性といった感じ)ために単純に半分のユーザーを減らすことになります。そのため、シチュエーションボイスで人気の設定を使うのは難しいだろうなと思っていました。
もう一つが制作費の問題です。フルアニメーションだとカット数やCGでも素体の作成などのコストが大きいし、実写だとキャストや撮影などのコストが制作費として大きくなります。コストを考えるとワンシチュエーションが良いだろうと考え、さらに「結構イケそうな舞台装置」を突き詰めていった結果が「ボックスの中」という限定された舞台でした。
電話を使うというアイデアのきっかけは新海誠監督の「秒速5センチメートル」やジョエル・シュマッカー監督の「フォーンブース」でした。これらの映画を観て、公衆電話だと一方通行でも話は作りやすいなと思いましたし、会話から推測するしかないので、一人語りでも上手くいきそうだと感じていました。
携帯電話を使えば舞台はどこでも成立するため一か所に留まったストーリーを作るのが難しいので、電話ボックスならばソコでないとできない。とういう縛りが使えるので、思った以上に使いやすい!というのが公衆電話にした理由です。
さらに公衆電話だと今のオンラインツールと違って、一人しか話せません。なので、登場する人物も一人に絞ることができたのも大きいです。
以上のことをぽぷりかさんと話して、現在の完成形に落ち着きました。
【取材・文:鈴木康道】