「第十八回 声優アワード」主演声優賞・浦和希インタビュー 「一番の目標は、お芝居で人の心を震わせること」

2024年3月9日、2023年度に最も活躍した声優を讃える「第十八回 声優アワード」の受賞者が発表されました。本稿では、主演声優賞を受賞した浦和希さんのオフィシャルインタビューをお届けします。

——「第十八回声優アワード」主演声優賞受賞の報せを受けてのお気持ちはいかがでしたか？
浦　事務所は違えど同期にあたる佐藤元くんが（第十六回声優アワードで）新人賞を受賞した際、すごく熱い言葉を僕にくれたんです。待ってくれている友達がいると思うと頑張らないといけないなと思いましたし、それが明確な目標ともなりました。ただ、まさか人生の最終目標に近かった主演声優賞をいただけるとは想像もしていなくて、なかなか実感がわかずにいるのですが、心からうれしく、光栄に思います。

――2023年は、浦さんにとってどのような１年でしたか？
浦　初めて海外に行ったり、キャラクターを背負ってライブに出演したりと、本当に多岐にわたるお仕事をさせていただいたと思います。お芝居においても、幅広い役柄に挑戦できたことはもちろん、同じ役の中で成長を表現するための努力をさせていただいたことが印象深いです。少し前に頑張っていたものが放送されて、その反響が直に返ってくる年でもあったので、改めて自分は素敵な作品に恵まれていたのだと実感する年にもなりました。

――初主演作「ブルーロック」は社会現象ともいえる大きな話題を呼びました。ご自身にとっては、どんな作品といえるでしょうか？
浦　「絶対に面白いものを作るぞ！」というスタッフさんたちの熱に応えようと必死に頑張る中で、言葉では言い表わせないほどの経験と感動を与えてもらった、いわば人生を変えてもらった作品です。僕が主演声優賞をいただけたのも、この作品に携わる皆さんが自分を盛り立ててくださったからなので、真っ先に感謝を伝えたいと思いました。

――潔世一のように、収録を通してご自身の〝進化〟に震えるような瞬間はありましたか？
浦　世一はすごく頭のいい選手で、身体を動かしながらモノローグとして自分の考えていることをひたすらしゃべり続けるようなシーンが多々あります。肺活量も必要ですし、どうにか自分の足りない頭で彼に追いつこうと常に全力で頭を回転させていました。最初はリアルに酸欠状態になって、音響監督さんに「息は吸ってください」と言われてしまったくらい無我夢中だったと思います。本当にたくさんの先輩方にいろんな相談をさせていただいていたのですが、その〝進化〟という意味で思い出すのは、ある方に「潔世一という枠を決めてしまうより、もっと広くいろんな可能性を探ってお芝居をしてみると楽しいよ」と言われたことです。第１クールのクライマックスだったんですが、世一とすごく気持ちがリンクして「他の人なら、自分みたいに演じなかったんじゃないかな」と思えるような表現ができて、音響監督さんがちょっと笑いながら「それ、いいですね」と受け取ってくださったとき、先輩に言われたことの意味もわかった気がしました。世一が固定観念をぶち壊す必要があったように、僕自身も新しく生まれ変わってお芝居できたのかなと思っています。

――「ブルーロック」は「エゴ」がテーマにありますが、アンドロイドのコバルト役を演じられた「テクノロイド オーバーマインド」もまた「心」を主軸とする作品でした。
浦　まさに「ブルーロック」が自分の限界をさらに越えていく芝居を求められたのに対して、「テクノロイド オーバーマインド」では、その時点の自分から極端に減らしたところから少しずつ心を獲得していく芝居を求められたので、同時期にプラスとマイナスの両方をやらせていただけたことは僕にとって大きな糧になりました。まったく新しいオリジナルコンテンツということで、オーディションに受かったときは本当にワクワクしましたし、物語の主軸となるKNoCCというグループを演じる４人はまだまだ無名の新人ということもあり、同じハングリー精神を持って、愛情の深いスタッフの方々と一緒に作品を盛り上げようと臨んだことも本当にかけがえのない経験です。歌唱も多い作品で、「キャラクターとして歌うとはどういうことか」「周りの上手な方たちにどう食らいついていけるか」ということを学ばせていただいたことにも感謝しています。

――声優を目指したきっかけや、今のご自身に繋がっていると思う養成所時代のことを教えてください。
浦　もともとは、ゲームクリエイターになる勉強をしていました。いろんなことが重なって、何もかも放り投げたくなるくらい苦しかった時期に観た「ストライクウィッチーズ」の映画で、福圓美里さん演じる主人公の宮藤芳佳が言う「あきらめないでください」というセリフがあまりに真っ直ぐ刺さって、ボロ泣きしたんです。それで、僕も人の心を震わせられるお芝居をしたいと思ったのが始まりでした。養成所では「これで決まらなかったら諦めよう」と覚悟した最後の年にお世話になった恩師が、「80点を狙いに行くな。200点を狙って空振りしろ」と言ってくださっていたことがすごく大きかったと思います。80点を及第点としたとき、それを超えると逆に好みの問題で0点になってしまうこともありますが、そもそも実力が足りていないのだから、常にそのくらいの気持ちで向かっていかないといけなかったんですね。お芝居はもちろんのこと、心のどこかで緩やかな人生を送りたいと思っていた自分自身にとっても雷が落ちたようでした。それからは何事も体当たりで0点を出しまくり（笑）、でも、ごく稀に本当に100点を出すという達成感を得られたことは、今の自分に確実に活きています。

――「声優になってよかったな」と思うのは、どんなときですか？
浦　観てくださった方に「面白かった」と言ってもらえるときです。作品には、笑えたり元気をもらえたりするだけでなく、胸が苦しくなるようなものもあります。そうした「作品の魅力」をどう伝えられるかということをずっと考えているんです。僕は、その言葉が聞きたくて声優をやっているのではないかと思いますし、つらいことも吹き飛んでしまうくらいうれしくなります。

——最後に、これからの目標をお聞かせください。
浦　一番やりたいことはずっと変わらず、お芝居で人の心をふるわせることです。いただいた主演声優賞にふさわしいお芝居ができるよう精進し、僕自身がアニメによって救われたように、もっともっと、いろいろな作品を通してたくさんの方にエールを送れる声優になっていけたらいいなと思います。

【撮影：田上富実子／取材・文：キツカワトモ】

■第十八回 声優アワード　受賞者及び受賞作品
主演声優賞　市ノ瀬 加那
主演声優賞　浦 和希
助演声優賞　阿座上 洋平
助演声優賞　石見 舞菜香
助演声優賞　能登 麻美子
新人声優賞　伊駒 ゆりえ
新人声優賞　榊原 優希
新人声優賞　戸谷 菊之介
新人声優賞　原 菜乃華
新人声優賞　羊宮 妃那
歌唱賞　結束バンド
パーソナリティ賞　該当者なし
外国映画・ドラマ賞　高畑 充希
外国映画・ドラマ賞　村井 國夫
ゲーム賞　内田 夕夜
シナジー賞　「THE FIRST SLAM DUNK」
富山敬・高橋和枝賞　岡村 明美
富山敬・高橋和枝賞　佐々木 望
キッズファミリー賞　「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」キャスト一同
インフルエンサー賞　上坂 すみれ
MVS　中村 悠一
功労賞　古川 登志夫
功労賞　山田 栄子
特別功労賞　今回は、特別功労賞に代えて本年度ご逝去された声優を顕彰しました

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