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「第十九回 声優アワード」助演声優賞・日笠陽子インタビュー 「声優のキャリアにおける新しい宝物との出会い」

2025年3月15日、2024年度に最も活躍した声優を讃える「第十九回 声優アワード」の受賞者が発表されました。本稿では、助演声優賞を受賞した日笠陽子さんのオフィシャルインタビューをお届けします。



――助演声優賞受賞の一報を受けたときのお気持ちを教えてください。
日笠 さまざまな巡り合わせで、個人としては初めて受賞の機会をいただきました。受賞の一報を受けたとき、最初に湧き上がった気持ちは「感謝」でした。2024年に声優事務所i.nariを立ち上げたこともあり、私が声優として役をまっとうできているのは、支えてくれるスタッフがいるからこそだという気持ちを新たにしました。この賞を受賞できたことが、スタッフへの恩返しのひとつになるといいなと思っています。

――「PLUTO」では、日本のアニメ史に名を残すロボットでもあるアトムを演じました。
日笠 手塚治虫先生の代表作「鉄腕アトム」のエピソードを、浦沢直樹先生が描いた「PLUTO」は、圧倒的な魅力を備えた作品です。さらに、日本を代表するようなキャラクターであるアトムを演じるということで、初回のアフレコではとても緊張したことを覚えています。AIやロボットが現実的になりつつある今、「PLUTO」に登場するロボットは夢物語ではなくなりました。そのなかで、デジタルの存在に「心」があるのかという深いテーマに私自身も向き合いました。

――アトムというキャラクターにはどのようにアプローチをしたのでしょうか。
日笠 ロボットを演じる表現手法としての典型的なパターンは、カタコトの口調を織り交ぜる、あるいは合成音声のようにフラットなしゃべり方をするなどがあります。でも私は、私たち人間と同じような話し方でアトムを表現したいと考えました。課題となってくるのが、感情の源泉となる心の存在です。それはアトムの経験から生まれてくるものと解釈したんです。親に見捨てられサーカスに売られたことや、平和維持軍での人の死に向き合うなど、 “悲しい”とされる出来事をアトムは経験してきました。一方で、ヒーローと称えられながら、普通の少年を演じて生きていく。その一連の過程が、アトムの心の基盤になっていったのだと考えました。私たちも、辛いときに楽しいフリをしていると、いつのまにか気持ちが軽くなっていることがありますよね。そうやって演じることが、心を形作ると思うんです。

――人の心と、ロボットの心の差を表現するのは非常に難易度が高そうに思えます。
日笠 10年前の私なら、アトムを演じることはできなかったでしょうね。その意味では、キャリアの集大成です。それと同時にチャレンジでもありました。私はお姉さんキャラを演じることが多く、少年役はほぼ未経験でした。「PLUTO」が放送された後、「アトム役が日笠さんだと気づかなかったよ」という声とともに、「新鮮でよかった」と言ってくれる方が多くて。アトムという役への挑戦が、私のキャリアにおける新しい宝物になりました。

――一方で、「シャングリラ・フロンティア」のアーサー・ペンシルゴンは、アトムとは対照的な破天荒なキャラクターです。
日笠 一見すると、ペンシルゴンは、ゲーム内でプレイヤーキルを楽しむ自由奔放なキャラクターのように思えます。ですが、NPC(ノンプレイヤーキャラクー)に感情移入し、その願いを叶えるために全力を尽くすという、温かさと共感力ももった人物です。そんなペンシルゴンの人間味を序盤から滲み出させるにはどうすればいいか、音響監督の藤田亜紀子さんと時間をかけて話し合いました。ひとりの人間を演じるのには、たくさんの時間と労力、そしてキャラクターへの思いが必要だとあらためて気づかせてくれたのがペンシルゴンでした。



――日笠さんが役に向き合うときは、いろいろな方と話し合うことが多いのでしょうか。
日笠 役者さんによって役へのアプローチは異なりますが、私の場合はひとりで考えるよりも、周りの意見を求めるタイプですね。なぜなら、人は多面的な存在だからです。私が感じるキャラクターの特徴と、ほかの人から見える特徴は異なることも多くあります。でも、そのすべてが正解だと思うんです。キャラクターに対するさまざまな印象を代表して演じることが、声優としての私の役割であると考えています。

――先ほどお話にもありましたが、i.nariを立ち上げられたことで、今後、声優としてだけではない活躍の幅が広がりそうですね。
日笠 声優は、アフレコ以外でも役について考えたり、キャラクターとして歌を歌ったり、トークをしたりと求められることが多い仕事です。i.nariは、そんな頑張っている声優や、支えてくれるスタッフたちが安心して戻ってこられる場所にしたいと考えています。その一環として、女性が安心して出産や育児をできるように、社内で託児所を作ることもひとつの目標としています。こうやって私が声優としても事務所の代表として活動できているのも、スタッフや作品、そして応援してくださる皆さんのおかげです。助演声優賞の肩書きに負けないよう、これからも、自分の信念をもって活動していきたいと思いますので、見守ってもらえればうれしいです。



【撮影:田上富実子/取材・文:星政明】

■第十九回 声優アワード 受賞者及び受賞作品
主演声優賞=岡咲美保、関俊彦
助演声優賞=木内秀信、瀬戸麻沙美、東地宏樹、日笠陽子
新人声優賞=石橋陽彩、鵜澤正太郎、七海ひろき、はやしりか、結川あさき
歌唱賞=ブレイバーン(CV:鈴村健一)
パーソナリティ賞=該当者なし
外国映画・ドラマ賞=内田真礼、ファイルーズあい
ゲーム賞=「龍が如く8」
シナジー賞=「機動戦士ガンダムSEED」シリーズ
富山敬・高橋和枝賞=保志総一朗、山崎和佳奈
キッズファミリー賞=羽多野渉
インフルエンサー賞=木村昴
MVS=中村悠一
功労賞=岡本茉利、野田圭一
特別功労賞=今回は、特別功労賞に代えて、本年度ご逝去された声優を顕彰しました
特別賞=「ルックバック」

リンク:「声優アワード」公式サイト
    「声優アワード」公式X(Twitter)・@seiyuawards

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