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「時代劇アニメ」と脚本家たち——會川昇×虚淵玄特別対談!


3月15日から20日にかけて新潟市内で開催された第2回新潟国際アニメーション映画祭。その模様については、現在発売中の月刊ニュータイプ5月号にてレポート記事を掲載しています。
本稿では、本映画祭で実施されたイベント「フィクションとしての"時代劇”の意味」にフォーカス! 「少年猿飛佐助」や「劇場版 戦国奇譚妖刀伝」、「機巧奇傳ヒヲウ戦記」(第21話)、「ストレンヂア -無皇刃譚-」を一挙上映したこのオールナイトイベントは、脚本家の會川昇さん、虚淵玄さんの登壇もあり、盛況ののちに幕を閉じました。このイベントのダイジェストから、登壇された脚本家の會川昇さん、虚淵玄さんへオファーした特別対談で、イベントでは語り切れなかったお2人のお話をお届けします。


トークイベントに登壇する會川昇さんとリモート参加の虚淵玄さん


時代劇アニメは難しい? 当事者が語る「信仰」の在りか

ジャーナリストの数土直志さんをMCに開幕したトークショーでは、まず時代劇アニメの歴史をひもとくことに。実写作品で時代劇が減少している一方、「鬼滅の刃」や「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」のように、時代劇アニメは毎年放送されていることを、會川さんは指摘しました。
またOVA全盛期は、今より多くの時代劇アニメもリリースされていたことついて、會川さんは「時代劇をダシにしていたのでは」と分析。「時代劇であることをおもしろさの担保にして、SFを書いていたんです」と、自身もまたジャンルをクロスオーバーさせながら企画をつくっていたことを明かしました。

トークはそのまま、虚淵さんがシリーズ構成を務めた「REVENGER」制作秘話へ。客席に偶然いた各話脚本の大樹連司さんも壇上へ上がり、メーカー側から出たオーダーに対してどのように描いていったのかが明かされました。
明確にめざす指針について、虚淵さんは「信仰」とたとえ、「信仰」があったからこそ脚本会議はスムーズに進んだと回顧。大樹さんは「時代劇を知らないからこそ、構えつつ制作に入った」と当時を振り返り、キャラクターを使い捨てずに描いていく方針を大切にして、現状の作品が出来上がったと語りました。
さらに、時代劇アニメを手がけられたお2人は、その難しさを「女性キャラクターの活躍の見せ方」だと指摘。その上でどのようにキャラクターを工夫して出していくのか、価値観が異なるディストピアであることも魅力なのではないか……などと、議論が盛り上がり、その着地点の難しさこそが、時代劇アニメのもつ複雑さのひとつの要因なのではないかと結ばれました。

なお、會川さんは現在、堺三保さんによる映画「オービタル・クリスマス」の長編版に脚本として参加中。クラウドファンディングで支援をすると、會川さんが執筆したプロットや準備稿が読めるとのこと。また、参加している劇場新作アニメが制作中と明かされました。また、虚淵さんは「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」「楽園追放 -Liberated from Paradise- 心のレゾナンス」「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀4」「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章」のほかにも新作が進行中と明かされ、会場からは拍手が巻き起こり、イベントは終了しました。

本稿特別対談! 脚本家が見ている「時代劇アニメ」とその先の景色

——お2人が時代劇アニメを手がけるうえで、意識している点は何ですか?
會川 トークショーでも虚淵さんが仰っていましたけど、僕も時代ものであるからにはある種の覚悟をもって、きちっとやらなきゃいけないなと思う時期もありました。今はそのあたりもゆるくなってきましたが……。僕の場合は、時代劇=史実をもとにするのだから、厳密に設定を守ることは意識しています。
虚淵 扱う時代が数千年後とか数千年前、異世界なら割り切って描けるのかもしれませんが、百年単位の過去、さらに同じ国の中だと思ったとき、何となく自分と繋がっている意識が働いてしまうんですよね。なので、詳しい方を呼ばないと、どこか失礼になってしまうのではと僕も感じています。
會川 それは虚淵さんの場合、お父さまやおじいさまも歴史上の人物であるから、というのも少し関係しているんじゃないかな(笑)。僕は普通の家に生まれたのでそういう部分はないけれど、母が長崎出身なので、原爆に言及するときはどうしても自分の記憶と結びついてしまうんです。母の幼いころの友人の多くは、原爆で亡くなってしまったと聞いていましたから。そんな出来事が積み重なった先に現代はある。だからどこかファンタジーや海外が舞台の作品とは書く感覚が異なるんです。

——設定を緻密に練るという面では、お2人が得意とするSFも同じだと思います。その上で、約200年前の江戸時代を描くことと約200年後の近未来を描くことでは、どのような差があるのでしょうか。
會川 時代劇だとまずどの時代を描くのか、誰を描くのかがありきなんですよ。SFの場合はやりたいことがあってから、アイデアを補完していくという流れになるんです。本来なら時代劇もかくあるべきですが、アプローチが逆になっているのは大きいですね。

——なるほど。どの時代を描いて、誰を描くのかが先行して決まり、そこに時代劇を描く上でのお約束的要素が乗っかってくる。トークショーでもお約束=信仰と虚淵さんは語られていましたが……。
虚淵 お約束はある種、作り手ごとに異なる信仰のようなものだと思っています。ひとりで書く小説と異なり、アニメの制作は、何が視聴者にとってうれしくて気持ちいいのか、いろんな人がアイデアをもち寄り、ブラッシュアップしていますよね。そこで時代劇アニメならかくあるべき、という要素が出されていくんですが、それはもう噛み合わない(笑)。
會川 モノづくりって、ある種の宗教戦争ですからね。
虚淵 まさしく。自分の立ち位置としてはこれが〝尊い〟と思うけれど……と話したうえで、他の方の信仰も聞くように、意識しています。

——會川さんが手がけられた時代劇アニメ「大江戸ロケット」は、中島かずきさんの戯曲が原作です。原作ものを扱ううえでは、いわゆる信仰の違いはどのくらい意識されましたか?
會川 「大江戸ロケット」の戯曲から、中島さんはそこまでどっぷり時代劇をやろうとしてる方ではないのかもしれないと感じていました。ただ、実際に中島さんとお話をしてみると、僕よりも時代劇に詳しいし、愛情をもたれていたんですよね。なので、中島さんが作品に込めたものからはみ出さないように脚色をしていきました。

——虚淵さんや中島さんが参加された「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」(「コンレボ」)では?
會川 「コンレボ」における信仰は、ヒーローものに対してのスタンスでした。テレビのヒーローものやアニメ、マンガに対する夢を描くお話だったので、最初から意図して信仰が異なる人を集めていたんですよね。辻(真先)さんの世代、中島さんの世代、僕の世代、虚淵さんの世代と、好きなものも違えば、スタンスも異なります。そこが目立つように書いてほしいとオーダーしたのが「コンレボ」でした。

——虚淵さんがシリーズ構成を担当された「REVENGER」では、大樹連司さんも各話脚本として参加されていました。大樹さんとは信仰は合致していたのでしょうか?
虚淵 これがまた不思議なもので、「REVENGER」に関しては大樹さんと信仰は合致していたんですよ。なので、後半の脚本はかなり彼にお任せできたんです。でも、現在進行中の「楽園追放 -Liberated from Paradise- 心のレゾナンス」ではいろいろと噛み合わずに、擦り合わせが必要になりまして。
會川 それは大樹くんが時代劇にかかわるのが初めてだったからかもしれないよね。たぶん虚淵さんの信じる方向に付いていくスタンスを取っていたんだと思います。対して「楽園追放」だと、大樹くんはSFに関して一家言あるクリエイターだから、宗教戦争のようになったのかもしれない。
虚淵 なるほど。ただ、「REVENGER」は、彼のおかげで正しい時代劇になったと思うんですよ。僕がひとりで書いていたら、もっと殺伐としたキャラクターばかりだったはずなんです。藤森(雅也)監督から「もっと甘さや優しさを含んだキャラクターにしていきたい」というオーダーを受けて、長屋にひとり女の子を置いたり、人情味のあるお話に変化させたりしたのは大樹さんがいたからこそなんですよね。その結果、惣二も死なずに済みましたし……。
會川 なので、本当にケースバイケースですよね。

——お2人にアニメ脚本家としてのスタンスについてもうかがえればと思います。昨今ではオリジナル展開を混ぜず、そのまま原作の内容をアニメ化する作品が多く見受けられます。お2人がもしこれから原作ものを手がけられる際は、どのようなスタンスで取り組むべきだとお考えでしょうか。
虚淵 原作がメディア展開したときに感動できるのは、スタッフがどれだけ原作のことを考えていたのかが伝わってくるからだと思っているんです。あくまで原作とその派生作品は別ですが、原作に準拠すればいいという話ではない。理解と作品への深い思いをもって、アニメならアニメ、実写なら実写に翻案していく。原作に準拠するか、オリジナル要素を入れていくかは作品ごとによって正解が異なると思っています。ただ、それを視聴者がどう感じるかは別の問題ですよね。
會川 そもそも、原作通りに映像化することは難しい。よくマンガをそのままアニメ化すればいいと言う人がいる。他にも、放送時間枠や放送局が理由で、内容をマイルドにしなくちゃいけないこともありますし。僕としてはどれだけ原作を遵守して書いたとしても、そこに脚本家の色は乗ってしまうのではないかと思っています。

——原作ものはこれからもどんどん増えていくかと思います。そんな状況下で脚本家をめざす人も増えていますが、お2人が考えている脚本家にマストな技術は何ですか?
虚淵 ディスカッションにおいて、相手の本音を引き出すテクニックです。ディスカッションさえできれば、例え自分の中におもしろいアイデアがなかったとしても、他の人のおもしろいアイデアを引っ張り出せますからね。感性を磨くとか知識を深めるとか、創作に必要な技術もありますが、ディスカッション能力は磨けば磨くほど即戦力になると思います。
會川 アニメや実写は、多くの相手とディスカッションしながらつくっていくことが前提ですからね。物書きは、コミュニケーション能力にあまり言及されませんが、脚本家に関しては話せないと仕事が始まりません。
虚淵 お蔵入りになった仕事は何本かあるんですが、そうなった要因の一つには監督が何を考えているのか引き出せなかったことがあったと考えていて。意志の共有さえうまくできていれば、違う結果になったのかなと思っているんです。
會川 あと、僕から別のものを挙げるとするなら、とにかく一冊でも多くプロの脚本を読むことだと思っています。うまい脚本にはうまい技術が詰まっているので、脚本の書き方よりも、脚本そのものを手に取ってほしいですね。脚本家をめざす人は多いのに、書店で脚本がそこまで売られていない現状はとても不思議ですが……。ぜひ手に取ってほしいと思っています。

【取材・文:太田祥暉(TARKUS)】

會川昇/あいかわ・しょう
1965年生まれ。「亜空大作戦スラングル」で脚本家デビュー。「カードファイト!! ヴァンガード」シリーズ脚本など
★長編「オービタル・クリスマス」クラウドファンディング情報はこちら
クラウドファンディングは5月7日(火)23:59まで受付中

虚淵玄/うろぶち・げん
1972年生まれ。PCゲーム「Phantom PHANTOM OF INFERNO」で企画・シナリオを務めデビュー。「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」脚本など

★「第2回新潟国際アニメーション映画祭」の詳細なレポート記事は、現在発売中のニュータイプ5月号でも掲載しています!

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