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「エヴァ」の気持ちのいい“間”を覚えて――「シン・エヴァンゲリオン劇場版」編集・辻田恵美インタビュー

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中
「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は好評公開中(C)カラー

公開中の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。完結編となる本作について、そして「エヴァンゲリオン」シリーズについて編集の辻田恵美さんにお話を伺いました。

――辻田さんは「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の初号試写をご覧になって、どんなお気持ちになりましたか。

辻田 作業をしているときは、完成したものを観たらたぶん泣いちゃうだろうなと思っていたんです。でも、実際に観たら、そうはならなかったですね。ただ終わりをニュートラルな気持ちで観ていました。

――辻田さんは「エヴァンゲリオン」という作品にどんな思いを抱かれていたのでしょうか。

辻田 もともとは、ただのファンでした。専門学校が映像の学校だったので、まわりに「エヴァ」ファンが多くて。「これは観ておいたほうがいい」という感じもあって、そのときに初めて「エヴァ」を観たんです。そうしたらどっぷりとハマってしまいまして、ファンになってしまったんです。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のときに編集だった李(英美)さんが、私が「エヴァ」ファンだから、ということで呼んでくださったんです。

――「:Q」の編集の李英美さんは、実写映画でも活躍されている方です(李さんの近作は黒沢清監督作品「スパイの妻〈劇場版〉」)。辻田さんにとって、李さんはどんな方なのですか?

辻田 李さんは、私に最初に編集助手の仕事を教えてくださった方です。お声がけをいただいたので、「:Q」のときは編集助手として、スタジオカラーに通うようになりました。

――「:Q」の編集のお仕事はどうでしたか。当時の思い出をお聞かせください。

辻田 記憶を失ってしまうくらい大変な仕事でした(笑)。あまりに大変すぎて、もう細かいことが思い出せないですね。当時は編集助手でしたし、いろいろな環境が今と違ったんです。たとえば、編集中にリテイクが出ると、その内容を付箋に書いて、別室で作業をしている制作やスタッフのもとに伝えに行くのですが、行っているうちに、編集室では作業が進んでいて、違う出来事が起きている。編集室に戻ったら「さっきのリテイクはなしで」となっていることもよくありました。「:Q」のときはまだよくわかっていなかったので、スタジオの中で右往左往していたんですよね。今(「シン・」)ではSlackなどでスタッフに伝えられるようになりましたし、リテイクが出ても落ち着いて「ここはすぐに伝えなくても大丈夫かな」と判断ができるようになりました。「シン・」で庵野(秀明)さんと編集作業をこなしていくうちに、だんだんうまく対応できるようになっていきました。

――「エヴァ」の映像には独特なカットのリズム感がありますが、編集作業をするときには、そういった「エヴァ」特有のテンポやリズムを意識されているのでしょうか。

辻田 「エヴァ」は庵野さんの気持ちいい間がなんとなく決まっているんです。たとえばセリフの前後に何コマ残すか(セリフを含むカットの長さ)は大まかに決まっているので、基本はそれに則って作業をしています。「シン・」の3年の作業のうちに、そういったルールをだんだん覚えていきました。

――辻田さんがアニメの編集をした経験は、スタジオカラー作品(「日本アニメ(ーター)見本市」作品)のみとのことですが、そのときは「エヴァ」とは違うテンポ感で編集されていたのでしょうか。

辻田 そうですね。「日本アニメ(ーター)見本市」のときは、カットを、画コンテの指示通りに、ほぼそのまま並べていくような感じだったんです。でも「シン・」では(最初の段階ではプリヴィズをつくるので)まず編集側でアニメーターさんが描くために間尺を決めていく作業を最初にするんです。庵野さんが毎日、編集室に来て、そこで決めていきました。

――「シン・」のプリヴィズをつくるために編集作業をしているときは、庵野さんとどんなやり取りをされたのでしょうか。

辻田 庵野さんは編集室でカットのアングルについて悩んでいることが多かったです。悩んで決めて、翌日になったら変えて、さらに翌日変えてと。そういうことはよくあることでしたね。編集中はそれが良いと思っていても、一日置いてみると、やっぱり違うとなるようです。

――辻田さんも粘り強く、日々お仕事されていたんですね。編集室に籠って進めていくお仕事はいかがでしたか。

辻田 今回は比較的、深夜までかかることなく作業を進めることができたんです。「:Q」のときは編集助手だったので、編集作業が終わったあとに、データの書き出し作業がありました。当時は今よりもマシンスペックも高くなかったので、その作業の時間がすごくかかったんです。でも、今回はそこまで厳しい状況ではありませんでした。新型コロナの感染対策に対応しなくてはいけなくなってしまったということも、大きかったと思いますが。

――「シン・」は公開後、大きな反響を呼んでいるようです。辻田さんのもとに何か反響はありましたか。

辻田 私の友だちは、私が「エヴァ」ファンだったことを知っているので、今回はいろいろな人から連絡をいただきました。

――ちなみに辻田さんが「エヴァ」のお好きなキャラクターはどなたなんですか?

辻田 好きなキャラはアスカですね……。アスカはまた辛いポジションだな、と思っていました。でも、Bパートのシンジとの会話シーンや、Dパートの最後の海辺のシーンは……実は私はアフレコも立ち会っていたんですが、収録を聴いていて、アフレコ会場でうるっと来てしまいました。「シン・」に関わることができて良かったです。

(プロフィール)
●つじた・えみ/「ジョーカー・ゲーム」「22年目の告白―私が殺人犯です―」ほか実写映画作品を中心に活動する。「:Q」では撮影助手を務める。そのほかにアニメ作品としては「日本アニメ(ーター)見本市」の「カセットガール」などに参加している

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「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が表紙のニュータイプ6月号は好評発売中
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【取材・文:志田英邦】

リンク:「エヴァンゲリオン」公式サイト
    公式Twitter・@evangelion_co

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