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文章を綴ることで見えた自分の気持ち——「花より漫画」神尾葉子インタビュー【前編】

「花より漫画」書影


累計発行部数6100万部を超える少女漫画の金字塔「花より男子」の作者・神尾葉子先生が、自身初となるエッセイ集「花より漫画」を刊行しました。「花男」の誕生秘話やキャラクターたちへの知られざる思い、漫画家としての原点と紆余曲折を主軸に、あたたかさとユーモア、あるいは切なさがきらめく日常がやわらかなことばで綴られています。

刊行を記念した本インタビューでは、エッセイを書かれた思いから、神尾先生の最新作——Netflixにて2026年1月15日より世界独占配信が決定している完全新作アニメシリーズ「プリズム輪舞曲」についてまで、前後編に渡り、たっぷりお話をうかがいました。


著者による近影


——神尾先生にとって初めてのエッセイ集リリースになります。書かれたきっかけはあったのでしょうか?
神尾 数十年来の友人で編集者の斉藤(直美)さんと「いつかいっしょに本出したいね」と話していたんです。それが今年の頭くらいに、エッセイを書きたいという気持ちがぐっと湧き上がり、じゃあ、すぐやろうということになって、なんとか年内刊行に間に合った、という感じでした。もともとエッセイを読むのがすごく好きで、自分もいつかエッセイを出してみたいな、という漠然とした思いがあったんですよね。

——漫画って紙媒体に掲載された作品は、コマ外に漫画家さんのつぶやきが書き込まれていたり、掲載時は広告欄だった枠に単行本時に近況が描きこまれていたりするので、読者としては漫画家さんのエッセイというのは、とてもなじみ深い感触があります。
神尾 そうそう。私もその広告欄の部分に日々のことを描いてたんですけど、「本編は『マーガレット』で読んでいますが、 4分の1ページ(広告欄)目当てで単行本買ってます!」という方がたくさんいらっしゃいました。なので、おっしゃるとおり、その延長線上のイメージで「花より漫画」を書かせていただきました。でも、まるっと文章で書くというのは、やっぱり初めは苦心しましたね。 ‎

——各エッセイのテーマ決めはどのようにしていきましたか?
神尾 回顧録と言いますか、主軸としては「花より男子」のことをじっくり思い出しながら綴ろうと思いました。書いていると、そうか、私はこんな風に考えてたんだと新たな発見がありました。

——牧野つくしと道明寺司、つくしと花沢類の関係値のエピソードも、ドキドキしながら拝読しました。どんなに軌道修正しても、どうしてもつくしが道明寺に向かってしまう、と。
神尾 この子(つくし)は本当に苦労したいんだな……とか、ちょっと他人事みたいに思うこともありました。つくしと出会う前の道明寺は、だいぶひどいことをしていたので、どうやって描いていこうかって悩ましくて。おバカというか抜けてる感じを描写していったら、小学生の男の子が好きな女の子に突っかかっちゃう、みたいなニュアンスを帯びてきて。つくしと会ったことで道明寺自身も少しずつ成長して、ようやく読者の方に認められていった、という感じでしたね。

——お腹がよじれるくらい笑わせてくれるのも道明寺でした。一方、類は、永遠の……。
神尾 はい、王子様ですね。ただ、私にとっては、いちばん難しい人でもありました。物語の中で多くを語らないキャラクターだったので、このエッセイを書く中で初めて類にしっかり向き合えたのかもしれない、と思いました。類はこのとき、どういう気持ちだったんだろう?とか考えていくと、実は静かに燃えているキャラだったんだな、ということが見えてきて、すごく新鮮でした。

——漫画を描いているときにはあまり意識してなかった?
神尾 つくしが傷ついた時に癒してくれる優しい……泉のような存在だったんですけど、そのときの彼自身を振り返ってみると、しっかり情熱的だし、強い意志があったんだってわかる。心の内側はこんなに熱かったんだって、あらためて気づかされました。

——西門総二郎、美作あきらについてのくだりも印象的でした。エッセイでは「西門と美作を置き去りにしてしまった」と書かれていますが、でも、2人ともすごい魅力的で、本当に「やばい、この4人選べない」って思う瞬間が多々ありました。
神尾 ありがとうございます。私としても理想は、誰が主人公の相手役になってもいい、というような感じで描きたかったんですけど、まあ、なかなかそれが……強キャラが2人もいたので。後半で西門の話を書く余裕が出てきて、終盤には美作のエピソードも描けてよかったです。

——連載中というのはやはり、俯瞰して見渡すというよりはドラマの中に視点をぐっと入れて描いている感覚なのでしょうか。
神尾 「花より男子」を連載していた「マーガレット」は隔週刊の漫画誌なので、月刊の少女漫画誌に比べて、すごくスピーディーだったんです。私自身もともと週刊の少年漫画が好きだったんですけど、週刊漫画ってページ数が少ない分、毎回最後に引きがあるので、「花男」も当初そういう漫画にしたいって考えていました。実際、ちょっと少年漫画っぽいねって、よく言われるんですよね。なので、ストーリーをぐんぐん展開させていくことにまず注力していたので、は……っと気づくと、類がひとりで立ち尽くしちゃっていたり。それはそれで個性になったと思うんですけど、とにかく道明寺の押しが強すぎて。

——そうですね、道明寺が。
神尾 グリグリグリグリいっちゃって、もう隙間がないというか(笑)。でも、あらためて本に書くことで、こういう子たちだったなって、しみじみと思いました。

——神尾先生が漫画家になられた瞬間の熱を描写した「漫画家になる日」というエピソードも印象的でした。
神尾 ひと晩で30ページのネームを仕上げ、10日で30ページ描いたと言うと、みなさん驚かれるんですが、でも本当にひどい出来だったんですよ。漫画を描いた経験も16ページを一度仕上げたことがある程度で、これが2作目だったので、定規もまともに使えてなかった。でも、まあ、描きあげて賞に応募して。本にも書きましたけど、それでもう気が済んでしまって。

——賞のことを忘れていたと書かれていますね。
神尾 そうなんですよ。そんなものだったから、そこから5年くらいはものすごく苦労しました。絵もへただし、お話の作り方もまったくわかってなかった。なので、あらためて基礎を勉強して。風景画は子供のころから油絵を描いていたんですけど、人物を描くのはまた違うので、クロッキーとかデッサンの教室に通って、裸婦像を描いたり、アンドリュー・ルーミスの本で勉強したり、肩甲骨の構造とかを知って。でも、本当に成長遅くて、もっと頑張らないとって担当さんから言われてましたし、なんとか連載させていただいていた作品も打ち切りになってしまった。この世の誰も私の漫画を読んでないんだ、という気持ちでした。つらくて、こんなに打たれ弱い私は、この仕事向いてないなと思って、次の作品が終わったらやめようと考えてたんですよね。

——それが「花より男子」だった。
神尾 はい、それが。きっと思い切っていろいろやったのがよかったんだと思います。もう最後だから何でもやってやれと思って。

——でも、打たれ弱いというお言葉を聞くと、エッセイで明かされているYさんからの厳しい〝ファンレター〟は大丈夫だったのかしら?と思い浮かびます。詳細はぜひ本で読んでいただきたい部分ですが、新人漫画家さんに届くというYさんからの手紙、かなりインパクトのあるエピソードでした。
神尾 ズバズバ書かれているので落ち込んじゃうタイプの作家さんもいると思うんですけど、私はYさんの〝ファンレター〟でショックを受けたことはなくて。むしろ、いただくのが楽しみだったんですよね。そもそも新人のころなので、お手紙をいただくことがあまりなかったですし、文章を書いて封筒に入れて切手貼ってポストに投函してくださるのって、それだけですごい労力を割いてくださっているわけで、本当にありがたかったです。毎週のようにくださった時期もあって、筋肉の解剖図が描かれてたりするのを見たときにはぎょっとしましたけど。「オペラ座の怪人」の怪人みたいな存在なんです。不思議で有意義なやりとりでした。私は作品で返すことしかできてないんですけれど。

★メディアミックスへの思いや「プリズム輪舞曲」について語られる後編へ続く!

【取材・文 ワダヒトミ】


「花より漫画」
●発売中
著者:神尾葉子
定価:1,870円 (本体1,700円+税)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322507001259/

Netflixシリーズ「プリズム輪舞曲」
1月15日より世界独占配信

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