「夜のクラゲは泳げない」富田美憂インタビュー 「あまりにも自分と重なっていて震えた」

ⓒJELEE／「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

夜の渋谷で出会った女の子たちが匿名アーティストとして活動を始める、オリジナルアニメ「夜のクラゲは泳げない」。その登場人物のなかでひときわ個性的な女の子が、Vtuber・竜ケ崎ノクスとして活動している渡瀬キウイです。「正義は勝つ！」と力いっぱい叫ぶ、彼女に富田美憂さんはどんな熱量で臨んだのでしょうか。富田さんがこの作品に込めた熱い思いをうかがいました。

ⓒJELEE／「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

――「夜のクラゲは泳げない」はオリジナルアニメ作品です。富田さんはこの作品のどんなところに惹かれたのでしょうか。
富田　オーディションを受けるときに、作品の資料とキャラクターの資料を事前に見させていただいたんです。私も歌やお芝居といった表現が昔から好きだったので、そういう表現を目指している人ならではの悩みが描かれていて、すごく興味が沸きました。あと、私は弟が2人いるんですけど、弟たちのすぐ身近にYouTuberの活動をしている人がいたり、みんなSNSとの付き合い方に悩んでいたり、ネットの文化が普段の生活に影響しているんですよね。そういう状況がすごくリアルに描かれている作品だなと思いました。誰しもが直面したことのある出来事が入っているところが、この作品の魅力だと思います。

――富田さんは渡瀬キウイ役を演じていらっしゃいます。キウイとの出会いをお聞かせください。
富田　キャラクターの資料を初めて読んだときに「ビビビッ」と来たんです。オーディションは年に何十本も受けているんですが、まれに「この子から自分の声がする」という感じがするときがあるんですよね。キウイがまさにそれで。もしかしたら自分の声でしゃべってくれるんじゃないかという期待があったんです。だから、早い段階で自分のなかの方向性が固まったので、オーディションのときはもしかしたら受かるかもしれない、という期待がありましたね。

――キウイはボーイッシュな女子高生ですね。しかも、Vtuber・竜ヶ崎ノクスとして活動をしている。そんな個性的な彼女にどんなふうにアプローチしたのでしょうか。
富田　キウイは一人称が「オレ」だし、Vtuberとしてもハイテンションな感じなので、男の子みたいな感じで役づくりしたほうがいいですか、と音響監督の木村（絵理子）さんとお話をしたんです。そうしたら、男の子としてコテコテにやりすぎると、キウイがお芝居が上手な子に見えちゃう。だから、あくまでキウイの言動を見て、なんとなくVtuberっぽいなと記憶をくすぐるくらいにしようという感じがありました。だから、あまりキャラをつくりすぎず、自然な感じにしています。

ⓒJELEE／「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

――キウイは、自分の好きなものに正直なところが魅力的ですよね。富田さんは最初に出会ったときに「ビビビッ」と来たとおっしゃいましたが、キウイのどんなところが富田さんに響いたのでしょう？
富田　キウイは奇抜な髪色でファッションも個性的なんですけど、「自分の好きなものを貫く強さ」をもっている子なんです。私も自分の好きなものがはっきりしていて、こうしたい、こうなりたいという思いが強いほうだと思っていて。そういうところが自分に響いたんだと思います。私も実感することでもあるんですが、「好きなものを貫く」ことはやっぱり大変なんですよね。自分の「好き」を表に出したときに、まわりから予想外の反応をされてしまうこともある。まわりの反応が怖いから「好き」を貫けないという葛藤もあるんですよね。そういうところも含めて、私はキウイに共感できるなって思っています。

――富田さんの感情や経験はキウイに近いものがあったというわけですね。
富田　私は中学生のころに声優の活動を始めて、中学3年生から高校生の間は学業と仕事を両立していたんです。通っていた学校は芸能科がない普通の学校だったので、どうしてもほかの子たちとは違う毎日をおくることが多くて。まわりの一部の人たちから誤解を招いてしまうこともありました。私自身は自分の好きなことをやっていただけだし、それがお仕事につながっていただけで、何も悪いことはやっていない。それなのになぜ学校でつらい思いをすることになるんだろうと。学校を卒業して、仕事に専念をするようになってからは、時間が解決してくれたというか、当時のことは気にならなくなっていたんですが、キウイを演じるときは、そのときの思い出を掘り返さないといけないなと思って。台本をいただいてからは、つらい時期と正面から向き合いました。収録が終わったときには、あの辛かった中高の４年間は、この子（キウイ）を演じるためにあったんだなって。この子に私の過去を肯定してもらえたような気持ちになったんです。数年ぶりに、救われたような気持ちになりました。

――自分の引き出しを開けて、彼女のドラマを演じていった。この作品は何者でもない女の子たちが、何者かになるために目指していく話ですから、声優という活動をされている皆さんには共感しやすい作品なのかもしれませんね。
富田　そうなんです。今回は本当にたくさんの引き出しを開けました。その引き出しのひとつが……私の中学時代の出来事ですね。

――中学生のころにどんなことがあったのでしょうか？
富田　私は中学で3年間、美術をやっていて、すごく大きいキャンバスに抽象画を描いていました。それで毎年、コンクールに応募していたんです。入賞すると美術館で飾ってもらえるんですが、２年生のときに賞をいただいて。次の年はもっといいものを描かなきゃとなると、使命感というか……プレッシャーを感じてしまって。思うように描けなくなってしまった。これまで自由に好きなものを描いてきたのに、なんだか１年生のときよりも楽しくない。自由な発想が出なくなってしまったんです。顧問の先生に進捗を報告するために、描いている次の作品を見せたら「なにか邪念みたいなものが絵に出ている」って言われてしまって。

ⓒJELEE／「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

――作品から、富田さんの心にある迷いを見抜かれてしまった？　……本作の主人公・光月まひるを思わせるエピソードですね。
富田　そうなんです。だから、この作品にとても共感しています。

――竹下（良平）監督や屋久ユウキ先生（脚本・シリーズ構成）が描こうとしているものは、富田さんの実体験と重なっている。「ヨルクラ」は、かなりリアルな物語を描いているってことなんですね。
富田　ホント、それ！

――あ、それ……まひるの口癖ですね。
富田　はははは（笑）。収録にあたって台本をいただいたときに、あまりにも自分と重なっているんで震えたんですよ。それで収録のときに屋久先生にもお話しました。「先生は私の過去を見たことがあるんですか！」って。当時の顧問の先生に「ヨルクラ」を見ていただきたいです（笑）。

――当時、悩んでいた富田さんのお気持ちが、この作品を見ればわかるかもしれないですね（笑）。オンエアも中盤に入ってきました。この作品を富田さんはどんなふうに楽しんでいただきたいと思っていますか。
富田　この作品は令和に生きる人に見ていただきたいと思っています。いまの私たちのまわりにはTikTokやYouTube、SNSといったツールがたくさんあって、誰しもそこで〝いいね〟や〝フォロワー〟の数や〝コメント〟が気になってしまうと思うんですね。そういうツールを通じて、他の人と自分を比べてしまうし、それで悩んでしまう人もいます。私も自分に自信がないほうなので、いつも「自分なんてダメダメだ」と感じているんです。それって私だけじゃなくて、どんな仕事をしている人も、どんな環境にいる人も感じていることじゃないかとも思うんです。そういう現代に生きる方々にきっと刺さるところがたくさんある作品になっていて。登場人物の誰かの悩みに、きっと共感できると感じています。私はまひるとキウイに共感していますし、みんなが好きなキャラクターを見つけてもらえればうれしいなと思います。

ⓒJELEE／「夜のクラゲは泳げない」製作委員会

【取材・文　志田英邦】