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ニュータイプ2026年7月号(2026年6月10日発売)のBOOKページにて掲載した「ファイア・ドーム」著者:辻村深月インタビューを、WebNewtypeにて公開いたします。皆さまお楽しみください。
「ファイア・ドーム」(上)書影
「ファイア・ドーム」(下)書影
「どうしても私が書きたかった物語であり、テーマでした。作家として目標としてきた大きな課題をひとつ、やり遂げた気持ちです」
連載を含め7年間という執筆期間を振り返り思いを語る。つづられたのは上下巻からなる、現代長編ミステリー。
「今年でデビュー22周年を迎えますが、当初は20周年記念刊行をめざして執筆していました。長く手もとにありすぎて、一瞬ですが、『もう、世に出さずともいいんじゃないか?』とすら思ってしまいました」
しかし、書きつづけたのには理由がある。
「デビュー当時からずっと、現代の刑事事件を題材にした長編ミステリー小説を、と依頼をし続けてくださった方が担当編集者で。いつか、こたえたいと思っていました」
けれど迷いもあった。
「さまざまなものを書いてきたからこそ、今の自分がミステリーを書くことにどんな意味があるのかを考えました。事件は誰かの不幸を描くことでもある。若いころのように衝動だけで題材を選び取る書き方はできないと感じました」
たどり着いたのは自身がずっと感じていた、大きな事件が起きた際の人々の心の有り様にまつわる物語だった。
「大きな事件に人は魅了されてしまう。知り合いが関係者だからとか、地元だから知っているとか、事件が身近であればあるほど、自分とのかかわりを探して語りたくなってしまう。多くの人が、多かれ少なかれ、そんな経験があると思います。それってなぜなのか、書きながら考えてみたかったんです」
舞台は北陸の地方都市。かつて残酷な誘拐殺人事件が起こり、その際に被害者とその家族にまつわるひどい噂が立った土地だ。──そして同じ場所で再び事件が起こる。
「今はSNSによる誹謗中傷が問題になっていますが、それ以前から人の好奇心や興味が誰かを傷つけてきたことを、過去と現在、両方の事件を通じてていねいに描きたいと思いました」
タイトルの「ファイア・ドーム」は、そうした噂が街に蔓延するようすを示している。
「スノードームの中で雪が舞い散るように、ひとたび事件に揺れた小さな町に噂の炎が舞い散るイメージが浮かび、それがタイトルになりました。一見平穏になったように見えても新しい事件で揺れれば、また容易く火の粉が舞う。噂の恐ろしさと狭い空間で出口のない状況の両方を表したことばです」
視点人物のひとりに、桜木透真という新聞記者がいる。物語の終盤、事件の関係者たちとともに真相を追うなかで、彼は報道のあり方やその責任、意義を考えていく。彼の葛藤は、誰もが発言を自由にできるようになった現代に生きる私たちの胸にも突きつけられるものだ。
「作中の透真が書いたとされる新聞記事は、当初は全部、本文がなかったんです。改稿の過程で担当編集者から本文もすべてあったほうがいい、と指摘されて。小説と流儀がまったく違う新聞記事を書くのはとても大変で、新しい挑戦でした。ひとつの謎が解決して、著者自身もほっとしていると、『読者が次に引き込まれる謎を次の展開ですぐに用意してください』と言われる。勉強になったし、まるで現代推理小説の強化合宿に参加しているようでした」
ただ、ずっと手探りだったとも。
「各章の終わりに毎回山場がくるように心がけて書いていて、それを終えたらもう抜け殻のような状態になっていたのですが、不思議と登場人物たちが次の展開につれていってくれる感覚がありました」
大作を書き上げた今、思うことは。
「読者の方から、どんな事件や題材を描いていても、やはり辻村深月の小説だった、と言っていただけたことがうれしかった。私にしか書けないミステリー小説を書くことがずっと夢でした」
そこにあるのは、これまでの著書にも宿る揺るがない物差しであり、温かな眼差しだ。
「もし、私にそういった芯みたいなものがあるとしたら先達のおかげです。これまでに多くの小説、まんが、アニメといった創作物をたくさん浴びて、それが私の物の見方や倫理観、何がかっこいいのかという基準をつくってくれた。今回、私がそれらを誰かに渡す側になることができていたら、最高に幸せだなと思います」
辻村深月●つじむら・みずき/'04年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。'11年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、'12年「鍵のない夢を見る」で第147回直木三十五賞を受賞。「かがみの孤城」で'18年本屋大賞を受賞ほか、著書多数
【取材・文:おーちようこ】
「ファイア・ドーム」(上・下)
著者:辻村深月
定価:税込各2090円
発売中
判型:四六判
ページ数:上巻 464ページ/下巻 432ページ
ISBN 上巻 9784093867696/下巻 9784093867702
小学館 https://www.shogakukan.co.jp/books/volume/54665?all=true
老舗百貨店にかかってきた、1本の外線電話。それは地元新聞社から、受付嬢の新沼紗英への取材依頼のはずだった。25年前の夏、平穏な地方都市で起こった事件にまつわる噂とは。上下巻で贈られる圧巻の物語は読む者の心を必ず写し出す。文芸誌連載を経て上梓された。